第二百十話
ムスケ殿とスコラ殿が率いる傭兵団【古の蛇】との協力を取り付けたあと、俺はリエスやスムバ殿、それからシオンや傭兵達へこれまでの経緯を改めて語った。
簡潔にまとめてもすべてを説明するのに夜までかかってしまったが、得たものも多く。竜の国や獣人達の国々といった周辺各国の動向やゼノスの現状、曾祖父やお婆様との思い出、父上と母上が出会うきっかけとなった魔王討伐の旅路などなど、沢山の情報を知ることができた。
そうして城で朝を迎えた俺はその後の話し合いの末、契約の証としてシオンとリエスを預かり、夕暮れの中リヒターさんやユリアが待つ宿屋へ戻る。
そして現在、人数が増えたため取りなおした大部屋の中には、俺とシオンにリエス、リヒターさん、ユリアが向かい合っており、窓辺ではアインスとツヴァイが長く伸びた上尾筒を垂らしながら待機中。ラファールとアルヴィオーネは、話し合う俺達の邪魔にならないよう天井付近から覗き込んでいる。
「――というわけで、交渉は無事に成立。古の蛇のシオンとエルフの里を代表してリエスが一緒に行動することになりました」
「今度は片が付くまで世話になるぜ」
「エルフの里の長老であるラングのひ孫リエスだ。世話になる」
「現在、ムスケ殿とスコラ殿は情報の精査と人員の配置を検討中で、スムバ殿は道中にある国境での手続きを減らすための準備中です。ハンデルへは準備が整い次第出発。その際、ハンデルの王への使者としてスムバ殿も道中を共にします」
俺の帰りを待ちわびていた二人に事の次第を説明し、ついでにシオンとリエスの紹介や今後の予定を伝えれば、リヒターさんは思案するように口元へ手をやり、ユリアは頭が痛いといった様子でこめかみを揉む。
まぁ、色々と言いたいことがあるのだろう。竜の国とフォルトレイスの戦に、お婆様とムスケ殿達の関係など、目まぐるしいほどの情報が詰まっているからな。
「俺からは以上ですが、なにかご質問は?」
「ちなみに、スムバの面倒は俺達がみるから気にしなくていいぜ。依頼人である若様に足枷つけるような真似はしねぇし、フォレトレイス王家もマジェスタと揉める気はないからな。スムバと若様になんかあった時の責は俺達【古の蛇】になすりつけてくれればいい」
俺の問いかけにシオンが補足する形でそう付け加えれば、リヒターさんとユリアが僅かに目を見開く。そして一拍後、複雑な表情と共にこちらへ視線を動かした二人に、俺は小さくため息を零した。
……まぁ、そういう反応になるよなぁ。
フォルトレイスの王弟とマジェスタでも有数な公爵家の継嗣の身になにかあった場合の責任など、どれほど大きな傭兵団であっても取れるはずがない。彼らが責任を取るとなったら、まず全員打ち首である。
「もちろん、建前だぜ? 契約書作るにはその辺はっきりさせておかないといけねぇからな。つっても、俺達はフォルトレイスの王家とは関係が深いし、マジェスタの殿下達ならば大事にしねぇと踏んでいる。そしてなにより、若様なら仕損じることはないと思っているからこその提案だ。見返りは多額の報酬とフォルトレイス王家やマジェスタ有数の公爵家との伝手。割のいい仕事だ。問題はない」
自信満々に言い切ったシオンを見れば、アイスブルーの瞳が俺を捉えその口端がニィと弧を描く。
……その自信は何処からくるんだか。
疑うことを知らぬその笑みに胸中で負け惜しみを呟きつつ、喜ぶ心を誤魔化すように俺は少しだけ肺に溜まった息を逃がす。
成してみせると言った俺を信じ、協力する条件として【古の蛇】から提示されたのは「無事にマジェスタへ帰る」ことだった。
責任の所在を【古の蛇】とすることで、俺が無茶をすれば団員全員の命を犠牲にすることになると脅し、その上で告げられた『どのような事態に直面しようとも自己犠牲は許さない』という言葉は厳しく、重い。
しかし、当時を知る面々から恥を承知と言いながら曾祖父との出会いと別れ、守るはずだったお婆様に率いられて戦ったのだと語られた後では、彼らの優しさに満ちたその足枷をはねのけることなど俺にはできず。押し切られるまま頷いてしまったが、まぁ、後悔はない。
彼らの提案は、曽お爺様とお婆様の生き様あってのものだからな。誇らしく思うし、尻込みしては男が廃る。
「そうだよな。若様」
「ああ。もちろんだ」
疑問符のつかない言葉にしっかりと頷き応えれば、シオンの笑みが深まる。
そんな俺達を見ていたユリアは、これ見よがしにため息を吐きながら呆れ顔だ。
「ドイル様は苦難や重圧が苦にならないようでなによりですわ」
「そういう訳では……」
「はいはい。承知しておりますわ」
シオンら古の蛇への非難と俺への心配が滲む皮肉に丁度いい返事が見つからず言いよどめば、ぞんざいな言葉が返されなんともいえない空気が漂う。
しかしそんな空気はパンと手を叩いたリヒターさんによって即座に霧散し、瞬く間に話が本題へと戻される。
「――ドイル様がそれでよいと仰るならば問題ありません。ハンデルへ向かう旨も承知しました。して、我々はいかように行動するご予定ですか?」
「旅の仕度はムスケ殿達が用意してくれるそうなので、個人的に必要なものだけ揃えておいてください。諸々の準備を終えるのが明後日とのことなので、明々後日の早朝に出発予定です。それからヘンドラ商会への連絡は俺がしておきます」
他に口を挟ませる余地なく話を戻したリヒターさんに内心感服しつつアインス達がいる窓辺へと目を向ければ、リヒターさんは承知しましたと頷く。恐らく彼の頭の中では、残された時間を最大限に使うべく、様々な取捨選択が行なわれているのだろう。父上と共に陛下へお仕えしていた近衛騎士だけに知識や経験も豊富で見習う点が多く、まだまだ俺にはもったいない人材である。
「畏まりました。他にご説明やご指示がないようでしたら、私とユリアが仕入れてきた情報を報告させていただいてもよろしいでしょうか?」
「お願いします」
シオンやリエスの目がある所為か、テキパキと話を進めつつも事あるごとに俺へ確認をとってくれるリヒターさんに軽く応えながら、心の中で深々と頭を下げる。
いずれ、この優秀な部下に見合う主人になろう。
そして曽お爺様やお婆様のように世代を経てもなお、命を賭けても惜しくないと思ってもらえるように生きていく。
「はい。ではまず、例の盗賊団と対峙したことのある者達の証言を集めた結果ですが、以前ご報告したとおり獣人の国の騎士である可能性が濃厚です。そこで、獣人達を中心に聞き込みをしてみたのですが、どの国も騎士が盗賊に身を落とすような事件や事故はなく、彼らの目的は依然不明です」
そう密かに誓いながら、俺はリヒターさん達が調べてきてくれた情報へ耳を傾けたのだった。
***
先祖に恥じぬ生き方をしようと胸に刻みつつ旅の準備を整えること、はや二日。
茜色に染まった空の下でシオンの声が響く。
「馬達はどうだ?」
「問題ねぇよ」
「食料も積み終わったぜ」
フォレスト城の一角に人目を避けるように用意された物資や馬達の確認をしていた傭兵達が次々と声を上げていく中、早々と確認を終えてムスケ殿からもらった資料を読み込んでいた俺は、顔を上げて立ち上がる。
「待たせてわりぃな、若様」
「いや。明日の日の出と共に出発だが、なにか問題は?」
「大丈夫だ。馬も良いの揃えてもらったし、許可証も間に合ったからな。道中で食料の補給や資金調達する必要もねぇし、これなら五日前後でハンデルに着くはずだ」
「それは、重畳」
旅支度の確認を終えたシオンを連れだって、城へ向かって歩を進める。
大部屋で顔を突き合わせてから二日。ユリアと共にパニーア商会へ足を運んだり、リヒターさんと盗賊団の根城と思わしき場所を巡ったりしたが目ぼしい成果はなく。しかしその間にも準備は着々と進み、明日の早朝俺達はフォルトレイスを発つ予定である。
リヒターさんやユリアはとっくに準備を済ませ城内に用意してもらった部屋で休んでいるし、ブランも厩舎の中で明日に備えていることだろう。【偽装】のスキルを解き久方ぶりに自慢の毛色に戻ったブランは、ようやく巡ってきた出番にやる気十分だったからな。ちなみにラファール達はというと、俺が斬ってしまったリエスの外套を直すべくスコラ殿達と共にいるはずだ。
「んで、そっちは?」
「商会は後継者問題で多少揉めているようだが、マリス達とは関係ないようだな。ただ、娘婿が聖木らしき木材をハンデルの木材市場で見たと言っていた。しかし、残念ながら販売元や購入者は不明だ」
「盗賊の方はどうだったんだ?」
「そっちも空振りだ。リヒターさんと目撃情報があった近辺を探ってみたが、ねぐらに使っていた形跡は見受けられたが正体につながるようなものは残ってなかった」
「うちの情報網によると最近はアグリクルトの近くにいるみたいだぜ。運が良ければ道中で会えるかもな」
「それは探す手間が省けて助かるが、人手を割くことを考えると微妙だな」
「アグリクルトにはうちの連中が散らばってるから、もしもの時は召集かければいい。頭領達から話はいってる」
「それならば、出くわしても問題はないな」
ムスケ殿達と明日の最終確認をするため城内への扉に向かいつつ、シオンと情報共有していたその時だった。
ぞわりと総毛立つ感覚を自覚する間もなく動いた腕が隣にいたシオンを掴み、足が地面を蹴った勢いで真後ろに飛ぶ。
「――――――ってぇ!」
着地と共に勢い余って投げ捨ててしまったシオンが地面に落ち、痛みを訴えたことでハッと我に返った俺は現状を把握すべく慌てて【気配察知】などのスキルを展開し、目を走らせる。
――今、一体何が起こった?
なんの予兆も気配もしなかった。
しかし鍛えられた直感が反射的に体を動かしたのはたしかだし、いまだ痛いほど立つ鳥肌が己の身になにかあったのだと証明している。
しかし、周囲を確認しても何もない。
見えぬ敵がいる。そう思いより一層警戒を深めようとしたその時、俺の足元から一メートルほど進んだ場所、先ほど飛び退く寸前に踏みしめようとしていた辺りの地面が僅かに沈み、息を呑む。
――地中!
思わぬ潜伏先に身構えるも、エスパーダを抜こうとした俺の手をシオンが止める。そして。
「あー。わりぃ、若様。俺の知り合いだ」
「はぁ?」
耳を打ったシオンの申告に、思わずガラの悪い声が漏れたのは不可抗力であろう。誰がどう考えても、この状況下で地中に潜り気配を消してる奴など、敵と間違って斬られても文句は言えないはずだ。
そう思ったものの、続いたシオンの言葉と目に映った光景に俺はそれらの文句を呑み込まざるをえなかった。
「……師匠。若様相手じゃ洒落にならないから地中に潜むのはやめてくれ。本気で斬られるぜ?」
「そうだな。久々に鱗が震える殺気だった」
服に付いた砂を払いつつシオンが呆れ交じりに呼びかけると、錆色の鱗を纏った竜人がトプンと波打つ地中から顔を出し感心したような声で応える。次いで、まるで水から上がるような軽快な動作で地上に出ると何事もなかったかのようにこちらへ歩み寄る。そして黄色地に黒い縦長の瞳孔の瞳で俺を見下ろすと、一言。
「悪くない」
感情が読み取れない顔で落された上に、かけられたのは良くも悪くも解釈できる言葉だが、声色が柔らかったので一応お礼を言ってみる。
「あ、ありがとうございます?」
すると、どこか満足そうな雰囲気で二回深く頷いていたようなので、褒められているという認識であっていたのだろう。
……一体、なんなんだ。
先日、シオンの師匠兼養い親だと紹介された目の前のタボルという名の竜人の行動の意図がわからない。そして、尋ねていいものなのかもわからない。
俺がタボル殿について知っていることと言えば、シオンを拾いスムバ殿と共に稽古をつけていた方、くらいなのだ。察しろというのは無理があるだろう。
そんな気持ちを込めて隣を見やれば、シオンが深いため息を吐き出しながらタボル殿へと話しかけた。
「それで、師匠はなんの用があってこんなところに潜んでたんだ? 仕事前に怪我させては元も子もないからって、副頭領に稽古禁止令だされてただろ」
「ああ。お前に聞いておきたいことがあってな」
「俺に聞きたいこと?」
地中からの奇襲を稽古で片されるほど日常的な行動なのかと内心突っ込みつつ、タボル殿の目当てはシオンのようなので俺は二人からそっと離れ、少し距離を取る。
数は少ないながらも傭兵達が行き交っているこの場所で堂々と話し始めるくらいなので、さほど重要ではないのだろうと予測されるが、間近で聞くのはさすがに失礼だろう。そう思っての行動であったが数秒後、俺は自身の配慮が大変甘かったと痛感することとなった。
「うむ。ムスケやスコラに出自を告げるべきか否か問うたら、知りたいかどうか本人に聞けと言われたのでな。聞きにきた」
「――は?」
――は?
虚を突かれたのか思わずといった様子で零れたシオンの言葉に、俺の心の声が重なる。
いやいや、待て待て。こんなところでなんて重大な話をしようとしてるんだこの竜人は。そう胸中で叫ぶも、タボル殿の言葉は止まず。先に行っていると告げて場を離れればよかったと後悔している間にも、二人の会話は進んで行く。
「知りたいか?」
「……なにを?」
「お前の親に関する情報を」
「知ってるのか?」
「ああ、知っている。父親のことも母親のことも、お前がなぜ貧困街に捨てられていたのかもすべて」
まっすぐにシオンを見詰めながら告げられたその言葉を最後に二人の会話は途切れ、二人の間に沈黙が落ちる。と、そこでようやく辺りが無音で包まれていたことに、俺は気が付いた。
……一応、人払いと防音はしていたのか。
注意して探ってみれば、この周辺にスキルが使用されているのが感じとれる。しかしそれは一体いつから行われていたのか。三人分の呼吸音以外一切聞こえない空間でしばし思案するも思い当たらず、俺は改めて亜人と呼ばれる種族の能力の高さを肝に銘じる。次いで二人へと視線を戻せば、シオンは困惑からか俯き、タボルはそんな弟子の姿をじっと見守っていた。
そうして、痛いほどの静寂が辺りを包むことしばし。
「どうする。シオン」
沈黙を破り、タボル殿はシオンに決断を求めた。
声色は優しくとも、答えを先延ばしにすることを許さぬその言葉に、俺はこれまで二人が過ごしてきた日々に想いを馳せる。きっとタボル殿は、シオンを甘やかすことなく育ててきたのだろう。大事に想うからこそ、一人で立てるよう厳しく。
――そしてそのことを、シオンは誰よりもよくわかっている。
出会ったばかりの頃、傭兵団について問うた俺にシオンはとても誇らしそうに頭領や師について語っていたからな。
そんな俺の考えを証明するかのように、ゆっくりと顔を上げたシオンはタボル殿を見つめ返して告げる。
「俺の親は師匠で、古の蛇の皆が家族で帰る場所だ」
「そうか」
短い返事であったがタボル殿の声には俺でもわかるほどわかりやすく喜びが滲んでおり、そんな育ての親の反応にシオンも嬉しそうに笑う。
「ああ」
「お前がそう思うならばそれが真実。これから先、誰になにを言われようとも今、己が口にした言葉を忘れるな」
「もちろんだ」
力強く応えたシオンをジッと見つめたタボル殿は噛みしめるように二回、深く頷く。そして、一言。
「ならばよし」
満足そうな声色でそう言い残し、トプンと地中に沈み消えた。
同時に、木の葉が擦れ合う音や城内や周辺を行き交う人々の足音などが耳を打つ。
「――待たせてわりぃな、若様」
「いや。大丈夫だ」
本日何度目かになるシオンの謝罪にそう応えながら、俺達は再び城内に向けて歩き出す。コツコツと聞こえる足音や大地を踏みしめる音に耳を傾けながらチラリと横を盗み見れば、すっきりした顔で歩くシオンが見え、なんとなく口元が緩んだ。
「師匠、土魔法が得意でスキルも色々持ってるから、時々ああやって地中に潜って俺達が奇襲に反応できるか試すんだ」
「地中からは不意打ちすぎるだろう」
「そうなんだよ。ちなみにあのまま師匠の上を通ると転ばされたのち、落とし穴だぜ」
「……奇襲というよりも性質の悪い悪戯だな」
「まぁな」
つらつらと雑談しながら扉を潜り、城内に入る。
「たぶん、初見で嵌んなかったの若様が初めてだぜ。師匠、かなり感心してたし」
「あれで?」
「あれで。竜人だから反応薄く見えるんだよ」
「そうなのか」
そう返しながらシオンの顔を見れば、アイスブルーの瞳と視線がかち合う。
「スムバは何度も引っかかってるからきっと悔しがるぜ」
そう楽しそうに告げるシオンの声を聞きながら、俺はその時なぜか、これまで何度も見たことのあるその瞳の色に意識を奪われた。
――そういえば、ロウェル王に仕えていた公爵子息の瞳もアイスブルーだと書かれていたな。
ふと過ったその考えに、タボル殿の奇襲時以上の悪寒が走る。
青い瞳は珍しくないがこれほど記憶に残るアイスブルーはあまりない。
そして、何故かこのタイミングで出自を告げにきたタボル殿。彼の口ぶりは、シオンの両親ついて詳しく知っていたようだった。もしかしたら、それなりに親しかったのかもしれない。にもかかわらず、今まで秘匿してきた意味。ムスケ殿とスコラ殿が出自を知るかどうかは本人に決めさせろと言った理由が同じならば、シオンの生まれには知らぬ方が幸せな事実があるとも考えられる。
もし俺が居合わせたのが偶然ではなく、意図的に聞かせたのであれば。
タボル殿の「誰に何を言われようとも」という言葉がこれからの戦いに備えたものならば。
シオンの血筋を辿った先には恐らく――。
そこまで考えて、俺は浮かんだ可能性をかき消すように首を振る。
あるのは状況証拠だけで確証はないし、想像通りだったとしても立証する術はない。タボル殿かムスケ殿達に尋ねればわかることだが、シオンが知らなくていいと言うのならば、わざわざ調べる必要もないだろう。
……思い至らなかったことにしよう。
その方が俺の胃にも優しいしな。無論、真相を知る三人の内の誰かが、もしもの時の保険として俺に気が付かせようとしたのではという疑惑も心の片隅に仕舞っておくことにする。
「どうかしたか? 若様」
「いや。悔しがるスムバ殿を想像してみたが上手くいかなかっただけだ」
突然黙った俺に首を傾げるシオンにそう応え、誤魔化すようにゆるく笑う。
この事案は念のため記憶の端に留め置くが、深く追及しないくらいが丁度いい。
そう己に言い聞かせながら、俺は再びシオンと共にスムバ殿の執務室へと足を運んだのだった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。




