大切なお話
「……カノン。本日も野菜料理ですか」
翌日、昼食の場に用意された食事に、フェルティナが思わず苦い顔をした。
昨日の晩も野菜料理だった。
夜に鍋を挟んだとはいえ、屋敷での料理は朝食を除けば、野菜料理が連続したことになる。
「お嬢様の健康を思ってのことです。それに、野菜料理もおいしいですよ」
昨日見せた優しい顔はどこへやら。
いつもの動きが少ない表情のまま、それでいて淡々とフェルティナのわがままを付き返す。
少し離れてその様子を見守っていたアルマも、可笑しそうに笑うしかない。
「……」
野菜のソテーをフォークで口に運ぶ。
相変わらず、控えめな味付けなのに味は美味い。
口にした後では文句を言う気にはならないので、そういった言葉は食事の前に吐き出すようにしていた。
「……とはいえ、流石に同じような料理が続きましたね。ご希望であれば、夜食はリクエストを受け付けますが」
「え?」
食事の途中、急に見せた甘さに、フェルティナが思わず驚きの声を上げた。
「……どうしましたか、急に」
「……どうしたもなにも、たまにはいいでしょう。調理長のモチベーションにも関わるみたいですので」
あくまで自分の感情は表に出さないらしい。
そんなカノンの様子を見て、アルマがくくくと笑い声を堪えている。
「では、今日の夜食はビーフシチューを所望します」
「料理長にお伝えします」
「ええ。ところでカノン」
ナイフとフォークを動かしながら、フェルティナが更に顔を向けたまま続けた。
「私、あなたのことも大好きですからね」
急に告げられた言葉に、カノンが一瞬だけ目を丸めた。
「……どうしましたか、急に」
「……どうしたもなにも、感謝を伝えることは大事かと思いまして」
「……もったいないお言葉です」
カノンがフェルティナから、ほんの少しだけ顔をそらした。
少しだけ横目で様子を伺うと、彼女の顔が若干赤く染まっていた。
どうやら、自分の熱は、鉄仮面の奥にもしっかりと届いたようだった。
「ところでカノン、食事の後、少しつきあってくれませんか?」
「はい。どのような用件でしょうか」
内容を聞く前に肯定するあたり、自分は信頼されているらしい。
カノンからの信頼に安心感を覚えながらも、少し真剣なまなざしになって、フェルティナはカノンに告げた。
「お父様に、大切なお話をしようと思うの」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
セルヴァラント邸、その領主室。
その作業机にて書類に印を押す父のもとに、フェルティナが改まった様子で現れた。
「それで、私に話とは、いったい何かな」
娘の顔を見て、何かを決心した顔だと悟った父が、作業を止めてフェルティナに向かい直った。
話を切り出す前に、罪悪感が胸を刺す。
これから話すことは、自分のわがまま以外の何物でもない。
でも、自分は領主の娘。この家の主の一人である。
仕える者たちや領民たちが具材とすれば、自分はそれらを纏める鍋。
そんな鍋に、ひびが入ったままではいられない。
ひびを修復するにも、壊れて新しく作り直すにしても、決断をしなければならない。
小さく息を吸ってから、フェルティナは低く、芯の通った声で、自分の胸の内をさらけ出した。
「私は、ヴァレンシュタイン公爵からの縁談を、断りたいと思っております」
第4章、これにて完結です。
次回より最終章。最後までお付き合い頂けますと幸いです。
( ノ;_ _)ノ




