本日の料理、めしうまでございました
差し出された取り皿を見て、ポカンと目を開くアルマに、「こっちのスープも美味しいですよ」とカノンが促す。
あごだしのスープが輝く深皿を見て、可笑しそうにアルマが笑った後、
「こっちのスープも最高だぜ?」
と、火鍋の具材をよそって差し出した。
互いの深皿を交換し、それぞれ違う味の鍋の具を口にする。
「これもまた、見事な味わい」
「いいねえ。新しい味わいだ。……今更だけどさ、なんで今日は鍋にしたんだ?」
「フェルティナ様のご友人に相談しました。倭国の料理で、親睦を深めるのに、最適なものはないかと」
「あー。だべりながら食うには最高だもんなあ、これ」
「火鍋は倭国発祥のスープではありませんけどね」
〆のうどんを持ってきたエリに、「そーなんすか?」とアルマが向かい直る。
「倭国料理の店で、そういうの出していいものっすか?」
「ダメって誰かが言ったわけではないですし。美味しいものはどんどんメニューに加えますよ。それに……」
エリがカノンたちの鍋に、視線を落として微笑んだ。
「2色の鍋も、キレイで面白かったでしょう?」
あごだしと火鍋。2色のスープが同じ鍋でくつくつと煮えている。
カノンとアルマは互いに顔を見合わせた後、〆のうどんを鍋に入れた。
そして、二人はそれぞれのうどんを平らげて、
「はあーっ、食った食った! ごちそうさん! エリさんって言ったっけ。料理最高だった。またプライベートで飯食いに来るよ」
「ありがとうございます。嬉しいお言葉です」
「……それとさ、フェルティナ嬢ちゃんと、今後とも仲良くしてくれよな」
「もちろんです!」
エリの言葉にアルマが安心したように、優しく笑った。
会計を済ませたカノンが、エリに向かって改めて礼を述べる。
「本日はどうもありがとうございました。良い食事の場となりました」
「いえいえ。美味しそうに食べていただき、私も嬉しかったです」
「はい。エリ様——」
店を去る間際、カノンがエリに振り返る。
「本日の料理、めしうまでございました」
それでは。
と、姿勢正しく頭を下げて、カノンはドアの外へと消えていった。
「……」
くつくつと音を立てる、具材が残っていないフェルティナの鍋。
少し俯いて、じっと動かないフェルティナに、エリがお茶のおかわりを持ってきて尋ねる。
「……〆のうどんお持ちしましょうか?」
「……ありがとう。でも、今日は大丈夫」
答えた声には、少し涙が滲んでいた。
「——今日は、お腹がいっぱいですわ」
エリが穏やかに微笑んで、「かしこまりました」とその場を後にした。
体が内から熱くなったのは、火鉢と鍋の熱のせいではなかった。




