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元最強のタンカー、転生したが家の都合で「女装」して王立魔法女学校護衛学科に通います。  作者: 三科異邦


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元最強タンカー転生する

新作書きました。よろしくお願いします。

 暗黒の城の最深部、重く垂れこめる空気の中、ついに魔王の姿が現れた。

 その巨躯は天井に届きそうなほど高く、体から渦巻く闇の魔力は、近づくだけで身体を震わせる。


 「……ここが、最後の戦いか」

 アレン・パインズは握り締めた盾を胸に、仲間の前に立った。


 剣士のライアン、魔法使いのセレス、弓のレオナ――勇者パーティは全員揃っている。


「アレン、今日は頼むぞ!」ライアンが叫ぶ。


「任せろ、俺が盾になる!」アレンは短く返すと、盾を前に差し出した。


 戦闘は苛烈を極めた。

 魔王の一撃が城壁を震わせ、仲間たちが吹き飛ばされる。

 だがアレンは盾で仲間を守り、動きを読み、攻撃の隙を作った。

 「セレス、魔力結界!レオナ、後方から支援!」

指示は瞬時に飛び、全員が連携して戦う。


 長時間に及ぶ激闘の末、魔王はついに動きを止めた。

「今だ、ライアン!」

 仲間の剣が胸元に深く突き刺さる。

 魔王は呻き、崩れ落ちる。

 「や……やったか……!」

 アレンは息を荒げながらも、守り切った安堵と達成感に胸を震わせた。

 周囲の戦場は静まり返り、勝利の余韻が染み渡る。

アレンは初めて微かに笑った。


 城下町は勝利の知らせで沸き立っていた。

 王国は、魔王討伐を祝う盛大な祝宴を催すことに決めていた。

 アレンたちは疲れ果てた身体を引きずりながらも、盛装に着替え、宴に参加する。

 広間には王や貴族たち、民衆、勇者パーティの仲間たち――祝福の笑顔があふれていた。


 アレンは杯を掲げ、仲間たちに微笑む。

「皆のおかげだ……俺たち、やり遂げたんだな」

ライアンも微笑み返す。


「さすがだ、アレン。盾として、完璧だったよ」


 アレンは短く頷いた。

 だが、どこか微かに胸騒ぎがあったことも否めなかった。


 その胸騒ぎは的中した。

 隣に座るライアンが、にこやかに微笑みながらも、その目には冷たい光が宿っていた。


「アレン……ありがとう。ここまでよく守ってくれた」


その言葉は親愛に満ちているように聞こえた。

しかし、アレンの胸がひんやりと冷たく感じた。何かがおかしい。


「……悪いな」


 低く、乾いた声。

 次の瞬間、背中に衝撃が走った。


 熱。

 焼けるような痛み。

 防ぐ暇もなかった。俺は“味方”からの攻撃を想定していなかったから。


「な、にを……」


 膝が崩れ、盾が倒れる。

 振り返ると、そこには勇者と、仲間たちが立っていた。


 誰も、俺の目を見ていなかった。


「お前が生きてると、都合が悪い」

「功績は勇者だけでいい」

「……盾役なんて、記録に残らなくていいだろ」


 ああ、そうか。


 ようやく理解した。

 魔王よりも恐ろしいのは、剣でも呪いでもない。


 恐れと欲だ。


「……そっか」


 声が、やけに穏やかだったのは、自分でも意外だった。


「じゃあ……最後に、一つだけ」


 俺は倒れながらも、もう一度盾を握った。


「次は……守られる側になれたら、いいな」


 魔法が降り注ぎ、意識が闇に沈む。

 それでも、後悔はなかった。


 誰も死ななかった。

 それで、十分だった。


 ―――


次に目を覚ました時、俺は赤ん坊だった。


 柔らかな布に包まれ、誰かの腕の中で揺られている。

 視界はぼやけ、音もくぐもっている。


「……男の子?」


 驚いた声。

 次いで、ざわめき。


「この家で……?」

「何代ぶりだ……」


 意味は分からない。

 ただ、不思議と安心していた。


 温かい。

 守られている。


 それが当たり前だと、疑いもしなかった。


 この時の俺はまだ知らない。

 自分が、かつて誰かを守り続けた盾だったことも。

 この家に生まれた“意味”も。


 ただ静かに、目を閉じる。


 優しい手に抱かれながら――

 新しい人生が、始まった。


その家は、長い歴史を持つ護衛の名門だった。


 名を、ヴァルディア家。

 王族や貴族の影として仕え、表舞台に立つことはない。

 剣よりも盾を、栄光よりも生存を選び続けてきた一族。


 そして一つ、奇妙な特徴があった。


 ――女の子しか、生まれない。


 それは迷信でも噂でもなく、厳然たる事実だった。

 代々、娘のみが生まれ、家は母から娘へと受け継がれてきた。


 だからこそ、その日。


「……二人?」


 産声が、二つ重なった瞬間。

 屋敷の空気は、目に見えて変わった。


「双子、です。姉妹の……」


 産婆の言葉に、誰もが安堵しかけ――


「……いえ」


 一瞬の、沈黙。


「下の子は……男の子、です」


 その場にいた全員が、言葉を失った。


 ヴァルディア家当主である父は、しばらく動かなかった。

 驚きでも、喜びでもない。

 もっと重く、もっと深い、何かを噛みしめるような沈黙。


 やがて彼は、小さく息を吐いた。


「……そうか」


 それだけだった。


 誰も祝福の言葉を口にしない。

 だが、拒絶もない。


 まるで――

 起こるべくして起きた出来事を、受け入れているかのようだった。


 双子の姉は、元気な泣き声を上げていた。

 対して、弟は静かだった。


 泣かないわけではない。

 ただ、周囲を不思議そうに見回し、じっと人の顔を見つめている。


「……この子」


 母が、ふと呟く。


「とても……穏やかな目をしているわ」


 その言葉に、父は小さく頷いた。


「エリシア、と名付けよう。姉の方は」

「では、弟は……?」


 一瞬の間。

 そして父は、決める。


「アレンだ」


 それ以上の説明はなかった。


 ――――――


 アレンは、よく眠る子だった。


 泣くことも少なく、抱き上げればすぐに落ち着く。

 誰かの腕の中にいることを、疑いもしないような顔で。


 不思議なことに、危ない瞬間だけは必ず誰かの手が伸びた。

 落ちそうになれば支えられ、泣き出す前に抱き上げられる。


 それが“特別扱い”だとは、誰も口にしない。

 だが、屋敷の人間は皆、無意識に彼を囲っていた。


 まるで――

 守られるべき存在だと、最初から分かっているかのように。


 一方、姉のエリシアは違った。


 よく泣き、よく笑い、よく声を上げる。

 人の気配に敏感で、誰かが近づくとすぐに気づく。


 双子でありながら、正反対。


 それでも二人は、いつも並んで眠っていた。


 アレンは知らない。

 この家に生まれた“意味”も。

 男として生まれたことが、どれほど異例なのかも。


 ただ、温かい腕の中で目を閉じる。


 理由は分からない。

 けれど、不思議と――


「ここは、安全だ」


 そんな気がしていた。


 それが、彼の新しい人生の、最初の感覚だった。


――


ヴァルディア家には、秘密がある。


 それは書物にも残らず、口伝でも語られない。

 ただ、知るべき者だけが知っている。


 アレンが三つになった頃、屋敷では奇妙な習慣が増え始めた。


「アレン様は、こちらへ」


 剣術の稽古場に入ることは、なぜか許されない。

 代わりに案内されるのは、静かな広間や、礼法の部屋。


 姉のエリシアは、剣を握っていた。


「えー? なんでアレンは来ないの?」

「だって、双子なのに!」


 無邪気な声に、侍女たちは困ったように笑うだけだ。


「エリシア様は……特別ですから」

「アレン様も、特別ですよ」


 どちらの言葉にも、肝心な部分は含まれていなかった。


 アレン自身は、あまり気にしていなかった。

 強いて言えば――


「……ここ、静かだね」


 礼法室は、落ち着く。

 誰かに囲まれている感覚が、どこか心地よかった。


 ある日、アレンは偶然、夜の回廊で父と母の会話を聞いた。


「……本当に、男の子だったとは」

「兆しは、あったわ」


 低い声。

 アレンは物陰で、じっと息を潜める。


「“あの誓約”は、まだ有効なの?」

「ええ。むしろ……だからこそ」


 一瞬の沈黙。


「女子学園の件は……」

「時が来れば、逃げ道はありません」


 アレンには意味が分からなかった。

 ただ、その言葉の重さだけが、胸に残った。


 足音が近づき、彼は慌てて戻ろうとして――


「……そこにいるのは、アレンか?」


 父の声。


「は、はい」


 叱られるかと思った。

 だが、父はしゃがみ込み、目線を合わせてきた。


「怖い思いをさせたな」


 それだけ言って、頭に手を置く。


「大丈夫だ。お前は……ちゃんと守られる」


 その言葉は、どこか約束のようだった。


 その夜。


 アレンは、夢を見た。


 高い城壁。

 押し寄せる黒い影。

 誰かの背中。


 ――違う。

 誰かを守る“前”に立っているのは、自分だった。


 目が覚めると、胸が少しだけ苦しかった。


「……ゆめ?」


 答えはない。


 ただ、隣で眠るエリシアが、寝返りを打ってアレンに寄り添う。


 アレンは、無意識にその背に手を回した。


 守るように。

 包むように。


 その仕草を、誰かが見ていたなら――

 きっと、こう思っただろう。


 ああ、この子は盾だ。


 だがアレン自身は、まだ知らない。


 この家が、なぜ女の子しか生まれないのか。

 男として生まれた自分に、どんな“役割”が待っているのか。


 その答えは、

 静かに、確実に――

 彼の未来へと、近づいていた。


双子は、同じように育った。


 同じ部屋で眠り、同じ食事をとり、同じ庭を駆け回る。

 背丈も顔立ちも、ほとんど見分けがつかない。


 けれど――

 成長するにつれて、違いははっきりしていった。


「アレン、見てて!」


 エリシアは剣を振るうのが好きだった。

 木剣を握れば、誰よりも前に出る。


「次はあっち! もう一回!」


 汗をかきながら、笑う。

 倒れることを恐れない。


 一方、アレンは剣を振らなかった。


「……危ないよ」


 言葉は小さい。

 だが、その立ち位置はいつも同じだった。


 エリシアが前に出ると、アレンは自然と半歩後ろ。

 誰かが転びそうになると、すっと手を伸ばす。


 誰かの“前”に立つことはない。

 代わりに、**誰かの“盾になる位置”**を選ぶ。


 ある日、訓練場で小さな事故が起きた。


 年上の訓練生が振った木剣が、逸れた。

 その先にいたのは、エリシアだった。


「――っ!」


 声を上げる間もなかった。


 だが、衝撃は来なかった。


 代わりに、鈍い音。


 アレンが、エリシアの前に立っていた。

 両腕で頭を庇い、木剣を受け止めていた。


「アレン!?」


 遅れて、痛みが来た。

 腕がじん、と痺れる。


「……大丈夫」


 そう言って、アレンは小さく笑った。


 怒ることも、責めることもない。

 ただ、相手を気遣う。


「……ごめんなさい!」


 年上の子が青ざめて謝ると、アレンは首を振った。


「誰も怪我してないから」


 それだけだった。


 その様子を、遠くから見ていた大人たちは、言葉を失っていた。


「……あの子」

「ええ」


 剣を教えていない。

 盾の持ち方も、教えていない。


 それでも――

 守り方だけは、身体が覚えている。


 エリシアは、しばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った。


「ねえ、アレン」


「なに?」


「アレンは……前に出ないの?」


 アレンは少し考えてから答えた。


「うん。だって」


 一瞬、言葉を探す。


「前に出る人が、ちゃんと動けるようにする方が……安心だから」


 エリシアは、きょとんとしたあと、笑った。


「変なの」


 でも、その声はどこか嬉しそうだった。


 それ以来。


 エリシアは剣を振るい、

 アレンはその後ろに立つ。


 誰も教えていない役割分担が、自然に出来上がっていった。


 剣と盾。

 攻めと守り。


 それは、偶然ではなかった。


 アレンはまだ知らない。

 なぜ自分が“守る側”なのか。


 ただ一つだけ、確信していた。


 ――誰かが傷つくくらいなら、

 自分がそこに立つ。


 それが、自分にとって一番“正しい”場所なのだと。


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