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幕間 幼き蛮勇
気がついたときには、幼い少年はもう走り出していた。あまりに未熟な身体で、無謀とも言える行為。
目指す先は、少年と同じ年頃の少女。大きく目を見開き、両手を口に当てている。彼女のその瞳に宿るものは恐怖で、その原因は速度を緩める事無く突っ込んでくる大きなトラックだった。
周りの大人たちが悲鳴を上げる頃、少年の手が少女に届き、そのまま体当たりするように少女を突き飛ばした。
そこでようやく聞こえてくるブレーキ音。だが、あまりに遅い。
少年が突き飛ばした事で少女はトラックの予測通過範囲を外れる事が出来るが、少年の方は少女を突き飛ばすエネルギーを消費してしまった分、当然のように予測通過範囲の中に取り残される結果になった。
突き飛ばされた少女の瞳に少年の姿が映り、少年の瞳の中に少女の姿が映る。
刹那の視線交錯の中で少女の口がわずかに動く。
直後、少年の視界が暗転し、少女の姿は見えなくなった。