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奇跡ですか? では申請書にご記入下さい  作者: 天笠恭介
第三章 創造神の誤算
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幕間 神の奇跡のロビーにて



 天界に戻って来たシュナイツァは、神の奇跡のフロントロビーで一人焦れていた。

 上司に今回の報告をする予定が何故かなかなか取り次いでもらえず、加えて自分の仕事場に入る事も出来ず、ただじっと待っている事しか出来ないためだ。


 ――まったく、いったい何がどうなっているというのでしょうね。


 こんな事は初めてだった。もちろん現在彼が直面して携わっている仕事も前代未聞だが、その状況下でなおかつ報告にも仕事にも行けないというのは、何かおかしい。

 すでに天界に来てから地界時間で一日以上が経過してしまっている。空海には二日は戻らないとは伝えたが、シュナイツァは何か嫌な予感を感じ始めていた。


 二回目の危機で発生した明らかなイレギュラー。本来シュナイツァの奇跡が発現した事で、あの危機を乗り越えられる事は確定事項のはずだった。

 創る物が役に立たないものであれば別だが、そういった可能性を排除するために彼が直接現地に行っているのだ。あの時空海が創造したものは、決して役に立たないものではない。


 だというのに、空海は音消シールの他に身代わリングも使ってしまった。神器を二つ使ったという事は、一つではあの危機が超えられなかった事になる。だから、それは創造を認めた彼が何かミスしたという事になるのだが、それはありえない。


 ――あのイレギュラー……妙ですね。


 神器を二つも使わなければならなくなった原因は、もちろんあの時に人質の女が声を上げたためである。偶然で済ます事が当然なのかもしれないが、それにしてはタイミングが見事過ぎた。

 声を上げるタイミングがもう少し遅ければ、空海の拳は相手が撃つよりも早く届いていただろう。逆に声を上げるのが早ければ、空海は射線上から逃げる事が出来たはずだ。

 あのタイミングだったからこそ、ほぼ相打ちになった。そして半端な攻撃に怒った男が人質を無視して空海に固執する要因になり、結果人質に突き落とされた。


 偶然が重なりすぎている。まるでそうなるように運命を弄られたかのように。

 あまりに不可解だった。


 ――ふう。これ以上は待てませんね。


 シュナイツァは待合席から立ち上がると、フロントの受付に対して勝手に入らせてもらうと断り、制止する受付を無視して奥へ進んで、


「え? シュナイツァ? 貴方なんでここにいるの?」


 見知った顔の女性に行き会った。シュナイツァと同じく黒髪黒瞳のスーツ姿で、何故か非常に驚いているが、それは彼も同じだった。

 シュナイツァが出会った女性――フィリア・ドミニオーンは時空課在籍の神で、現在は彼と同じく空海の運命流矯正に関わっており、またその名の通り彼の妻だ。


「何故って、報告に戻って来たからですよ。どこかおかしいですか? フィリア」


 くいっと眼鏡を直すシュナイツァに対して、


「何を言っているの? 貴方のところへ問題が発生したから引き続き対象の傍にいるようにって連絡が行ってるはずよ」


 フィリアはどこか焦りを感じさせる声で彼の知らない情報を口にした。


「ふむ?」


 シュナイツァは首を傾げつつ、鞄の中を漁ってファイルを取り出し、ページをめくっていく。


「む……」


 最新ページに、未確認の書類が挟まっていた。その内容は――




 対象の周囲で予定外の死者が複数人発生し、当初の予想が大幅にずれる結果になった。

 簡易再算出の結果、当初の予定が前倒しにされる可能性が高い。

 当該担当、第四級創造神シュナイツァ・ドミニオーンは、定期報告を無視し、追って連絡があるまで対象の傍で待機する事。




「失策ですね。イレギュラーのせいで見落としました」

「見落としていたじゃないわ。早く対象の元に戻らないと取り返しのつかない事になるわよ」

「分っています」


 シュナイツァはすぐさま踵を返し、ふと思い出したように再び振り返った。


「フィリア。現在の貴方の権限で行える時間干渉の限界時間はどの程度ですか?」

「時間干渉? えっと、それは地界時間換算で答えればいいの?」

「ええ。一応、保険をかけておきたいので」

「……そうね。大体五分ってところかしら。今から申請を出せば十分くらいまで伸ばせるかもだけど、どこもてんやわんやだし」


 シュナイツァの問いに答えたフィリアが、少し疲れたような息を吐き出した。


 事の大本は運命課だが、時空課である彼女や創造課であるシュナイツァの同僚も方々のサポートに回ったりでろくに休む時間が無い。

 むしろ、現地に赴くシュナイツァの方が休める時間は多いくらいだ。それを理解した上で、しかし彼は妻に新たな負担を頼まなければならない。


「延長の申請を出しつつ、いつでも行使出来るように準備しておいて下さい」

「……分ったわ。この件が終わったら何か埋め合わせをしてね」

「善処します」


 了解を取り付け、シュナイツァは今度こそ天界を後にして地界を目指す。


 あまりにも予定外の事態が多すぎる。その事実に漠然とした不安を抱えながら、シュナイツァは意識を集中し、空海の所在を捜し始めた。




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