第3話 Fantasy
くそっ、分からない。マジで理解不能だ。
人造ライダーが何だって?
マスターさん……アンタ本当に何を言ってるんだ?
分かる人がいるなら出てきてくれ!褒美をやろう!
俺のベロチューだがなっ!
話が全く理解できないで、思考の海に現実逃避している俺に、マスターさんの攻撃――いやさ、口撃が続く。
ずっと、彼のターンだ。
「理解してないか……では、涼君はライト小説や漫画を読むか?ゲームは好きか?」
「えっ、ええ。読みますし、好きですよ」
思考が纏まらず、突然の質問にどもりながらも答える。
まぁ、俺はそれだけでなく、アニメやゲームなどサブカルチャー大好きだ。
つまり大好物です。
「異世界転生や異世界転移モノの作品って知ってるか?」
「ええ。た、例えば「突然異世界に召喚されて、魔王倒してこい!」とか「チート能力で成り上がる!」とか「公衆便所から異世界に転移してマの付く職業に就く」みたいな作品ですよね?」
テンパっていても、こんなことならすぐに答えられる自分にビックリだ。
異世界ねぇ……
「そうだ。なら、話が早い。涼君、ここは異世界だ!」
「……マジで?」
「マジで!」
流石、俺の夢。
妄想をたっぷり詰め込んだ長作らしい。
「……ははっ……ははははっ」
俺は手で顔を覆い笑い出した。
人間、本当に追い込まれると笑いが漏れるんだな。
あっ、ここで一旦CMでーす。
○●○●○
さて、CMも開け夢から覚めたと思いますが……現実はそんなに甘くない。
このCMという名の思考停止の時間、俺は落ち着くところから始まり、次にこれが夢かを再確認し、マスターさんに疑問に思ったことを全部質問した。
してやったさ!
落ち着くには5分もあれば十分で、夢かは思いっきり自分を殴り、痛すぎて悶絶という結果になった。
最後に今の自分の状況は……そうだな、もう順を追って説明していこうと思う。
俺も訳分からんし。
マスターさんの話をまとめると、こんな感じとなった。
まず初めに、ここは『アヴァン』と言われる地球とは異なる世界。
異なる『理』を持った世界、つまり「異世界」らしい。
しかも、この世界は、剣と魔法のファンタジー世界。
そう、魔法があり、勇者も魔王も獣人もエルフも冒険者も魔物もいる、全くもってファンタジーな世界なのだ。
ここで「マスターさんみたいな日本人がなぜいるのか?」と聞いてみたら、たまにいろんな世界から召喚されたり、迷い込んでくる人がいるとのことだ。
たぶん、俺もその一人なのだろう。
てか、召喚ってカッコイイ言い方してるけど、誘拐という立派な犯罪だからな!
次に、俺がこの宿にいる理由だ。
昨日マスターさんが山に狩りに行った帰り、何か魔物の死体なのか、ただのゴミなのか分からないような人らしき物体(←これ俺ね)を発見したんだと。
それがまぁ、先に述べたように魔物の死体と間違えられる程、俺の肉体の損傷が激しかったらしい。
きっと、モザイクや規制が入るレベルなんだろうな。
マスターさんは、今思うとなぜ生きてるのか不思議なぐらいだったとか。
それでマスターさんは、とっさに俺に回復魔法を使ってくれたんですよ。
奥さん聞きました?魔法だってよ。凄いね!
しかし、効果がないどころか、注いだ魔力が抜け出す。
こいつは困った。
とりあえず、治療のために「お持ち帰り〜♪」からの改造手術、仮面ラ○ダー涼の誕生。
そして伝説に――
最後に伝説となった俺についてだ。
まぁ「お持ち帰り〜♪」の経緯を前では端折ったが詳しく説明しようと思う。
この世界の生きとし生けるものには『魔核』と言われる不思議物質が体の中にある。
こんな話は関係ないように感じるかもしれないが聞いてほしい。
回復魔法とは、その『魔核』に『魔力』で干渉し、体内に『魔力』を廻らせ活性化させ、体力や細胞などを回復させる魔法である。
この『魔核』なのだが、これはモチロンこの世界の人間にもある。
しかし、俺はこの世界の人間ではないので、そんなファンタジー器官があるはずもなく、回復魔法が効かなかった訳ですよ。
そこで、魔核がない事に気付いた元地球人のマスターさんは、なんとか治療する方法がないかと、急いでこの街の研究所に連れ帰ったのだ。
そしたら、研究所の所長さんが「魔核がないなら埋め込めばいいじゃない?」と、どこぞのお国のマリーさんを彷彿とさせる考えで、魔核を俺の体内にぶち込んだんだと。
そこからは、回復魔法による生命力の底上げと、あの事故でもうダメになった俺の体の右側部分と内臓の除去作業と、代わりの器官を取り付ける改造手術が行われたんですよー。
そうして、手術は成功してみんなが大好きな人造ライダー様と相成った訳ですな。
てか、人造ライダーじゃなくて、改造人間じゃないのかな?
きっと、名前はマスターさんの趣味なのだろうが……
そういえば、皆さまの中には疑問に感じていた人もいたでしょうが、俺の右腕が黒かった理由は義手だってさ。
しかも、魔法義手とかなんともファンタジーなものだったと。
さらに衝撃な事実は、俺の右腕だけでなく右目と右足も義眼と義足なんだと。
いやぁ、違和感無さ過ぎて全く気が付かなかったよ。ヤバいよねー。
これで「俺の右手がぁぁぁああああ!」みたいな中二病ごっこができるよ。
まぁ、しないけどさ……本当に!ホントだYO!
とまぁ、こんなことが俺が寝てる間にあった出来事なのだが、ぶっちゃけ無理だわー。
いくら俺が元中二病患者でも、いきなりこれを全て理解し、全てを受け入れるのはキツイ。
俺にはそんな懐の広さなんてない。
でも、それでも死にかけになってのは、薄っすら覚えているし本当の事なのだろう。
それに俺の命を救ってくれたのは、今俺の目の前にいるナイスガイのマスターさんな訳なのだから、礼を尽くさなければならないな。
俺は姿勢を正しマスターさんと向かい合う。
「マスターさん、命を救っていただきありがとうございました」
「あーいや、勝手に改造して悪かったな」
マスターさんがさっきまでの態度と違い、勝手に改造したことに罪悪感があるのか、申し訳なさそうに謝った。
「いえ、実際私も事故にあった時は死を覚悟しましたから、正直どんな形であれ、命があっただけでも儲けもんですよ」
これは、自分の本心だ。
助けてもらって感謝こそあっても、怨むようなことはない。
命あってなんぼだ。
ただ「いきなり人間辞めました!」は、まぁなんか不満ではないが、なんだろう?
何か心にくるものがあるのは否定できないが。
「そうか……そう言ってくれると助けた甲斐があったな。まぁ、体の方も本調子ではないだろうから、今は寝ておいた方がいい。うちは宿屋だからゆっくりしていくといいさ」
「はい」
「それと……涼君の頭の中はまだ混乱していると思うから、今後の事は明日にでも話そう。最後に、何かあったら一階にいるから言ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
マスターさんは安堵の表情を浮かべた後、軽く笑い席を立ってドアの方へ向かう。
「助けていただき、本当にありがとうございます」
俺は部屋から出て行こうとするマスターさんに頭を下げもう一度礼を言った。
すると、マスターさんは「おう」とだけ短い返事を返し右手をヒラヒラさせて出て行った。
ドアが閉まると部屋を静寂が支配する。
いろいろと聞いて気疲れからなのか、それとも体力的なものなのか、急に思い出したかの様に睡魔が襲ってくる。
そうだな、いろんな事は明日の俺に任せて、まずは体力の回復からだ。
「おやすみ……Zzz」
そして、俺は眠りについた。
「むにゃむにゃ、それにしてもいい男だったな。マスターさん……じゅるり」
こうして、俺の、ファンタジー世界でヒャッハーな生活が幕を開けた。
※もーほーじゃないよ!