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元最強のタンカー、転生したが家の都合で女装して王立魔法女学校護衛学科に通います。  作者: 三科異邦


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3/11

決意、そして

屋敷は、いつもより静かだった。


 明日、アレンは王立女子学園へ向かう。

 その事実を、誰も口にしないまま、夜が更けていく。


 荷物は、すでにまとめられていた。

 制服、書類、最低限の衣類。


 そして――

 盾は、置いていく。


 壁に立てかけられたそれを、アレンはしばらく見つめていた。


「……持っていかなくて、いいんですよね」


 背後から、父の声がした。


「学園に剣も盾も、必要ない」


 そう言いながら、父は隣に立つ。


「だが、忘れるな」


 低く、確かな声。


「お前自身が盾だ」


 アレンは、静かに頷いた。


「はい」


 それだけで、言葉は足りた。


 食堂では、簡素な夕食が用意されていた。

 特別な料理はない。

 いつも通りの、家族の食卓。


 エリシアは、珍しく静かだった。


「……ねえ」


 食後、彼女がぽつりと声を出す。


「向こうでさ、無理しないで」


 アレンは微笑む。


「それは……無理かもしれません」


「だよね」


 二人は、同時に笑った。


 母は、そっとアレンに包みを渡した。


「お守りよ」


 中には、小さな布切れ。

 ヴァルディア家の紋が、控えめに縫い込まれている。


「困った時は、触りなさい」


「……はい」


 その夜、アレンは眠れなかった。


 窓の外には、静かな星空。

 風が、木々を揺らす。


 ベッドの上で、目を閉じる。


 前世の記憶が、頭をよぎる。


 魔王城。

 最後の戦い。

 背中を預けた仲間たち。


 ――そして、裏切り。


 胸が、少しだけ痛んだ。


「……でも」


 小さく、呟く。


「今度は……違う」


 ここには、理由がある。

 命じられた役目がある。

 そして――

 帰る場所がある。


 夜更け、扉が小さくノックされた。


「アレン」


 エリシアだった。


「寝れない?」


「……少し」


 彼女は、部屋に入り、ベッドの端に座る。


「私さ」


 少し間を置いて。


「もし立場が逆だったら、きっと逃げてた」


 アレンは、何も言わなかった。


「でも、アレンは行くんだよね」


「はい」


「……ほんと、損な性格」


 エリシアは、笑う。


 でも、その目は少し潤んでいた。


「帰ってきなよ」


「もちろんです」


 アレンは、はっきり言った。


「守る場所が、ここにもありますから」


 エリシアは、深く息を吸って、立ち上がる。


「じゃあさ」


 扉の前で振り返る。


「明日からは――

 “エリシア二号”、頑張って」


「……努力します」


 扉が閉まり、部屋は再び静かになる。


 アレンは、天井を見上げた。


 怖い。

 不安だ。

 それでも――


 立つ場所は、決まっている。


 誰かの前。

 誰かの恐怖の、ほんの一歩先。


 優しすぎる盾は、

 夜にいくつかのものを置いていった。


 そして、朝を待つ。


 ――明日からは、少女として。



――


王立女子学園は、“学園”という言葉では足りなかった。


 白い外壁。

 高い尖塔。

 王城に隣接するように築かれたその建物は、教育機関というより、ひとつの政治機関に近い。


 ここで育つのは、ただの令嬢ではない。


 未来の王妃候補。

 次代の宰相候補。

 国家中枢を担う貴族の後継者たち。


 そして――

 その命を守る者たち。


 アレンは、式場の端の席に座っていた。


 長い髪。

 女子制服。

 周囲には、当然のように少女たちだけ。


 誰も、彼を疑っていない。


 それほどまでに、ヴァルディア家の“仕上げ”は完璧だった。


 やがて、鐘の音が鳴り響く。


 ざわめきが収まり、壇上に学園長が立った。


「新入生諸君、王立女子学園への入学を歓迎する」


 穏やかな声だが、その場の空気は張り詰めている。


「本学園は、二つの学科によって構成されている」


 学園長は、ゆっくりと告げる。


「貴族科」

「護衛学科」


 会場が、静まり返る。


「貴族科は、王族・公爵家・侯爵家・伯爵家を中心とした、

 次代の国家運営者を育成する学科」


「護衛学科は、彼女たちの命を守るために存在する」


 明確な役割分担。

 対等ではない。

 しかし不可欠な関係。


「この学園において、貴族科は“未来”であり、

 護衛学科は“盾”である」


 その言葉に、アレンの胸が、わずかに熱を帯びた。


(……盾)


 その言葉は、彼の魂に深く染み込んでいる。


 学園長は続ける。


「次に、生徒会長の挨拶を行う」


 場の空気が、変わった。


 ざわめき。

 視線の集中。


 壇上に現れたのは、一人の少女。


 銀色に近い白金の髪。

 背筋の伸びた姿勢。

 纏う空気そのものが“格”を持っている。


「公爵家令嬢――

 セレスティア・フォン・アルヴェイン」


 会場が、ざわりと揺れる。


 現・生徒会長。

 王立女子学園の頂点。


 セレスティアは、静かに一礼した。


「新入生の皆さん、入学おめでとうございます」


 声は柔らかい。

 だが、意志は揺るがない。


「この学園は、学ぶ場であると同時に、

 “役割を背負う場”でもあります」


「貴族として生きる覚悟」

「護衛として立つ覚悟」


「どちらも、軽いものではありません」


 彼女の視線が、護衛学科の席にも向けられる。


「ですが、恐れる必要はありません」


 微笑む。


「あなたたちは一人ではない」


「ここに集った者たちは、

 共に未来を支える仲間です」


 その言葉は、綺麗事ではなかった。

 命の重みを知っている者の声だった。


 拍手が起こる。


 続いて、学園長が告げる。


「次に、新入生代表挨拶」


 名が呼ばれる。


「伯爵家令嬢――

 リリア・エーデルフェルト」


 淡い金髪の少女が壇上に上がる。


 姿勢は完璧。

 緊張を感じさせない落ち着き。


 ――主席。


 リリアは、深く一礼する。


「この学園に集った私たちは、

 生まれによって役割を与えられています」


「それは、選んだものではありません」


 静かな声。


「けれど――

 どう生きるかは、私たちが選べます」


 一瞬の間。


「誇り高くあること」

「責任から逃げないこと」

「誰かの盾であることを、恥じないこと」


「私は、この学園でそれを学びたい」


 真っ直ぐな言葉だった。


 拍手が、先ほどよりも大きく響いた。


 アレンは、静かに手を叩きながら思った。


(……すごい人たちだ)


 強い。

 覚悟がある。

 迷いがない。


 その中で、自分は――


(……ただ、守りたいだけだ)


 目立たなくていい。

 名を残さなくていい。


 誰かの前に立てれば、それでいい。


 入学式は、厳かに進み、やがて閉会した。


 生徒たちが立ち上がり、ざわめきが戻る。


 少女たちの声。

 笑顔。

 期待と緊張。


 その中心に、アレンも立っていた。


 誰にも気づかれず。

 誰にも知られず。


 ただ一人、

 盾として、戦場に足を踏み入れた。


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