第27話 Dirty Little Secret
俺たちはマスターさんとの修業で一旦合格をいただいた。
なぜか俺には合格した記憶がなかった。クロに理由を聞くが、クロは口を硬く閉ざし何も教えてくれなかった。マスターさん曰く、『見事、隙をついて一撃をいれた』らしい。俺もやればできる子なのだろうか?
そして、体力の限界が来て倒れた俺を、マスターさんが宿まで担いで帰り、看病してくれたらしい。マスターさんはなんていい人なんだろうね!え?嘘?まさかー!
おっと、話を戻そうか。
俺たちはマスターさんとの約束通り、これからリベンジをするのだ。
さて、俺がこの2カ月の間何もせずに、ずっとマスターさんにボコボコにされていた訳ではないのだ。俺は計画を立てていた。崇高なる目的の為の計画だ。
ふははははー!これから語るのは完璧な計画だ。これなら、俺たちの目的を達成できる。もはや、俺の事を『軍師』と呼んでくれてもよくってよ!
おっと、熱くなってしまったな。大丈夫、問題ない。何も問題ないさ。
時刻は深夜。
「では、これよりオペレーション『神々の黄昏』の計画を説明します。詳細は、私が説明しますので、お手元の資料を見て下さい」
俺とマスターさんとクロは、今俺の部屋にいる。俺が作った企画書を皆に配り目を通してもらいながら作戦会議を行っている。
昨晩、俺は夜を徹して資料を3部作った。正直口頭だけでもよかったのだが、これは俺がこの計画に懸けている事を少しでも皆に伝わるようにだ。
「涼君はこういう才能もあったんだな……」
「ええ。今回はしくじる訳にはいきませんからね」
「にゃ?にゃ?」
クロはいつも通り、これから何が起こるか聞かされていないので戸惑っているが、無視して俺は話を続ける。
「まず、一枚目をご覧ください。今回は『復讐』を目標にしたいと思います。今回のメインターゲットは資料にあるとおりパラスです。これより彼女の事はコードネーム『戦女神』です。そして、このミッションの成功条件は≪この『戦女神』を羞恥の表情に染めること≫です。そうすれば我々の勝ちになります。これは間違わないようお願いします」
俺はマスターさんとクロの顔を見ながら真剣に言う。
「よろしいですね?次に2枚目です。ここでひとまず、我々の状況を整理しましょう。相手に与えた我々の情報は『仮面を付けた二人組』と『凄腕の風魔法使い』の二つです」
俺は少し間を開け、重苦しい気持を抑え続きを話す。
「今より2ヶ月前に我々のミッションは一度失敗しています。この時の我々の行く手を阻んだのは二人です。一人は今回ターゲットにもなっている『戦女神』。もう一人は、マオ=S=サトゥーン。つまり、おやっさんです。これより、コードネーム『魔王』と呼びます。戦女神は≪鉄壁≫の魔法により我々の楽しみを見事に阻止しました。そして、問題なのが……そう、魔王です」
俺は手をお手上げにしてから続きを述べる。
「この魔王の戦闘力は私の想像をはるかに凌駕していました。一度遭遇したら、その時点でこの任務失敗となります。とても馬鹿らしい存在です。なので、この方には我々の最高戦力である……マスターさんに当たってもいます」
「ほう?俺をアイツにぶつけるか?」
「ええ。だって、前はアテナちゃんに邪魔されて存分に戦えなかったでしょ?」
俺はマスターさんのやりたいことを的確に指摘する。あからさまに面倒事の押し付けと煽りなのだが……
「ふむ。乗せられるようで気に食わんが……この作戦の目的は『リベンジ』だしな。正直前の戦闘は不完全燃焼だったからな、俺もマオも。いいだろう。マオ改め、魔王は俺が引き受けよう」
「ありがとうございます」
俺は乗ってくれたマスターさんに礼を言い、話を進める。
「次に、先程も言いましたが、相手は我々が『二人組』だと思っています。ここで登場するのがこいつです」
俺はクロを指差すが、クロは自分が呼ばれ驚きながら俺を見る。
「にゃ?」
「そう、お前は並みの兵士では捕らえることが出来ないほどのスペックがあり、正体がバレていない。これは使えるんだよ。お前にやってほしい事は撹乱だ。今回の騒ぎで出てくるのはあの戦女神だけとは限らない。そこで、他の兵士の目をお前に集めたい。難しいと思うが……やれるか?」
俺はクロの目を見て真剣に語りかける。もしこれで、クロが出来ないと言ったら計画を一から練り直さなければならない。しかし、クロは俺の顔見てニヤリと笑い言うのだ。
「ご主人。私は貴方の剣にして盾にゃ!ご主人が望むとあれば、例え魔王……には無理だけど、なんとかするにゃ!」
「ああ、ありがとう」
俺はふっと笑いクロを撫でる。大丈夫、十分お前の気持ちは伝わったよ。
でもな、流石に俺もおやっさんとは戦わせないから安心しろ。
「これで作戦の障害はなくなりました。では、これより全容を説明します!はじめに――」
「――となります」
「なるほどな、悪くない」
「なるほどにゃ!」
俺は一人と一匹に説明し終え、マスターさんの淹れたコーヒーで一服する。
「質問や不服はありますか?」
「いや、これでいこう。後は、上手くいくことを祈るだけか?」
「そうですか……では、決行は明日の夜で問題ありませんか?」
「いや、夕方だ。ターゲットが捕まりやすい時間なら、この時間がベストだ。それによく言うだろ?何か不吉な事が起こるのは、逢魔時だって」
「なるほど。では、明日の昼の休憩で準備を完了し、夕方――逢魔時に決行ですね。ならば、作戦名も変えましょうか。オペレーション『逢魔時』ってのはどうです?」
「ああ、それっぽいな。中二臭がして、たまんねぇな!はははっ、お互い楽しもうじゃないか」
そして、俺たちは再び祈る。
嗚呼、そうだな。これをやらねば始らない。
「「我らの計画に神の加護があらんことを!」」
「にゃ!」
俺たちは頷き、計画を実行に移す。
さぁ、始めようか!俺プロデュースによる楽しい宴だ。
一緒に踊ってもらうぞ!我らの楽しみの邪魔をした愚かな小娘よ!!
こうして、今宵の夜も更けていくのだった。




