表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/38

第20話 ROMANTICが止まらない

ROMANTICロマンチック

 現実を離れ、情緒的で甘美なさま。また、そのような事柄を好むさま。空想的。

 goo辞書より抜粋




 俺とマスターさんは、あの後ダッシュで安らぎ亭へ戻り、何事もなかったように働きだした。むしろ、いつもより真面目に素早く作業をこなし、俺とマスターさんはあっという間に自分達の仕事を完遂した。

 俺達の仕事が終わり、少ししてから冒険者ギルドからおやっさんが帰ってくる。そして、おやっさんは俺達を見つけ何か言おうとしたが、口を開く前に何食わぬ顔で俺たちは言った。


「おい、マオ!お前どこに行ってたんだ?涼君が困っているぞ」

「そうですよ!俺たちは仕込み作業も終わって、掃除も終わらせたのに、おやっさんがいないから、次はどうしたらいいか、分からかったんですよ!?」

「う、うむ……そうか?すまんな。なら、夜まで空き時間だ……好きに使うといい」


 おやっさんは怒ろうとした出鼻を挫かれ、逆に責められ、困惑している。それはそうであろう。いつものマスターさんとおやっさんがの立場が逆になっているのだから。

 本来なら、仕事開始時間になっても遊んでいた俺達が100%悪い。そして、それを探して叱りに来てくれた、おやっさんは優しく、正しいのだろう。

 だが、今は俺達が自分の仕事を終わらせ、おやっさんがどこかに行っていた為、夜の営業の指示をすることができず、仕事ができなかったという状況になっているのだ。そして、俺達の全くもって白々しい態度。そう、白々しいのだが、崇高なミッションを邪魔された俺たちは、ご機嫌斜めで普段ならありえない強気だった。


「うっす、ありがとうございます。あと、すいません。生意気言って」

「あ、ああ、気にするな」

「じゃあ、俺も涼君の修業をつけてやることになっているんだが、いいか?」

「ああ、好きにするがいい」


 未だに状況を掴み切れていないおやっさんが、この状況から立ち直る前に俺たちは全力で安らぎ亭から脱出する。自分達の住む宿から逃げるとはなんとも滑稽だが、命を大事にしていこう。

 これは時間との勝負だ!早くここから遠くに逃げないといけない。なんせよく考えれば、俺達が悪いのだから。








 俺とマスターさんは再び街を歩く。修業と言う名のサボりの真っ最中だ。


「でだ、なんとかマオから逃げてこれた訳だが、折角だから鍛えるか?」

「はい!俺には越えないといけない壁がありますから!」


 無駄にキリッとした顔で答える。


「だなぁ。涼君の戦闘の技術だったり、魔法の使う精度や腕を上げた方がもっと楽しくなりそうだしな!」

「え?ええ、まぁ?」


 なんか不穏な空気だが、気にしたら負けだ。まぁ、実際に修業をやれば嘘ではなくなるのだから。おしっ、修業編突入だ!


「じゃあ、まずはこの街の中じゃ危ないし場所を変えるか」

「うっす。師匠(マスター)ユーリ!」

「ジェ○イか!懐かしいな……そういやぁ星戦争の話って、今の子は知ってんのか?」

「どうでしょう?TVの再放送で見てるんじゃないですか?」

「もしくは、ビデオやDVDを買うかだな?」

「いえ、今の時代ブルーレイディスクですよ?」


 俺が指摘するとマスターさんは驚愕の表情をあらわにする。まぁ、マスターさんは「地球を離れて長い時間が経った」って言ってたもんな。


「う、嘘だろ?だって、当時DVD出た時は画期的だっただろ?も、もしかして、ビデオデッキを知らん子がいるのか?」

「ええ。昔の――いえ、この世界で言うなら、古代遺物の魔道具(アーティファクト)扱いですよ」

「……時代か。ビデオテープのつめを折ると『これで永久保存だ!』とかも知らんのか……」

「ええ。『セロハンテープを張れば、実はまた撮れる!』という盲点も知らないかもしれません……怖いものですね」

「じゃ、じゃあ、アレは?野球中継の延長で、予約していた2時間番組の最後の結末が見れなくなる悲劇は?」

「それはですね――」


 俺とマスターさんはどうでもいい会話を続けながら西門を目指す。普段の俺達の会話なんてこんなものだよ。








 西門に辿り着くと、いつものようにユリウスが門番の仕事をしていた。俺はユリウスを西門と休憩中の安らぎ亭以外で見たことない。ユリウスの門番に対する愛が怖い。なんか、アイツ「本当はこの西門の事が好きなのかな?」と不安になるぐらいだ。

 そんな変態ユリウスは、部下に指示を出していた。まぁ、見かけて素通りするのもなんかアレなので、とりあえず挨拶だけはしておこう。


「ちーっす。ユリウス」

「おう、リョー……と、ユーリ様!」


 マスターさんを見た瞬間、敬礼をするユリウス。俺との対応の差を感じる。いや、いいんだけどね。


「だから、お前は……」

「はっ、申し訳ありません。マスター殿」

「……はぁ、まぁいいか」


 マスターさんは呆れながら言うが、ユリウスは敬礼をして良い姿勢のまま固定される。まぁこのやりとりも、いつものことで慣れてきた俺がいるよ。

 だが、隊長であるユリウスがガチガチで変な対応していると、部下の方々も緊張するし、手持無沙汰になってしまうので、ユリウスに注意する。


「ユリウス、お前がそんなんじゃ、お前の部下の人達も困っている……ぞ?」


 俺は驚きを隠せなかった。そこにいたのは先程俺達の野望を、エリーさんのスカートめくりを邪魔したあの女がいた。まさか、ユリウスの部下なのか?こいつは?


「リョーこそどうした?固まっちまって、なんだ?こいつに惚れたのか?」

「……あ、ああ。すまんな。ちょっと気になってな?」

「お前はこういうのがタイプだったのか?」


 ユリウスは勘違いしてくれたので、このまま話を進める。そしてその間に『賢者タイム』で冷静になる。危なかったぜ。

 通りであの女が付けている鎧が、どこか見たことがあると思った訳だ。まぁ、あの女が反応しないことから、やはりあの認識疎外のローブと仮面のおかげで正体はバレていないみたいだ。


「そういう話はやめて下さい。隊長、私は剣に生きる身です。女としての人生など捨てております」

「とまぁ、こんな感じの奴だぞ?」


 俺は冷静になったはずなのに、仇を見つけて直ぐに怒りが湧いてきた。

 ほう?この女、女扱いが嫌いなのか。ならば……


「これは、大変失礼しました。あまりにもお若く美しいお嬢さんなので、兵士の方ではなく、どこかのお姫様なのかと勘違いしました」

「なっ!私は姫なのではない!一人前の立派な騎士だ!」


 女は顔を真っ赤にして反論する。良い反応をするじゃないか!

 まだ足りんな。これはどうかな?


「重ねてお詫びします。背伸びしたいお年頃(・・・)なのですね?これは申し訳ございません。ええ、大変反省しています。……糞ガキが(ボソッ)」

「なんだと!私はもう18で、立派な大人だ!」


 お分かりの通り、謝る気なんて更々ない。未だムカつくのでつい挑発してしまった。あの女が、俺達にやった妨害の前では、大人の対応やプライドなどいらないね!ゴミ同然だ。

 今はまさに煽っていくスタイルだ。


 ちなみにこっちでは15、6歳で成人扱いらしい。昔の日本の元服を思い出すね。


「こらこら、リョー?普段のお前からは考えられない言動だぞ?」


 今にも飛びかかろうとする女をユリウスが片手で抑えて言う。

 仕方がないので、俺は手で顔を抑え、申し訳なさそうに語りだす。


「あ、ああ。すまん……自分でもビックリしているんだ。いつもならこんなこと口に出さないのに。なぜだろうか?そこのお嬢さんを見ていると、なぜか、この感情が抑えきれないんだ。この心の奥底から湧き出てくる憎悪と憤怒。これが世間で言う恋なのか?悔しいが……ロマンチックが止まらないんだよっ!」

「ちげぇよ!勘違い甚だしいな!お前!アレはもっと崇高なものだよ!」


 ユリウスは良いツッコミをいれ、呆れてしまう。いや、俺も分かっているんだがな?


「流石、西門の隊長だ。キレがいいな!」


 まぁ、感情が抑えきれないのは本当なんだけどな。俺の後ろで、腕を組んで笑いながら話を聞いていたマスターさんが、やっと仲裁に入ってくれた。


「いや、すまんな。うちの涼君が。今、こいつは遅れてきた反抗期なんだ。やんちゃしたいお年頃なんだ。だからな、嬢ちゃんも大人(・・)なら許してやってくれ」


 マスターさんも何気に楽しんでいるな?なんだその言い訳?謝る気ないじゃん。誰がそんな理由で許すんだよ。


「ま、まぁ?私はそこの者と違い大人(・・)なので、そういうことなら、許そう」

「という訳だ。これでいいだろ?ユリウス?」

「はっ!問題ありません!」


 赦しちゃった!あ、ヤバいぞ?この子めちゃくちゃ、ちょろいぞ?そして、ユリウスも。

 まぁ、こういうとてもいい反応をする子はイジルに限る。俺はマスターさんとアイコンタクトをして頷く。流石だ。ここで遊ぶ気満々だな?


「ありがとうございます。では、大人で立派な騎士であらせられる、貴方のお名前を伺ってもよろしいですか?」

「ふふん!構わない。私の名はパラス。パラス=アルバリンだ!」

「……アルバリン!?」


 マスターさんは呟き、凄まじい殺気が、その子に――パラスに向けられた。その瞬間、いつの間にかユリウスがパラスの前に出て、マスターさんの視界からパラスを隠した。パラスは殺気に当てられ「ひっ!」と短い悲鳴を上げ、腰が抜けたのかパラスはペタンと女の子座りをしてしまった。


「ユーリ様!この者には事情があり、既に彼の国と縁を切っております。今はこの国の国民です。そして、私の部下でもあります。どうか……どうか気をお静め下さい」


 ユリウスがマスターさんを諌め、懇願する。


「あっ……すまん。つい……な」

「いえ、出過ぎた真似をしました。お許しください」


 マスターさんはやってしまったって顔で謝る。


 え?俺?何やってたか?棒立ちですよ。俺に活躍を求めてはダメだよ?こんな化け物たちの戯れについていける筈ないじゃないか。


 ちょっと、場の空気が悪く……というか最悪になったので、俺たちはここを離れることにする。遊ぶのはまた今度だな。


「じゃあ、俺たちは山に修業に行ってくるわ!」


 俺は明るい声でユリウスに告げる。こんな時は明るくだな、うん。


「ああ、行ってこい。それとリョー。この街に『凄腕の風の魔法を使う二人組の賊』が出たらしい。なんでも、今日の昼ぐらいにギルドの受付嬢を誘拐しようとしたらしい。マオ様が現われなかったら、このパラス共々やられていたってさ。逃げ足が速く、マオ様でも捕まえることができなかったらしい。もしかしたら、切り裂き魔かもしれんし、目的がまだ分からないから、お前も気をつけろよ?」

「「……」」


 俺とマスターさんは互いに無言でユリウスの言葉に頷いた。








 ダ、ダレノコトダロウネ?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ