第23話 「F」
フリーザ
食材などを低温で保存する保管庫。
「やはり、涼君でもアイツの強さは分かるか?」
「いや、分からない人いないでしょう?覚えてますよね?俺が初めてあの人と会った時の光景を!俺のなけなしの生き物としての本能が『逃げろ!』と告げましたらね。警報機がガンガン鳴っててましたし」
「ああ、あれは面白かったなっ!」
そんな良い笑顔で言わないで下さいよ……怒れないだろ!
「まぁ、強いってことは分かりましたが……どれくらいなんですか?世界最強は?」
「そうだなぁ……魔核で分かりやすく例えるなら、涼君が30ぐらいで、クロが255だろ?」
「はい、そうですね」
魔核はレベル的なモノだったよな。どうせ255でしょ?とあるゲームだと2進数的な理由で上限が255だもんな。
「ちなみに涼君は勘違いしていると思うから言っておくが、ゲームと違って魔核の上限が255や999じゃないぞ?上限は確認されていないしな。つまり、猫もまだ成長するぞ?」
「なぜ分かったんですか?エスパーっすか?」
「涼君は考えていることが顔に出てるぞ?で、マオの魔核なんだが正確に測る方法がないから分からんが……大体だぞ?」
そう前置きをして、続きを述べる。というか、俺そんなに分かりやすい顔してるの?
「マオは53万だ」
「え?」
「53万だ」
「……フ○ーザ様っすか」
「まぁ、言った数字は適当だが、それ程かけ離れてるってことだ」
おうおう、こいつはやってられんな!まるで俺がゴミの様だ。てか、俺はあれだけ悪ふざけをして本当によく生きていたものだ。自分で自分を褒めてやりたい。
もう、おやっさんはアテナちゃんを俺に嫁がせて、宿屋を辞めて世界征服でもしたらいいのに。
「あんな人がこの世界に他にもいたりするんですか?」
「馬鹿野郎!あのレベルの化け物が、この世界にゴロゴロしていたらやってられんわ!」
ですよね!マスターさんの言う通りだ。あんなおっかないおやっさんは世界に一人で十分なのです。
「さて、雲の上の存在を追うより修業ですね」
「そうだな、少しここに来た目的を忘れかけていたぞ。それに涼君はあの嬢ちゃんには勝ちたいだろ?」
「ええ、いつかあの女にリベンジしますよ!」
さあ、やっと修業突入だよっと!
というか、クロよ。お前は俺の腕の中で和んでないで、修業するからどいてくれ……
「では、これより修業を始める!」
「うっす!」
「にゃ!」
俺とクロは返事を返す。なんかノリでクロも参加だ。この修業はクロが受けても意味がない気がするが、まぁ、そこはノリだ。
「よしっ!まずは戦闘の基本となる、『魔装』を身につけてもらう」
「はい、マスターユーリ!」
俺はすかさず挙手する。
「なんだね?涼君」
「『魔装』とは、なんでしょうか?」
「うむ。良い質問だ!10ポイント!」
「うしっ!あざっす!」
「にゃ!?」
もうなんか、俺たちのテンションはアゲアゲっすわ。口調もテンションと共に変わっている。クロはこのテンションについてこれずに戸惑っている。早くこのテンションに慣れないと大変だぞ?
「説明しよう!『魔装』とは、魔力を身に纏い防御力や攻撃力、そして、身体能力を上げる技能の事を指す。これを身につけると、身につけないとでは、圧倒的に戦力差が開く。一流と言われる剣士や冒険者たちは、必ずと言っていい程この技能を身に付けている。これを身につけなければ、あの女に勝てないと思え!」
「はい!」
「にゃ!」
マスターさんはかけてもいないエアーメガネを、クイッと上げる仕草をし説明をしてくれる。アレか?博士くん的なやつか?それとも教師プレイか?
「いいか、よく見ておけ!ここを……こう、こうだ!」
そう言い、マスターさんは目に見えるほど濃い魔力を自分の周りに纏いだす。
「「おお!」」
「じゃあ、やってみろ!」
え?マジで?いきなりっすか?意味がわからんぞ?
俺はとりあえず、やってみる……ができない。まぁ、そうだろう。
「で、できません!」
「ノリと気合いでなんとかしろ!」
「はい!」
「違う!返事はイエスサーだ!」
「さ、サー。イエスサー!」
やばい。ノリがブレてきてるぞ。今度は軍隊式か?
「できたにゃ!」
「お前はできて当たり前だ!この糞猫がぁ!!涼君ができるまでそこらへんで虫と遊んで来い!」
「にゃ、ニャー。イエスニャー!」
クロは敬礼をしてから、さっきと同じように魔物と戯れに……いや、狩りに出かけた。マジでクロの扱いが雑過ぎる。
「涼君はまだできんのか?そうだな……コツはABBA→→←だ」
「ちょい待って!なんすか?そのコマンド!」
「復活の呪文だ」
「ちげぇよ!復活の呪文はもっとこう覚えにくくてだな、手元にメモがなくて代わりにティッシュの箱とかに書いてとって置いたら、いつの間にか親にゴミと間違えられて捨てられる『悲劇』の事でしょ?」
「だからあれほどノートに写せと言ったのに!はっはっはっ」
「あんた、知ってんじゃん!」
後、その笑い方止めて!地味にむかつくぞ!
「しょうがないから真面目に答えるが、初めは全身なんてできないから右手に集めて留める感じでやってみるんだ」
そう言いマスターさんは右手に魔力を纏う。そして、近くにあった岩を左手で殴った。すると、岩は粉々に砕けた。
「……すげぇ」
俺は感動した。魔力を纏うだけであの硬そうな岩を粉々にするほどの威力を持つなんて……
ん?いや待て。今左手で殴ったよな?
「マスターさん、今左手に魔装していましたか?」
「いや、生身だぞ?どうした?」
「なぜ右手を使わないんすか!?てか、右手の魔装と岩殴った意味は?」
「ノリだ!」
「ノリならしょうが……なくねえよ!もう騙されねえよ!」
俺のイライラゲージを貯めて、この人は一体どうするつもりだ!?超必殺技撃っちゃうぞ?俺は怒りを右手に集める。すると、少し暖かい何かで包まれる感じがしてくる。
「なんだ、やればできるじゃないか?」
「え?まじっすか?魔力の源ってマスターさんへの怒りですか?」
「……違う、と思いたいな」
「じゃあ、ちょっと威力を試してみますね?」
俺はそう言い、腰を落とし、突き出すように殴りつける。何をって?勿論マスターさんをだ!
「甘い!」
マスターさんは軽々と俺の攻撃を片手で受け止めて言った。
だが、俺の攻撃は終わらない。
「今だ!クロやれ!」
俺の掛け声と共にクロは背後から襲いかかる。クロはあの虫たちを軽々と切り刻んだ爪でマスターさんを狙う。
「殺ったか?」
「だから、甘いと言っているだろ?それに、それは失敗フラグだ」
マスターさんは振り返りもせずに、クロの攻撃を空いている方の手で止めた。結構ガチで倒しにいったのに、傷一つ付けれなかった。
流石、盗賊相手に一人で無双する力をお持ちだ。って事は、最低でも魔核は255あるのか?やっぱり、普通の酒場のマスターじゃないじゃん!
「では、ここから中級編だ!魔装とは魔力を体に纏うと言ったな?」
マスターさんは、俺とクロを掴んだままで話しだす。離して!あなたの仕返しが怖いから!
「ここで魔力を纏うとあるが、普段の魔力は属性でいうと『無属性』の魔力となる。そこで、纏う属性を変えてやるんだ。では、いくぞ?『疾きこと風の如く』≪魔力付与・風≫」
呪文を唱えた瞬間、マスターさんが消えた。俺は右手を突き出したままの、なんともカッコ悪い体勢だ。クロはいきなり空中に放り出されるが、地面に着く前に体勢を立て直す、流石猫だ。
「どうだ?凄いだろ?」
俺は背後からする声に振り返ろうとするが、俺の喉元に刀が突きつけられていた。
「……パネェっす」
俺は両手を上げ降参のポーズだ。マスターさんは俺の言葉を聞いて俺から離れる。そして、刀を鞘にしまい、俺に投げてよこした。
「ほら、刀は返すぞ」
俺は受け取り、やっと自分の刀が無くなっていることに気付いた。これは本当に凄い。
「そして猫よ」
「にゃ!?」
クロは名前を呼ばれただけで、すっげぇ震えてる。まぁ、本気で殺りにいったのに軽々と無力化されたからだろう。そして、俺同様に仕返しが怖いんだろうな。
「お前は最低でも属性変化の魔装を覚えろ。もったいない」
「にゃ!」
「おしっ!じゃあ、二人共魔装を使った組手いってみようか?」
「うっす!」
こうして、俺たちは夕方まで組手を続けた。
フリ○ザ様
とある人気な漫画やアニメに登場する、宇宙の帝王として恐れられる皆大好きな悪役。
人は敬意をこめて様付けで呼ぶ。




