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元最強のタンカー、転生したが家の都合で「女装」して王立魔法女学校護衛学科に通います。  作者: 三科異邦


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緊張、伯爵令嬢の末路

翌朝


 朝の光が、寮の窓から差し込む。


 クロエ・ヴァルディアは、まだ少し眠そうな顔でベッドから起き上がる。

 髪を整え、制服に袖を通す。

 いつも通りの動作。

 だが、昨日の事件の疲れは隠せない。


 一方、私は自分のベッドからそっと出て、朝の準備を始める。

 ふと視線を向けると、クロエが水を飲むために洗面所に向かう。

 いつもなら、自然に肩越しに話しかけたり、距離を詰めて並んだりするのだが――


(……やっぱり、ちょっと離れておこう)


 無意識に、少し横のスペースを空けて歩く自分に気づく。

 まるで、前夜に頭をよぎった“もし男だったら”の考えを避けるかのように。


「おはよう、クロエさん」


 声は明るく、普段通り。

 でも距離は、ほんの少し離れている。


 クロエは、にっこり笑う。


「おはようございます、リリア」


 笑顔はいつも通り。

 だが、私の心臓は、ほんの少しだけ高鳴った。


(……なんで、こんなに意識してしまうんだろう)


 洗面所で顔を洗うクロエを見ながら、私は自分に言い聞かせる。


(大丈夫。

 クロエさんは女の子。

 何も問題はない)


 だが、昨日の小さな揺れが、行動に残っていた。


 歩幅を少し変え、隣のスペースに踏み込まず、手を伸ばすタイミングも少し遅れる。

 その微妙な距離感。

 クロエには気づかれない程度だが、確かに、私の心の反映だった。


 クロエは何も言わず、ただ笑顔で私を見送る。

 その姿を見て、私はさらに深く息を吐く。


(……いいの、いいの。

 今日も一日、無事に過ごせば)


 それだけを心に決め、制服を整える。

 いつも通りの朝。

 けれど、距離感は、昨日よりほんの少しだけ変わっていた。


 朝の光が差し込む教室。

 クロエ・ヴァルディアは、少し眠そうな目をこすりながらも、いつも通りの制服姿で席に着く。

 リリアも、昨日よりは少しだけ自然な動作で隣の席に座る。


 ――けれど、まだわずかに距離がある。


 授業が始まると、先生の声が教室を満たす。

 魔術理論の説明や護衛学科向けの基礎訓練の指示が飛ぶ中、リリアは少しずつ手元を動かし、自然にクロエと肩を並べるタイミングを増やしていく。


(……朝より、平気かも)


 クロエが隣で小さく笑う。

 それだけで、心の中のわだかまりが、少し溶けていく。



訓練場


 昼休みを挟み、屋外の訓練場。

 護衛学科と貴族科の合同訓練が始まる。


 クロエは盾を構え、リリアは隣で剣を振る。

 昨日の出来事のせいで、無意識に少し距離を置いていたが、訓練を進めるうちに自然と肩を並べる。


(……やっぱり、一緒の方がやりやすい)


 リリアの手の動きも、呼吸も、クロエに合わせて微調整される。

 二人の呼吸は、訓練を通して少しずつ同期していく。


 クロエは、ふとリリアを見る。

 目が合い、互いに小さくうなずく。

 言葉はなくても、昨日の距離感が少しずつ縮まったことを互いに認める瞬間だった。


 午後の学園。

 授業が終わり、クロエ・ヴァルディアは静かに廊下を歩いていた。


(……大丈夫だろうか)


 頭の中で繰り返されるのは、昨日の森での出来事。

 セレスティアが負傷したあの瞬間の光景。

 肩に触れ、抱き上げた感触が、まだ胸に残っていた。


 クロエは自然な足取りで医務室に向かう。

 守るべき相手の安否を確認するのは、護衛の基本だ。



医務室


 ドアをノックして入る。


「……失礼します」


 クロエの声は低く、静かだ。

 医務室の空気は、昼の光に照らされて少し柔らかく見える。


 ベッドの上には、包帯を巻いたセレスティア・フォン・アルヴェイン。

 顔色は昨日よりずっと良く、読書をしている。


「クロエ・ヴァルディア。

 ……来てくれたのですか?」


 その声には、感謝が滲む。

 けれど、決して甘えるような響きではない。


 クロエは、少し頭を下げる。


「昨日は……申し訳ありません。

 護衛として、もう少し注意できればと」


 言葉は短く、真剣だ。

 視線は逸らさず、でも柔らかい。


 セレスティアは笑みを返す。


「いいえ。

 あなたがいなければ、私は……もっと酷い目に遭っていたでしょう」


 言葉を選びながら、包帯を軽く握る。

 その手が、自然とクロエに向けられる。


「……ありがとうございます」


 クロエは、少しだけ安堵の息を吐く。

 目の前の人を守る。

 それだけで、心の緊張が解ける瞬間。



 静かな空間。

 二人の間には言葉少なでも、確かな意思のやり取りがある。


「クロエさん……」


 セレスティアが、そっと声をかける。


「……無理はしないでください。

 あなたの体は、盾としても、あなた自身としても、大切なのですから」


 クロエは、目を細めて小さく頷く。


「……はい。

 これからも、必ず守ります」


 その言葉に、セレスティアは軽く微笑んだ。


「心強いですわ。

 ……改めて、感謝します」


 クロエは頭を下げ、静かに部屋を後にする。

 その背中は、昨日と変わらず強く、

 けれど少しだけ柔らかさも混ざっている。


 セレスティアは、クロエの去った後も、ベッドに座ったまま静かに呟く。


「……やはり、彼がいると安心しますわ」


 胸の奥で、静かな感謝が膨らんだ。


 放課後の教室。

 授業はすべて終わり、廊下にはまだ数人の生徒が残っている。

 クロエ・ヴァルディアは、自分の机で書類整理をしていた。


 そこへ、護衛学科の女の子――エマが少し恥ずかしそうに近づいてきた。


「クロエさん……あの、少しだけお話、いいですか?」


 声は小さく、でも決意が感じられる。

 昨日の合同訓練で、貴族科にいじめられていた彼女だ。


 クロエは顔を上げ、にっこりと笑う。


「もちろん。どうしました?」


 エマは、机の隣に腰掛け、少し肩を丸める。


「……その、伯爵家の令嬢――エレノアさんのことですけど、

 学園から……正式に退学したそうです」


 クロエは黙って聞く。

 その瞳には、柔らかさと警戒が同居する。


「ええ……? 本当に?」


「はい。

 今日、学園の掲示板にも出ていました。

 園外演習での情報漏洩と、誘拐未遂への関与――ということで。

 学園側も、家族側も、正式に処分が下ったそうです」


 クロエは、ゆっくりと頷く。

 昨日の森での出来事が、こうして確定事項になったことを受け止める。


「……なるほど。

 やはり、善悪の区別は、曖昧にはできませんね」


 クロエの声は落ち着いている。

 だが内心では、守るべき者を危険に晒した“嫉妬”の怖さを改めて感じていた。


 エマは、少し顔を上げる。


「クロエさん……あの時、助けてくださって、本当にありがとうございました」


 小さな声だが、真心がこもっている。


「……君も無事で良かった」


 クロエは、短く答える。

 でもその言葉の重みは、エマにしっかり伝わった。


 エマは少し笑みを浮かべ、立ち上がる。


「じゃあ、私はこれで……

 でも、クロエさんには、今日のことだけは知ってほしくて」


 そう言って、ゆっくりと教室を後にした。


 クロエは机に戻り、窓の外を見つめる。


(……嫉妬や不安で動く者もいる。

 でも、守るべき相手を護った結果は、必ず未来につながるかな)


 小さく息を吐き、再び資料に目を落とした。


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