第2話 人造ライダーイマーン
皆さんは死んでも他人に隠したい物ってありますか?私はあります。
「パソコンとハードディスクのデータだけは、この世から消してくれーーーーーーーーーーー!!!!!!」
ガバッと起き上がると、俺は知らない部屋にいた。
部屋には俺が寝ているベッドと椅子と机だけの質素な部屋だ。
「あーくそ。なんだ?夢か?てか、ここはどこだ?あれ?まだ夢の続きなのか?あー、分からん」
額に手を当て考えるが、まいった。
全く状況が理解できん。
夢か?夢なら、とんでもない夢を見ていたようだが。
さっきの夢も妙にリアルだったし……てか、今もリアルだ。
困ったぞ、マジでどうするよ?
とりあえず、俺はもう一度ベッドに寝転がり、寝起きのシーンからやってみることにした。
「……知らない天井だ」
おしっ!俺は人生で一度は行ってみたい言葉TOP10に入るだろう言葉を口にし、右手を握りガッツポーズをとりながら嬉しさを噛みしめた。
え?こんな時になにをやっているのか?
こんな時だからこそやっておかなければならないだろうさ。
人生とはいつ終わりを告げるかわからないのだから。
こんなセリフを言う機会なんて、普通に生きていたらそうはないからな。
さてさて、現状の整理をしようか。
まず、今が夢の可能性からだ。
右手でほっぺたをつねってみる。
ベタな確認方法だが仕方がない。
「せいやっ!」
痛い。てか、めっちゃ痛い。
気合い入れて抓ったが、何これ?
俺こんなに力強かったっけ?と、ふと右手を見ると……黒いのだ。
え?痛いけど夢だよな?
「あーーーくそっ!分からん、わからん、わからんぞーーーー!!ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
軽いパニック状態になって、両手を頭に乗せて唸る。
その状態からそのままベッドの上でブリッジをキメる。
「困ったかな?」と思った時は早めのブリッジだ。
ばっちゃが言ってたから間違いない筈だ。
「目覚めた……か?」
「えっ?」
「……」
半狂乱でブリッジをしていると、部屋のドアの方から渋いええ声〜♪が聞こえる。
ふと、目線をそちらに向けると、カッコいいナイスミドルなおじ様が入ってきた……が、俺を見て言葉を失っている。
なぜかって?モチロン俺は、人様から見られると恥ずかしいブリッジを、つまり『恥ずかしブリッジ』をしたままだからだろう。
どうやらこの夢には知らないおじ様まで登場するらしい。
これは何か返事をしなければマズいと思い『恥ずかしブリッジ』の恰好のまま、顔だけ真顔になりこう答えた。
「問おう。貴方が私のマスターか?」
○●○●○
当然と言えば当然なのだが、爆笑された……が後悔はない。
「はははははっ、あー腹痛ぇ。笑い過ぎた。まさか、こんな子だったとはな」
「いえ、お恥ずかしいところをお見せしました」
あの後、このおじ様はドアの前で爆笑して、今はベッドの横の椅子に座り俺と向かい合い話をしている。
あっ、ちなみに今はブリッジしてないよ。
目と目を合わせて会話をする、人として当然だよ。
「俺の名前は石橋悠里。今お前さんがいるこの宿の店主と、一階にある酒場でマスターをしてる。そうだな。ぷっ、気軽に『マスター』とでも呼んでくれ」
「俺、いえ、私は田中涼です。喫茶店で働いています。田中でも涼で好きに読んでください。マスターさん」
半笑いのマスターさんと自己紹介を済ませる。
本当にマスターだったらしい。
あながち、あの雄々しき王者の発言は間違いじゃなかった。
ただ、うん。わ、笑われても、べ、別に恥ずかしくなんてないんだからねっ。
と、内心取り乱しまくりまくっている私です。ええ。
「涼君でいいかな?あー、体の調子はどうだ?何か違和感はないか?」
「ええ、大丈夫です。右手も……多分問題ありません……なんか黒いけど。あの、正直私は今の状況を全く理解していないのですが……」
「だろうな。うーん。なんて説明したものか……そうだ!涼君の出身を聞かせてもらえるか?」
「はい?あ、○○県です。あのデカイ池ではなく、湖がある県です」
「ほう、ってことはやっぱり日本でいいのか?」
「ええ。日本の赤いこんにゃくの県ですけど……何かマズイですか?」
なにか、不穏な質問だぞ?もしかして、ここ日本じゃないのか?
それとも、出身の県がまずかったか?
それとも赤いこんにゃくか?
馬鹿にすんなよ!結構はうまいんだぞ?
友達が言ってたから間違いない。
まぁ、俺は嫌いだけどさ。
俺の質問は答えにくいことなのか、マスターさんは口元に手を当て悩む仕草をとった。
その後「ふむ……いや……」なんて呟き、マスターさんは真剣な表情になりこう言った。
「涼君は仮○ライダーを知っているか?」
「え?」
「仮面○イダーを知っているか?」
おやおや?聞き間違いではないらしい。
真顔でこんな質問をするんだから、説明に必要なことなのか?
後、二度言ったってことは、大事なことに違いない。
「え、ええ。あの有名なイケメン俳優が演じている作品ですよね?」
「あー違う。昭和の方だ。ほら、V3とか」
マスターさんは「これがジェネレーションギャップか……」なんて哀愁漂う呟きを漏らすが、ここはスルーだ。
「ああ!敵の雑魚兵が黒い全身タイツの「キーキー」言う方ですか?」
「そうそう!いやーあれは良かった。ただ、今思うと『火柱キック』だっけ?アレなんてカッコいいが危険な攻撃だったな。初期なんてな――」
とまぁ、聞いてもいないのに語りだしてしまった。
おかしいな。俺この状態になった理由が聞きたいだけなんだけど……
ちなみに俺は、再放送で見て詳しく調べたから分かる。
さっきのキックって、小型原子炉使っちゃうおっかない技だよね?確か。
「――とまぁ、そんな感じだな!」
「はあ」
なんか、やりきった感じのマスターさんには悪いが、今のがこの状況の説明なのでしょうか?
俺にはV3の話しかしてないように感じたのだが……
「ん?ああ、つまり涼君がその状態だ」
「え?」
「え?」
待て待て!『なんで分かんないの?』みたいな顔されたけど俺のせいか?
あの説明で分かる奴の方が凄ぇよ!
「すいません。あの、もう一度説明をお願いできますか?」
「お?そうか……なら、あのキックの原理から……」
「いやいやいや!俺の今の状態を、サルでも、分かるように、おなしゃす!」
俺の剣幕に押されるようにマスターさんは怯むが、すぐに真剣な顔になり俺を指さしこう言ったのだ。
「涼君、お前は、今日から人造ライダーだ!」
僕には、わけがわからないよ