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第10話 トイレこの先左なの

この話が書きたかったのだ――――だっだっだ――――!!

おっと、失礼。つい熱くなってしまいました。

 安らぎ亭に帰ると、おやっさんが腕を組み仁王立ちしていた。街中への魔王様の出現ポップは遠慮願いたいのだがな。おかしいな?俺なんかしただろうか?怒っているみたいで、めちゃくちゃ恐い。俺が防具と武器を手に入れて調子に乗ってるからなのかな?


「リョー!」

「はいっ!」

「ユーリはどうした?」

「ま、マスターさんなら一緒に……ってあれ?」


 隣にいたはずのマスターさんが忽然と姿を消していた。いつの間に?というか、今さらだがあの人何者だ?忍者の末裔か?


「ちっ、逃げたか。さっきまでアイツの魔力がこの近くにあったんだが。ユーリが『今日は仕込みの手伝いをするから任せろ!』と言ってたはずなんだがな」


 マジか……マスターさん。少しの間しか関わってないが、分かることが一つある。あの人、本当にフリーダムだな。

 てか、魔力で人の区別できるんだ。ん?待てよ。マスターさんがサボった理由って、俺のギルド登録と装備の買い物に付き合ってくれたからじゃないか?ってことは、俺も同罪か……

 そう考えた瞬間に一気に血の気が引いて、顔が真っ青になる。


「まぁいい。リョー、お前は料理ができるか?」

「はい、少しは……」


 ここは謙虚に下手に出よう。死罪だけは避けなければ。


「ほぉう。なら、仕込みを手伝え。お前らの国の言葉で『働かざる者食うべからず』って言葉があるんだろう?」

「うっす。ボス!こんな自分でよければ使ってください!むしろ、やらせていただいて感謝したいぐらいです!」


 俺は全面降伏し、おやっさんに頭を下げてついていく。わが国にはこんな言葉もある『長いものには巻かれよ』ってね。







 俺は今、感動を噛みしめながら仕込み作業中だ。この酒場のキッチンの設備は凄いのだ。地球なら電気とガスのコンロや調理用道具や機器があるが、こっちでは代わりに薪とか使うのかと思っていた。正直コンロなんてないと思っていたが……あるのだよ!コンロが。

 それだけではなく、オーブンの代わりに本格的な石作りの窯、ストッカー(冷蔵庫的なものだと思ってね)の代わりも、製氷機の代わりも、あっちの世界の厨房にあったあれもこれも。これらは全て『魔道具』と言われるもの一種で、魔道具の魔核に魔力を貯めれば使えるという優れモノ。エコだね!


 ヤバいな!テンションが上がる!グリルやフライヤーやらは見当たらないないが、火力の調節できるコンロと窯、調理器具さえあれば、大抵のものは作れる。正直自分が働いていたところより設備がいいので、なんか夢が広がるね!厨房が楽しくてしょうがない!俺にとっては一種のテーマパークだよ。

 とまぁ、包丁片手にそんな考えを廻らせながら、俺は玉ねぎのみじん切りを終える。


「おやっさん、玉ねぎミジン、終わりました!」

「おう。次は、ジャガイモとにんじんの皮むきと乱切りを頼む」

「はい!」


 驚いたことに、この世界の食材の名前と形は地球の物と同じだ。これは指輪の性能なのかは分からないが、俺の耳にはそう聞こえている。マジでファンタジー万歳だ!


「おやっさん、終わりました」

「おし、これなら昼には間に合うな!リョーあがっていいぞ!」

「うっす!お先にあがります。お疲れ様です!」


 ある程度仕込みを終え、後は調理の作業なので、ここから先は店のメニューやレシピを知らない俺ではどうにもならない。しかも、今日の朝食だけでもおやっさんの料理の腕は魔王級だったしな。そうして、俺はエプロンを外してから厨房を出る。酒場で少し休憩してから自室に戻ろうかなと考えていると。

 

「あれぇ?おじちゃんだぁれ?」

「……」


 そこには、幼女がいた。









「はっ!」


 危うく、本当に危うくまた話が変わるところだった。俺は皆知っての通り、女の子は大好きだ。え?知らない?大丈夫、心配いらないよ。これからじっくり知っていけばいいさ。

 だが、はじめに断っておく……俺は決してロリコンではない。しかしだ。俺はこの幼女に目を奪われてしまった。惹きつけらるモノがあるんだ、この幼女には。この酒場に不釣り合いな幼女が。赤い髪に真っ白い可愛らしいワンピースを着た幼女が、もう美幼女と言うべきか?もうね、とにかくね、4、5歳ぐらいの幼女がいるんだよ。いや、幼女様と言うべきなのか?アカン!幼女がゲシュタルト崩壊や!

 くそっ!ダメだ!幼女相手にここまで俺の精神を乱されるなんて。俺にはこの幼女をどう扱えばいいか分からない。こんな時に自分の愚かさが腹立たしい。だが、どうしても修正しておかなければならない個所がある。


「……おじちゃんじゃないよ。お兄ちゃんだよ」

「ふぇ?うん!おじ、お兄ちゃんはだぁれ?なんでここにいるの?」


 小首をかしげて聞いてくる。くっそぅ、可愛いじゃねぇか!俺は幼女の前に屈んで視線を合わせ答える。


「お兄ちゃんはね、リョーって言うんだよ。この宿にお世話になっているんだよ。幼、じゃなくて、君はどうしてここにいるのかな?」

「そ〜なんだぁ〜。う〜んとね、お父さんがね、ちゅうぼう?はね、危ないからってね、ここで待ってろって、いってたの」

「そっか〜」


 小さい手を振って必死に説明してくれる。何これ?超可愛いんですけど?いや、でも重ねて言うが俺はロリコンじゃないから、ギリギリ精神を保っていられるけどな。きっと、一般の紳士の諸君なら迷わず保護という名の誘拐に及んでいただろう。


「あっ、アテナはね、アテナっていうの!えーっとね、4歳になったんだよっ!もうお姉さんなの!」


 アテナちゃんは、両手の指を使って数を数え、指を3から4に変えながら年を教えてくれた。そのあと、えへんっと胸を張る。何、この可愛い生き物?もうダメだ。俺は負けを認めた。


 俺は「あっ、俺ロリコンでいいや」そう思った瞬間であった。

 

 

 

 

 

 そこから、天使ことアテナちゃんと親交を深めている。決してやましい気持などなく純粋にね。仕草がいちいち愛らしく、もう本当に話すだけでいいのだ。人はこれを恋というのではないだろうか?いいや、違う。これは愛だ。俺はそんな気持ちでこのひと時に幸福を感じていると、それを遮る声がする。


「ふぅ。意外に早く終わったな……」


 すると厨房から昼の仕込みを終えたおやっさんが現れた。俺は、アテナちゃんが魔王様の顔を見て泣き出すんじゃないかとハラハラしていると。


「あっ、おと〜さ〜ん!」


 アテナちゃんは、おやっさん目がけて走りだし飛びついた。


「えっ?オトウサン?」


 マジで?あの強面のおっさんからこんな可愛い子が産まれんの?嘘だろ?あ、洗脳か。魔王様だもんな!それか、おやっさんがどこかから誘拐したんだな?魔王様だもんな……

 ちくしょぉおおお!嘘だと言ってよーーーーーーーーーー!!!!


「おぉ、アテナ!いい子で待ってたか?」

「うん!リョーお兄ちゃんとお話してたの!」

「そうか、リョー!面倒見てくれて感謝する」

「はい、お義父さん!」

「ああ!?」

「はははっ!言い間違い。つまり、冗談ですよ!おやっさん」


 危なかった。おやっさんの声色がいつもと違った。冗談を言うのも命がけだぜ!うん。勿論冗談だよ!愛も大事だけど、命って本当に大切だからねっ!俺の作戦は『いのちだいじに』だ。

 

「おう、リョーよ。吾輩と少し厨房で料理・・のことで話し合わんか?」


 くそ!ダメだったか。冗談じゃなく本気だということがバレている。というか、あの目はヤバい!ついて行ったら俺が料理されるぞ……

 考えろ!俺!『魔王からは逃げられない』から、逃げるんじゃなくて違う行動をするんだ。


「あ、アテナちゃん?」

「ん〜?な〜に?」

「この店のトイレってどこかな?お兄ちゃん、場所分からないんだ」

「う〜んとね。この先左なの」


 アテナちゃんは可愛い指で奥を指さした。ああもう、何をしても可愛いな!じゃなくて!


「えっと右じゃなくて?」


 俺は可愛い天使とマジ怖い魔王様のせいで、どうやらパニックを起こしているらしい。


「うん。トイレこの先左なの!」

「ありがとう!」


 俺はアテナちゃんに礼を言って、全力のダッシュで店の奥へ急ぐ。俺は逃げるんじゃなくて、尿意を催したからトイレに行くだけだ。

 しかし、いつの間にかおやっさんに回りこまれる。そして、その丸太のような腕が上げられ、俺の頭に手が置かれた。


「アテナ、吾輩はリョーと話があるからそこで待っておくのだぞ?」

「は〜い。またね!リョーお兄ちゃん!」

「……はい」


 こうして、俺は引きずられる様に厨房(死刑場)へ連れていかれた。
















 そしてこの後、涼の姿を見たものはいなかったそうだ。







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