第百七十八話 ユリア(とあるメイド)
風の精霊と水の精霊がいると知った時点で、手を引けばよかった。
今さら考えても仕方ないことを思い浮べながら、伸ばしていた足を引き寄せ抱え込む。暗く冷たい牢の中、身を守るように体を小さくして座り込めば、石壁と自身の手首を繋ぐ鎖がジャラリと音を立てた。
……なんでこんなことに。
突然マリスから「逃げろ」と宣告されたあの日から今日まで、幾度となく過った言葉を胸中で呟く。
揃えた膝に額を乗せ、答えのない問いかけを繰り返す。そうしてどれだけの時を過ごしただろうか。陽の差し込まない牢で、判断する方法はない。
しかしある時、私を監視していた騎士達の気配が遠のいた。運ばれてきた食事の回数から考えるに、一週間目だったと思う。
牢に入れられてからずっと側にあった監視が居なくなったかと思えば、一際本能を刺激する大きな魔力がやって来る。それは、私を捕まえた水の精霊が守護する少年の気配だった。
次期アギニス公爵。類まれなる将来性を秘めた、この国で最も警戒すべき少年は、牢の扉を開けると何故か私の錠を外す。そして、
「――行くぞ、ユリア」
「は? 行くってどこに?」
「いいから来い。あまり時間がない」
急な展開に目を白黒させる私の手を取り立たせると、外の世界へと連れ出した。
***
あれから一月と少し。
牢から連れだされた私は『セルリー様付のメイド』という肩書を与えられ、現在セルリー様や精霊達から緩やかな監視を受けていた。
マリスと同郷であり、彼に関する情報を抱えている可能性が高い私は、本来ならば牢に繋ぎ、厳重な警備の元で管理されるべき捕虜。それが常に監視されてはいるものの、拘束されることなく日々を過ごしている。これは常ならば考えられない、破格の対応だ。
……まぁ、私では危害を加えるどころか、逃走もできないからだろうけど。
どう足掻いても、私ではこの学園に張られた結界を通り抜けることはできないし、精霊達の監視の目を潜り抜けることは不可能だった。
次期公爵を大変お気に召しているらしい彼女達は、常に私を見張っている。彼女達の姿が見えないからと油断してはいけないのだ。
以前、人気のないところでこっそり魔法を使おうと企んだことがあるのだが、私が魔力を動かした瞬間、精霊達は三人揃って目の前に現れた。仕組みは知らないが、一定量以上の魔力を使おうとすると、彼女達に伝わるらしい。
あの時は本気で心臓が止まるかと思ったし、もう駄目だと覚悟した。
しかしなぜか、あの一件は精霊達の胸に仕舞われ、私は拘束されることもなく、今もこうしてメイド服を着込んでいる。
その理由は次期アギニス公爵なのだろう、と最近思うようになった。彼を悲しませたくないから、私は見逃されたのだ。
セルリー様や王太子殿下が私と必要以上に接触しない理由も、そう。皆、公爵家の継嗣が私をどうするか、様子を窺っている節がある。
私の今後は彼にかかってるといっても過言ではない。それ故に、次期アギニス公爵との接し方に困っていた。
炎槍の勇者の孫で、雷槍の勇者と聖女の一人息子、アギニス公爵家の継嗣であり、マジェスタ国の王太子殿下の幼馴染兼右腕で、第三王女の婚約者。そうそうたる肩書きを背負う彼の胸中を、私は量りかねているのだ。
何故、私を牢から連れ出したのか。
何故、私に自由な振る舞いを許すのか。
何故、私から無理やり情報を得ようとしないのか。
何故、私は彼らとこうして深夜の林を徘徊しているのか。
答えを知る術もない自問を繰り返しながら、私は夜の林を五人の子供達と精霊三人、山の妖精に五羽のフェニーチェという異色の一団と共に進む。
月明かりが木漏れ日のように差し込む林の中、黙々と足を動かせば、踏み出すごとに乾いた枯葉がパリパリと音を立てて崩れ落ち、時折ポキと小枝が折れる感触が靴底から伝った。いともたやすく砕け散る葉や枝の感触はどこか軽快で、嫌いじゃない。むしろ好きだ。
村を囲っていた森の中もこんな感じだったなと、ぼんやり考えながら顔を上げる。そうして見えたのは、楽しそうに次期公爵へ話しかける子供達の姿だ。
「――というわけで、プフェ先生がドイル様達の行先を教えくれたんです」
「いただいた地図のお蔭で、最短距離でこられました」
ジェフ少年の言葉を受け告げように、ソルシエと呼ばれていた子供が言葉を紡ぐ。
「なるほどな。それであれほど早く合流できたのか」
ここまでの道のりを説明する二人にそう答えながら、公爵家継嗣は納得がいったという表情を浮かべ頷く。次期公爵の手を引くフィアは、そんな彼を真似ているのか鷹揚な態度で首を縦に振っていた。
そんな彼女の行動に、穏やかな空気が漂う。
……いやいやあんた達、なに微笑ましそうな顔してるの? さっきの壮絶な鬼ごっこをもう忘れたの? 切り替え早すぎるって!
ほっこり和んでいる少年達に、私は思わず心の中で突っ込む。
脳裏に浮かぶのは、先ほどまで強制参加させられていた追跡劇だ。
炎槍の勇者を倒し、マリスが放棄した魔獣をも始末した人間が、七不思議の解明なんて随分と子供じみたことをするものだと思っていた頃が懐かしい。気が付けば七不思議の解明に勤しむ次期公爵達に巻き込まれ、先日など妖精の捕獲を手伝わされた。
そして今回は、本来ならば教員が行うべき生徒の付き添いをセルリー様に押し付けられ、『青い人魂』と『すすり泣く木』の解明に乗り出した次期公爵達に付き合わされることになった。
教師が担うべき仕事をメイドに任せるなど、常識的にありえない。きっとなにか思惑があるのだろう。
元魔術師団団長であるセルリー様か、踏み込んできそうで踏み込んでこない公爵家継嗣か、はたまた王太子殿下か学長や教員、それとも城の連中か。
一体誰が何のために仕組んだのだと思案しながら、次期公爵達と共に人魂を探すことしばし。お目当てである人魂を発見したのは、今から一時間ほど前のことだった。
見る見るうちに遠ざかる人魂にジェフ少年達が音を上げたため、私と次期公爵は少年達を置き去りにし、青い光の塊とフィアを必死に追いかけた。
壮絶な鬼ごっこの始まりである。
ふわりと舞い上がったかと思えば、滑るように地面スレスレを飛ぶ人魂は、行く手を阻む木々などものともせず進む。それを鼻歌交じりに追いかけるフィアの姿に、私は可愛らしい幼女であろうとも彼女は精霊なのだと実感した。
徐々に上がる速度に文句が口をついて出て、自ずと息が上がった。
そして、募る疲労に限界を感じ始めた頃、私はすぐ側を涼しい顔で走る次期公爵の姿に戦慄した。暗がりの中、フィアに制止の声をかけながら、獣並みの速度で走れるなど、もはや人間の域を越えている。
――ていうか、なんで誰も次期公爵に引かないの? 明らかに人外な速度だったじゃん。私着いていくのがやっとで、滅茶苦茶辛かったんですけど。なんで皆なにごともなかったように会話してるの? 最近の人間達はあれくらい普通なの? なにそれ、怖い。
人間離れした公爵家の継嗣に怯えることなく、当然のように受け入れ雑談している少年達が、私には理解出来なかった。
人間は、己と少しでも違うものを敬遠する生き物だ。それが過ぎたる力ならばなおさら。
「月光樹の花は、少量ならば採取してよいと仰っていましたよ」
「へぇ。なら、グレイ様やクレアへの土産に少し持って帰るか」
従者の言葉に少し思案した次期公爵がそう答えれば、ルツェという商家の息子がすぐさま口を開く。
「ならばこちらの瓶などいかがでしょう? 魔法薬も可愛く持ち歩きたい、という令嬢方のご要望にお応えして作製した装飾入りの保存瓶です」
「ヘンドラ商会は、こんなものまで作っているのか……」
スッと差し出された煌びやかな瓶を眺めながら、次期公爵は呆れたように零す。
しかし興味は惹かれたのか、空瓶が詰められた箱を受け取ると中の品を確かめるように眺めた。
「お代は結構ですから、ものは試しに」
そう言いながら、ルツェは期待の籠った視線を次期公爵へそそぐ。その光景に目を細めた従者は、固い声で告げる。
「――ルツェ。いくら貴方でもドイル様を利用して宣伝しようなど、許しませんよ?」
「承知しております、バラド様。勿論、無理にとは言いません。ただ、こちらの品をドイル様が認め、王太子殿下や王女様に贈られたとなれば脚光を浴びるのは確かですから」
ルツェは笑みを崩すことなく答える。
その態度が癇に障ったのか、従者はますます表情を険しくした。
そのまま、無言で見つめ合う二人。まさに一触即発といった雰囲気である。
「二人ともそこまでだ。ルツェ、瓶はありがたく使わせて貰うが代金は払う。でなければ賄賂になってしまうからな。それから、グレイ様やクレアから問われないかぎり、瓶に関しては一切触れない。それでいいだろう? バラド」
しかし二人の間に漂うピリピリした空気も、そんな次期公爵の言葉で霧散する。
「畏まりました」
「ドイル様がそのように仰るのならば、私に異論はございません――いくらですか? ルツェ」
「一瓶金貨一枚で販売しておりますので、二瓶で金貨二枚になります」
公爵家継嗣の言葉に応えた二人は先ほどまでの雰囲気から一転、売買の態勢に入る。
切り替えの早い部下二人にため息を零しつつも、次期公爵が彼らに向ける目は優しかった。
「お疲れ様です、ドイル様」
「ルツェも悪気はないんです。商売命なだけで」
お疲れ気味の公爵家継嗣に、ジェフとソルシエが寄り添う。すると彼は「わかってる」と笑い、手にしていた箱を二人の前へ差し出した。
「折角だから、お前達も好きな瓶を選ぶといい。代金は俺が払うぞ」
次期公爵がそう告げると、ジェフ少年達は嬉しそうに箱の中を覗き込む。
「私も!」
「ああ」
元気よく手を上げたフィアが選びやすいよう、次期公爵はしゃがみ込む。そんな彼の側にはいつの間にか水の精霊と風の精霊も侍っており、手元の箱から瓶を選んでいた。
「ラファールとアルヴィオーネも、という前に選んでいるな……。バラド、この箱はすべてもらうからルツェには金貨十二枚渡してくれ」
すでに好みの瓶を選び終え互いに見せ合っている精霊三人に苦笑しながら、次期公爵は告げる。
「畏まりました」
「ありがとうございます。バラド様、おまけしますので金貨十一枚で結構です」
命に従い金貨を追加した従者に、ルツェは値引きを告げた。
一連のやり取りを見守っていた次期公爵は、次いで精霊達へと目を向ける。そして、彼女達が瓶を選び終えているのを確認すると、立ち上がった。
「お前達も終わったら、瓶を取りに来いよ」
「「はい!」」
歩きながら従者達に声をかけた公爵家継嗣は、そのまま二人の横を通りすぎ、こちらへとやって来る。そして、私の前に箱を差し出した。
「あまり選択肢は残っていないが、ユリアもどうだ?」
箱の中に並ぶ瓶はどれも鮮やかな色をしており、素材の透明度と彫り込まれた装飾が相まってとても綺麗だ。
私も女の端くれ。綺麗な小物は好きだし、花や動物、幾何学模様が彫られた美しい瓶はとっても欲しい。
しかし、次期公爵の思惑がわからない以上、贈り物を受け取るのは憚られる。それに魔王の末裔である私は、浄化作用を持つ月光樹の花には触れない。我慢できないこともないが、淡い光を放つ月光樹の花は私が手に取った途端皮膚を焼き、その輝きを失ってしまう。
皆が楽しげに瓶へ花を詰める傍らで、それはちょっと惨めだ。
綺麗な瓶は惜しいが、そのような光景を目にした彼らも興ざめだろうし、断ろう。
そう心に決めて、私は口を開く。
「えっと、私は……」
「ユリアはこれ!」
しかし、私の言葉は最後まで発することなくフィアによって遮られた。
そして箱から薄紅色の瓶がなくなり、私の手にはひんやりした感触。
「それでいいのか?」
「はい?」
突然の問いかけに理解が及ばずそう聞き返せば、次期公爵は「そうか」と零し部下達の元に戻ってしまった。
「私とおそろい」
そう言って笑うフィアに恐る恐る己の手を見れば、小花が幾多も咲いた薄紅色の瓶が握られていた。
あ、可愛い――じゃ、なくて!
美しいそれに一瞬目を奪われたが、すぐに「返さなくては」という想いが思考を占める。そんな己の判断に従い、公爵家継嗣の元に向かおうとするも、クンッと何かに強くスカートの裾を引かれ、たたらを踏んだ。
なんとか踏みとどまったものの、危うく転ぶところだった。瓶が割れてしまったらどうするのだと、私は原因となった幼女を見据える。
次いで文句を言おうとするも、先に彼女の口から告げられたその言葉に固まった。
「大丈夫。花は私が入れてあげる」
一体、彼女は私の心内をどこまで知っているのか。私の胸中をすべて見透かしているかのような台詞に、息を呑む。
幼女姿とはいえ彼女は精霊。見かけからは想像もつかない時を生きている可能性もあるが、そんなまさか。垣間見たフィアの底しれなさに、私は改めて畏怖を抱く。
そんな私の胸中を知ってか知らずか、彼女は無邪気な笑みを浮かべながらさらなる爆弾を落とした。
「ドイルも大丈夫。優しいだけだから」
怖がらなくて、大丈夫。
そう私に囁いてフィアは、次期公爵の元へと走り去る。
遠のく小さな背を唖然とした心持ちで見送りながら、私は手の中の小瓶を握る。次いで思い浮べたのは、人魂の正体がフェニーチェだと知った後のことだった。
***
散々走ったあげく、人魂の正体は次期公爵が飼っているフェニーチェ。非常にやるせない現実に、心身共に限界を超えた私は思わず座り込む。
――なんで私がこんな目に。
そんな考えが、脳裏を駆け巡る。戻ってきた精霊達と勢ぞろいしたフェニーチェ達の気の抜ける会話をどこか遠くに感じながら、私は本来教員がすべき生徒達への付き添いをなぜ私が行なっているのか、などと考えた。
そうして化け狸と称するに相応しい元魔術師長やそもそもの原因となったマリス、マジェスタを甘く見ていた過去の自分などを思い浮べ、心の中で罵倒することしばし。
上がっていた息も戻り、一通りの罵詈雑言を胸中で吐いたことで少しすっきりした私は、立ち上がりフィアやフェニーチェ達と戯れる次期公爵へと目を向ける。
すると私の視線に気が付いたフィアが、公爵家継嗣の元を離れ駆け寄ってきた。
「ユリア! もう大丈夫?」
「ええ」
そう答えればフィアは安心したように笑う。と同時に感じた魔力の動き。
「よかった。あのね、あっちにね――」
嬉しそうな笑みを浮かべ、自身が今しがた見てきたものを教えてくれるフィアの言葉に耳を傾けつつ、私は次期公爵へと目を向ける。
――もしかして、私が回復するのを待っていてくれた?
私が立ち上がってからすぐに、周囲を探るように広がった次期公爵の魔力にそんなことを思う。次いで、込み上げてくる感情。
温かくむず痒い、そして少し苦しい。
それは水の精霊に捕まったあの日から今日に至るまで、幾度となく抱いた感情だった。
***
じわりと広がる嬉しさとチクチク胸を刺す罪悪感を思い出しながら、フィアと戯れる次期公爵を見つめる。
丁度、瓶が入った箱を亜空間に仕舞い終えたところだった彼は、フィアに飛びつかれて驚きつつも、ふらつくことなく彼女を受け止めていた。
仕方ないなと言いたげな表情でフィアの頭を撫でる彼の表情は優しげで、その手を甘受する彼女は「ほらね」と得意げな笑みを浮かべて私を見る。
「……わかってるわ、そんなことくらい」
次期公爵は優しいのだと示したいらしいフィアのその行動に呆れつつ、私はそう小さく呟いた。
視線を落とせば、当たり前のように数に入れられ渡された薄紅色の小瓶が目に映る。
これを渡した次期公爵に、なんの思惑もないことくらいわかってる。部下である少年達や精霊達にあげるのだから私にも、とでも思ったのだろう。なんてことはない、彼の優しさからくる気遣いだ。でも、それを素直に受け入れることは、私にはできない。
例えば、私の処遇をどうするか言い合う人々の前で庇われた時。
例えば、私の身を守るために彼の目の届く学園へと連れてこられたのだと知った時。
その優しさを嬉しく思うのだけれども、私は素直に喜べない。
なぜなら、私は彼に大事なことを話していないからだ。
我が一族は、恐怖や嘆きといった負の感情を糧に生きる。
そう伝えた瞬間、きっと次期公爵が私を見る目は変わる。まるで人間を相手にしているかのように振る舞ってくれる彼の顔は嫌悪を浮かべ、私を敬遠するようになるだろう。
また優秀な次期公爵や王太子殿下は、私達の性質とこれまでのマリスの行動から、奴の目的が虐殺と混乱だとすぐに気が付くだろう。
そうなったら、いまのような緩やかな日々は望めない。
私は牢に戻され、場合によっては力づくで情報を吐かされる。そして同胞達は駆逐されるのだ。
そう容易く想像できるから、言わなかった。
次期公爵がどれほど気遣ってくれようとも、私の内面に踏み込みあぐねているわけではなく、ただ自ら口を開くまで待ってくれているだけなのだと気が付いても、言えなかった。
彼らに火の粉が降りかかる可能性を知りながら、我が身可愛さに口を噤む私に、次期公爵の優しさを甘受する権利などない。
私には不相応な薄紅色の瓶を握りしめながら、そう己に言い聞かす。
「行こう!」
「ああ」
先を急かすように手を引くフィアに抗うことなく、次期公爵は歩き出す。すると当然、部下や精霊、フェニーチェ達もその後を追うように動き出す。
あの中に加わりたいなら、包み隠さず伝えなければならない。
――でも、すべてを告げた私を、緩やかな終焉を望む同胞を、彼らは受け入れてくれるのだろうか?
フィアは、次期公爵を信じろと言う。
確かに次期公爵は、フィアをはじめ精霊達に優しい。フェニーチェや馬にだって、『俺の部下』と称する人間だった。
――ならばその優しさを、私達にも向けてくれるだろうか?
人間離れした力を保有する次期公爵を、部下だと名乗る少年達は恐れず受け入れている。
――ならば、たいした能力を持たない人あらざる者も受け入れてくれるだろうか?
そう自問自答するが答えは出ない。しかし、
「――ユリア! 早く来ないと置いていくぞ」
立ち止まる私にそう呼びかけてくれる次期アギニス公爵を、信じてみたいと思い始めていた。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。




