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元最強のタンカー、転生したが家の都合で女装して王立魔法女学校護衛学科に通います。  作者: 三科異邦


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実技演習

 昼休みが終わり、護衛学科一年A組は実技棟へと移動していた。


 石造りの建物は、学園の他の施設よりも無骨だ。

 壁には歴代の護衛の名と功績が刻まれている。


「うわ……ここ、ちょっと怖くない?」


 ミレイユが声を落とす。


「護衛学科って感じでしょ」


 クラリスが肩をすくめた。


 クロエは、何も言わずに周囲を見回す。


(遮蔽物、床の反射、天井の高さ……)


 ――無意識だ。


 実技棟の中央訓練場に入ると、すでに教員が待っていた。


「集まれ」


 低く、通る声。


 全員が半円状に並ぶ。


「本日から、護衛学科の実技を開始する。

 だが、今日は剣を握らせない」


 ざわ、と小さなどよめき。


「護衛の役割は、倒すことではない。

 守ることだ」


 教員は、一人ひとりを見渡す。


「まず学ぶのは、立ち位置、視野、判断」


 その言葉に、クロエの背筋が僅かに伸びた。


(……正しい)


 前世で、何度も叩き込まれた教えだ。


「実技は来週から行う。

 今日は説明と、簡単な確認のみ」


 教員は、訓練場の床に描かれた線を指した。


「この円の中心に立つ。

 周囲からの脅威を、どう捉えるか」


「敵を想定するのですか?」


 誰かが尋ねる。


「敵でも、事故でも、味方でもいい。

 護衛にとって重要なのは――」


 一拍。


「最初に動くべき場所を間違えないことだ」


 教員は、数名を指名した。


「……クロエ・ヴァルディア」


 名を呼ばれ、クロエは一瞬だけ驚く。


「前へ」


 円の中心に立つ。


 視線が集まる。


(……落ち着け)


 クロエは、深く息を吸った。


 頭の中で、自然と配置が組み上がる。


(脅威が来るなら、あそこ。

 人が倒れるなら、右。

 守る対象がいるなら……背後)


「何を考えている?」


 教員が問う。


「……守るべき人が、どこにいるかです」


 即答だった。


 教員の眉が、僅かに動く。


「なぜ?」


「危険を見るより先に、

 守る対象を見失うと……遅れるからです」


 静まり返る訓練場。


 誰もが、言葉を失っていた。


 それは、教本に書いてある答えではない。


 だが――

 護衛として、正しすぎる答えだった。


「……戻れ」


 教員は短く告げた。


 クロエが列に戻ると、ミレイユが小声で囁く。


「ねえ……クロエってさ、

 前から護衛やってた?」


「そんなわけないでしょ」


 クロエは、困ったように笑う。


(……やってた、なんて言えない)


 ふと、視線を感じた。


 リリアだ。


 彼女は、クロエを見つめていた。


 まるで――

 剣が、盾を見つけたような目で。


 その時、教員が一つだけ告げる。


「来週からの実技で、

 お前たちの“適性”を測る」


 その言葉に、クロエの胸が僅かに鳴った。


(……測られる、か)


 盾としての自分が、

 少しずつ、浮き彫りになっていくのを感じながら。


――


実技初日。


 護衛学科一年A組は、訓練場に集められていた。

 今日は木剣も盾も使わない。


 使うのは――

 人だ。


「本日は二人一組。

 片方が“要人役”、もう片方が“護衛役”を務める」


 教員の声は淡々としている。


「目的は単純。

 要人を、安全圏まで移動させろ」


 安全圏、と言っても円で区切られただけの簡易なものだ。


「妨害役は、教員が担当する。

 触れられた時点で失格」


 ざわり、と空気が引き締まる。


 組み合わせが発表される。


「リリア・エーデルフェルト」

「……クロエ・ヴァルディア」


 教室が、一瞬ざわついた。


「また同室ペア?」

「偶然……?」


 クロエ――アレンは、内心で息を吐く。


(……まあ、そうなるか)


 リリアは、こちらを見て静かに頷いた。


「よろしくお願いします、クロエさん」


「こちらこそ」


 訓練が始まる。


 クロエは、自然とリリアの半歩後ろに立っていた。


(……違う)


 前世の感覚が警鐘を鳴らす。


(守るなら、半歩前だ)


 だが、クロエは一歩引いた。


 ここでは、“クロエ”でいなければならない。


「始め!」


 教員が合図を出した瞬間――

 空気が変わった。


 妨害役の教員が、素早く距離を詰めてくる。


「……速い」


 リリアが小さく息を呑む。


(来る)


 クロエは、無意識に地面を蹴っていた。


 ――考える前に、体が動いた。


 リリアの前に出る。

 進路を塞ぐように、腕を広げる。


 教員の動きが、一瞬止まった。


「……ほう」


 その隙に、クロエは低く告げる。


「今です、後ろへ!」


 リリアは、反射的に従った。


 次の瞬間。


 クロエの足が、訓練場の段差に引っかかった。


「っ……!」


 体勢が崩れる。


 ――事故だった。


 前に出たのは正解。

 だが、足元への意識が一瞬、遅れた。


 倒れる。


 その瞬間、クロエは――

 自分の体を、盾のように丸めて受け身を取る。


 どさり、と音が響く。


「終了!」


 教員の声。


 訓練場が、静まり返った。


「クロエ!」


 ミレイユの声。


 リリアが、駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか!?」


「……はい、大丈夫です」


 痛みはある。

 だが、致命的じゃない。


(……庇う癖、抜けてないな)


 教員が、クロエを見下ろす。


「なぜ、前に出た?」


 一瞬、迷う。


 だが、クロエは答えた。


「……気づいたら、体が」


 嘘ではない。


 教員は、しばらく黙ってから言った。


「護衛役としては、正しい判断だ」


 ざわ、と空気が揺れる。


「だが」


 一拍。


「学生としては、危険すぎる」


 リリアが、唇を噛んだ。


「私が、遅れました。

 クロエさんに無理を――」


「違う」


 教員は、きっぱりと言った。


「護衛が前に出る判断は正しい。

 だが、己の安全管理を誤った」


 クロエに視線を戻す。


「お前は……

 守ることに慣れすぎている」


 その言葉が、胸に刺さった。


(……やっぱり、そうか)


 実技は、その事故で中断された。


 クロエは、大事には至らなかったが、

 その日のうちに学年中の話題になった。


 ――「あの子、盾みたいだった」

 ――「庇うの、早すぎない?」

 ――「護衛向きすぎるでしょ」


 そして。


 離れた場所で、

 生徒会長セレスティア・フォン・アルヴェインは、報告書を受け取っていた。


「……クロエ・ヴァルディア、ですか」


 その名を、静かに口にする。


「面白いわね」


 事故は、

 ただの事故では終わらなかった。

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