自家製ソーセージの鉄板焼き②
してやられた。
楽し気に歪んだ表情のフェルティナに、マスターが無言で親指を立てた。
「その通り」と、言外に言っている。
差し出された小皿の上に乗っていたのは、粗びきのマスタードとケチャップソース。
ピクルスの食べ終わりかつ、料理に舌が慣れた、絶妙なタイミング。
全てあなたの掌の上だったということですわね。
胸を満たす幸せな敗北感。
差し出されたソースに心を躍らせながら、フェルティナはソースに受け取った。
まずは差し出されたマスタードソースをソーセージにディップする。
店内の淡い光を粗く挽かれたマスタードの粒子が受け、肉汁と共に魅惑的な輝きを反射した。
口元に運ぶ際にほんのりと漂った、優しく鼻を刺激するマスタードの香り。
改めまして。ソーセージ様。
まずは一口。
ソーセージをかみしめた途端、ぷちりとマスタードの川が優しく弾けた。
フェルティナの動きが、再び止まる。
さ・い・こ・う、ですわ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!
表では気品の溢れるレディを装いながらも、心の中では歓喜の悲鳴を上げていた。
噛んだ瞬間、鋭い刺激が舌の上を駆け抜けて、気品あふれるマスタードの香りが目の奥まで突き抜けましたわ‼
この鋭い刺激を受け止めるのは、旨味たっぷりの肉汁‼ 突き抜ける旨味を優しく受け止め、味の調和へとエスコートする様は、さながら舞踏会でレディをリードする公爵様のようですわ‼
ただでさえ複雑に重なった旨味のソーセージに、新しい旨味が加わるなど‼
この美味しさは、詩人の言葉でも表現できませんわ‼ 罪と言わずしてなんと言いましょう‼
そして今度は、鮮やかな赤色のケチャップソースをつけて、ソーセージを口に運んだ。
ああ。安心いたしますわ。
先ほどまでの刺激的な味わいから、甘く、わずかに酸を帯びた柔らかな味。
スパイスの利いたソースの後に食べると、その優しい味わいに思わず童心に帰ってしまいそうになりましてよ。
食欲を擽る粗びきのマスタード。
その刺激で踊る舌を優しく落ち着かせるケチャップソース。
黄と赤。二つの色が交互に交わり、舌の上で鮮やかなワルツを踊っていますわ。
マスタードとケチャップソース。それぞれを交互に付けてソーセージを味わい、500gもある重量の肉を、フェルティナはとうとう完食してしまった。
「ごちそうさまでした。お会計を」
腹が確かに満たされ、満足げに微笑みながら、フェルティナは会計に立ち上がった。
去り際に店主の男が、
「どうだった?」
と語り掛けてきた。
喋れたのですね。と驚きながらも、フードの奥でフェルティナがほほ笑む。
そうですね。美味しいお料理のお礼を言わなければ。
あれ程美味しい肉料理を楽しませてもらったのだから、その感想を伝えるのは当然のことだ。
そう思ったフェルティナが感想を述べようと口を開いたが、途端にまた動きを固めてしまった。
どうしましょう。感動のあまり詩的な言葉しか浮かんできませんわ。
浮かんでくるのは公的な場で使う、気品にあふれる言葉や、さながら吟遊詩人が歌うような、過剰に彩られた感想の数々だった。
以前あまりに美味しい料理をお忍びで食べたときに、社交界で使うような言葉で感想を述べてしまい、やんごとなき身分の人間だと疑われたことがあった。
妙な噂が立ってしまえば、あの侍女頭は当然気が付いてしまう可能性がある。
そうなった場合、このお忍びで背徳飯を食べる生活は終わりを告げてしまうだろう。
どうしましょう。
身分を隠すため——あえて、俗っぽく。
いったい何と言えば良いのでしょうか。
フェルティナが逡巡していたところ、別の客が会計を終え、去り際に店主の男へ言い残していった。
「マスター、今日の料理もうまかったよ‼ めしうまだ! めしうま!」
ドアが閉まり、ドアに付けられた鈴の音が心地よい音を立てる。
瞬間、フェルティナの頭に電撃のような衝撃が走った。
「マスター」
身なりを整え、コホンと小さく咳払いをしてから、店主の男へと向かい直る。
気品あふれる佇まいのフードの女性は、フードの奥から優雅に微笑んでから最初の質問に答えたのだった。
「今日の料理。めしうま、でしてよ」




