侍女頭が優秀すぎて、外で食べてくるしかないじゃない
「じゃあね、フェルティナ。また来るよ」
二度と来ないでくださいましー。
アカデミーを去るヴァレンシュタイン公爵を、フェルティナは手を振って見送った。
横に振るう手の角度を今すぐにでも変え、追い払う仕草にしたかったが、父の立場を思って何とか堪える。
ヴァレンシュタイン公爵の姿が見えなくなった後、フェルティナが大きく疲れた息を吐いた。
「お嬢様。お勤めご苦労様でした」
見送りを終えたフェルティナに、侍女頭の女が畏まった礼をした。
「カノン。残りの予定は?」
「昼休憩の後、数学と歴史のカリキュラムです」
カノン、と呼ばれた侍女頭が間を空けずに答えた。
彼女は若いが、実直な勤務態度と、本人の能力を高く買われていることもあって、セルヴァラント家の侍女頭を務めている。
主な仕事はフェルティナ専属の使用人だ。ヴァレンシュタイン公爵が縁談を持ち込むまでは領主の仕事の補佐もしていたみたいだが、ここ最近はずっとフェルティナの側に仕えている。
肩より少し高い位置で切りそろえられた栗色のボブカット。
眼鏡の奥から覗き込む凛とした瞳。
才色兼備のフェルティナの側に立つこともあり、彼女もまた、立派なレディとしての気品を兼ね備えている。
容姿も整っており、能力も優秀。
優秀すぎるのが問題と言えるほど、彼女は内外に隙の無い人材だった。
「昼休憩の時間はまだ残っておりますわね。では、私はアカデミーの食堂に——」
「ダメです」
踵を返すフェルティナの前に、いつの間にかカノンが回り込んでいる。
「先ほど食事を召し上がられております。夜食までご辛抱ください」
「……」
立ちはだかるカノンの横を、スッと抜けようとするも、フェルティナのステップを先読みしてカノンが前に立ちはだかる。
優雅な所作で反復横跳びのような攻防をしばらく続けた後、音を上げたのはフェルティナだ。
「今の攻防で32㎉消費しました。間食にビスケットを用意させていただきます」
「……あなたって、本当に優秀ですわね」
「お褒めにあずかり光栄でございます」
「皮肉でしてよ」
「存じております」
「このやり取り何回目かしら」
「私の記憶では762回目です」
やはり逆ダイエット計画の目下の敵は、この優秀すぎる侍女頭である。
カノンが傍にいる限り、決して自分が太ることはない。
醜い容姿になって、公爵家側から婚約破談にしてもらう目論見は確定で水の泡だ。
この侍女頭の監視をかいくぐって太るためには——
(やはり今日も、外で食べてくる他ありませんわね……!)
家がダメなら外で食べればいいではありませんか。
フェルティナは今日も、夜間での外食を決心するのだった。




