第22話 ハナノイロ
モブキャラクター略してモブキャラ。
彼らは個々の名が明かされず、端役として直接物語に関係しない主要キャラ以外の群衆の事である。背景扱いされたりするが、偶に、名ゼリフをいただく。
例:「おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!」
「でだ、話を戻すぞ?」
マスターさんがもっともな事を言う。俺は起き上がり話を聞く。
そうだね、話が進まないもんね。
「今、俺たちは街で賊として手配されている。ということですよね?」
「ああ、その通りだ。全く、少し遊んだらこれだ……」
マスターさんがお手上げの仕草をしながら愚痴る。
「まいりましたね。これは、本格的に危険ですね。ですが……」
すうっと息を吸い、俺はいや、俺たちは次の言葉を力強く口に出す。
「「諦めるわけにはいかない!」」
流石マスターさんだ。分かっているぜ!
「ふむ。これで、俺と涼君の思いは同じだと分かった。となると、やはり涼君の修業が必須だな。これから事に及ぶ時、妨害があると考えた方がいいからな」
「やはり、そうですか……」
「ああ、警備兵にも意地とプライドがあるからな」
「にゃ!にゃ!」
俺とマスターさんが真剣に話している横で、猫は猫らしく虫と戯れている。ただ、普通の猫らしくないとしたら、その虫が全長を1メートル超えの魔物である事だ。何こいつ?もしかして、俺より強いの?
「ふと思ったんですが、この猫無駄にスペック高くないですか?」
「お?気づいたか?」
「ええ。そりゃこの光景を見れば……ね」
「にゃはははー♪」
猫は魔物を殲滅すると、死体から魔核を抜き取って俺の所に持って来た。これは、アレだ。猫がご主人様に狩った獲物を持ってきて「褒めて、褒めてー!」ってやつだな。
「ご主人!見て見て!魔核とってきたにゃ!」
「あ、ああ……」
この猫可愛いじゃないか……その、返り血さえなければな!とりあえず「よくやった」と言い、血を拭い撫でて褒めてやる。
「にゃはー♪」
「そういえば、まだ名前聞いてなかったな?というか、お前は名前あるのか?」
「にゃ?勿論あるにゃ!はっ!……あります」
猫はマスターさんの方を向き「しまったー」という表情をして『猫言葉』を直す。そんなに、マスターさんが怖いか?あれか?絶対的強者への野生の掟なのか?
「そのままの口調で構わん、続けろ」
「ありがとうございますにゃ!ボス!」
うん、なるほどね。群れで例えるなら、確かにこの人がボスだな。でもな、宿に帰ったらおやっさんもいるんだぞ?
「私の名前はノエルにゃ!」
「そうか、クロって言うんだな?俺はユーリだ。そして、お前のご主人様は涼君だ。よろしくな!」
マスターさんが猫に言う。あれ?難聴なのかしら?というか、元々聞く気がないよな?この人。
「わ、私の名前はノエ……クロにゃ!よろしくにゃ!」
屈したーーー!!!はやっ!!まじか!?いいんだ、それで!
「よしっ!じゃあ涼君が気になっている、こいつのスペック見とくか?」
「ええ。できれば今後、ノエ……クロと行動を共にするつもりですからね」
「ついでに、今後の修業の為にも涼君のも見とくか?変化してるかもしれんしな。よし、クロこっち来い!」
「にゃ!」
クロはマスターさんの元へダッシュで行き頭を垂れる。そして、マスターさんが頭に手を置こうとしたら「びくっ」ってなったのはご愛敬だ。マスターさんの空いた方の手を俺の頭に乗せる。
「いくぞ?『彼の者の力、彼の者の魂、彼の者の全てをここに』開け≪情報開示≫」
≪名前≫ クロ=タナークトゥス(ノエル)
≪種族≫ 猫又
≪性別≫ 女
≪魔核≫ 255
≪職業≫ 猫又、涼の騎士
≪能力≫ 魔力:強いにゃー!
筋力:岩なんてサクッとにゃー!
敏捷:疾風の如しにゃー!
器用:凄いにゃー!
精神:猫だけどチキンにゃー!
≪技能≫ 体術B、妖魔法A、魔力回復B、魔力操作B、気配察知A、魔力察知A、
etc…
≪称号≫『猫又』『猫言葉:免許皆伝』『弱肉強食』『涼の嫁』
≪装備≫ 契約と婚約の首輪
≪名前≫ リョー=タナークトゥス
≪種族≫ 人造ライダー(多分人間)
≪性別≫ 男
≪魔核≫ アラウンドサーティ
≪職業≫ バイト戦士、料理人
≪能力≫ 魔力:まだまだだね
筋力:貧弱貧弱ー
敏捷:猫にも勝てぬのか……
器用:自分不器用っすから
精神:絹豆腐と同等
≪技能≫ 調理C、主夫C、剣術E、武術F、魔力回復E、魔力操作E new、
風魔法E new
≪称号≫『孤高なる武士』『賢者(笑)』『真理を追いし者』『仮○ライダー涼』
『異世界人』『変態紳士』new『猫を嫁に持つ者』new
≪装備≫ 魔義眼、魔義手、魔義足、翻訳と婚約の指輪new、庶民の服セット、
革の短靴、ブラックウルフルズの胸当てnew、太刀『小鴉』new
「これは……」
どうしよう……反応に困るぞ?てか、クロよ……お前、くっそ強いじゃん!魔核ってレベル的なアレだよね?255ってカンスト、つまりレベルMAXではないのかな?かな?そして、精神力の低さ!なるほど、今までのマスターさんからの押しの弱さに納得がいく。でもそんなことより、やっぱりクロは本当に俺の嫁になったんだな……
そんでもって、クロと対照的に俺のスペックの低さ!ビックリだね!まぁ、あれからいろいろあったし、精神が豆腐になってて良かったよ、チクショーめが!風魔法はきっとあの弛まぬ努力がモノをいったな!
「おっ!涼君の≪称号≫新しいのが増えてるじゃないか!こんな短期間に凄いな」
「ええ、ですが……何か予想できそうですよ?」
「まぁまぁ、見てみようじゃないか?」
「うっす」
俺はそう言い念じる。前と同じ作業だ。
『変態紳士』
自分が世間の『理』からはみ出した存在である事を認めた者。紳士的態度を貫く変態。ロリコン。いや、もうタダの変態。
効果:ある特定の条件下にて、とてつもない力を発揮する。
ちょっと待て!最後の方ただの悪口じゃん!全国1億2500万人の変態紳士に謝れ!え?日本の人口と同じぐらいの数だって?え?もしかして、皆は……違うの……か?
つ、次だ!
『猫を嫁に持つ者』
猫を嫁にした者。筋金入りの変人であろう。
効果:猫言葉が話せるようににゃるにゃ!
だろうな!だって、俺でも変人だと思うもん。
「まぁ、案の定こんな感じですよ?」
「ああ、なかなか良いじゃないか……ぷっ」
くそっ!褒めるか、笑うかどっちかにしてくれYO!
「それにしても、クロすごく強くないですか?」
「ああ。猫のくせに生意気だな!」
「にゃ!?」
それ、どこかの国民的アニメのガキ大将が言う、最強の言いがかりじゃないですか。人はそれを理不尽と言うんですよ?知っていますか?マスターさん?
今にもネコ型ロボットに泣きつきそうなクロを抱きあげ、頭を撫でて慰める。
「にゃふ〜」
「マスターさん。いつもの優しい貴方はどこにいきました?」
「ああ、すまん。当たるつもりはないんだ。だがどうしても、その『猫言葉』を聞くと感情が抑えきれないんだ。この心の奥底をかき乱すこの感情。これが世間で言う、ロマンチックが止まらないって事なのか……」
「勘違いも止まらねえな!てか、待てコラ!そのネタ、俺がさっきやりましたから!なんすか?気に入ったんすか?」
「まぁ、その事についてだが……横に置いておこう。でだ、残念ながらこの猫が強いことは確かだな。まぁ、悲観することはないぞ?一般人はこんなに強くない。それに普通の人が、クロみたいな強さなら、涼君……君はただのモブキャラ扱いだろ?」
「やかましいわ!モブキャラだって輝きたいんだよ!」
モブキャラなめんなよ?モブキャラが輝く物語があってもいいじゃないか!ええい!マスターさんがボケまくるから、ツッコミが大変だぜ!俺にもボケさせろ!
おっと、話を進めないとな。
「まぁどんな分野でも、上には上がいるものだしな。だが、頑張れば直ぐに憲兵など越えられる!それに、強い奴でも高が知れている。魔核で言うと多分100そこらじゃないか?」
「少し希望を得ましたよ」
良かった!こんな俺でも強くなれるのか!
「それに、昔だが俺は世界中を旅していたんだ。それで、いろんな人や魔物を見てきた。そして、その中で一番の強者が俺たちの身近にいる。そいつを見たら他の奴なんて怖くないだろ?モチロン、涼君も知っている奴だぞ?」
「え?なんすか?誰っすか?」
そんな人いたか?
誰だ……あ、まさか?
「マオだ!」
「あ〜やっぱり!」
あの人が世界最強か。この現実は素直に受けいれられるね。
ただ、敵じゃなくて本当に良かった。
そう、俺は強く強く思いました。ええ、本当に。




