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おいしいご飯が食べたいので、この縁談は無かったことにして頂けないでしょうか?  ~辺境伯令嬢の夜な夜な背徳飯ライフ~  作者: 糸音
第4章 同じ鍋にも味2つ

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本日の料理、めしうまでございました

 差し出された取り皿を見て、ポカンと目を開くアルマに、「こっちのスープも美味しいですよ」とカノンが促す。

 あごだしのスープが輝く深皿を見て、可笑しそうにアルマが笑った後、


「こっちのスープも最高だぜ?」


 と、火鍋の具材をよそって差し出した。


 互いの深皿を交換し、それぞれ違う味の鍋の具を口にする。


「これもまた、見事な味わい」

「いいねえ。新しい味わいだ。……今更だけどさ、なんで今日は鍋にしたんだ?」

「フェルティナ様のご友人に相談しました。倭国の料理で、親睦を深めるのに、最適なものはないかと」

「あー。だべりながら食うには最高だもんなあ、これ」

「火鍋は倭国発祥のスープではありませんけどね」


 〆のうどんを持ってきたエリに、「そーなんすか?」とアルマが向かい直る。


「倭国料理の店で、そういうの出していいものっすか?」

「ダメって誰かが言ったわけではないですし。美味しいものはどんどんメニューに加えますよ。それに……」


 エリがカノンたちの鍋に、視線を落として微笑んだ。


「2色の鍋も、キレイで面白かったでしょう?」


 あごだしと火鍋。2色のスープが同じ鍋でくつくつと煮えている。

 カノンとアルマは互いに顔を見合わせた後、〆のうどんを鍋に入れた。




 そして、二人はそれぞれのうどんを平らげて、


「はあーっ、食った食った! ごちそうさん! エリさんって言ったっけ。料理最高だった。またプライベートで飯食いに来るよ」

「ありがとうございます。嬉しいお言葉です」

「……それとさ、フェルティナ嬢ちゃんと、今後とも仲良くしてくれよな」

「もちろんです!」


 エリの言葉にアルマが安心したように、優しく笑った。

 会計を済ませたカノンが、エリに向かって改めて礼を述べる。


「本日はどうもありがとうございました。良い食事の場となりました」

「いえいえ。美味しそうに食べていただき、私も嬉しかったです」

「はい。エリ様——」




 店を去る間際、カノンがエリに振り返る。





「本日の料理、めしうまでございました」





 それでは。


 と、姿勢正しく頭を下げて、カノンはドアの外へと消えていった。




「……」


 くつくつと音を立てる、具材が残っていないフェルティナの鍋。

 少し俯いて、じっと動かないフェルティナに、エリがお茶のおかわりを持ってきて尋ねる。


「……〆のうどんお持ちしましょうか?」

「……ありがとう。でも、今日は大丈夫」


 答えた声には、少し涙が滲んでいた。


「——今日は、お腹がいっぱいですわ」


 エリが穏やかに微笑んで、「かしこまりました」とその場を後にした。


 体が内から熱くなったのは、火鉢と鍋の熱のせいではなかった。


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