厳しさの理由
「真面目な話、していいか」
和やかだった空気から突然、アルマが改まった様子で切り出した。
カノンは箸を止め、口元をハンカチでふきなおしてから「いいですよ」と頷いた。
「最近の嬢ちゃん、少し寂しそうに飯を食っているとは思わねえか」
「……そうですね」
自分のことを話題にし始め、フェルティナは緊張で身を固めながらも、その会話に聞き耳を立てる。
「嬢ちゃんは食った後必ず美味しかったって言ってくれる。あたしだって美味いもん作った自信はあるし、あんたのレシピが不味いってわけもねえ。……でもさ。嬢ちゃん、好物だったらもっと喜んでくれんだよ。あたしにも、好きなもん最近つくってやってねえなっていう後ろめたさがある」
「……」
「あたしはさ。あたしの料理食ってくれた人にさ。心の底から幸せになってほしいんだよ。だからさ、今よりちょっとだけ、嬢ちゃんの好きなもん、献立に加えてやってくれねえか」
アルマが申し訳なさが少し滲んだ声色で、火鍋を見つめながら頼み込んだ。
そんなアルマを見て、カノンも自分のあごだしスープに目を落としてから、切り出した。
「私も、お嬢様には屋敷でも好きなものを食べていただきたいとは思っていますよ」
「だったら——」
「しかし、現状でお嬢様の好物を提供する頻度を増やせば、令嬢としてあられの無い姿になることは分かっているでしょう。縁談話が舞い込んでいる以上、お嬢様はセルヴァラント家の顔でございます。こちらでの健康管理は家全体の義務です」
「そりゃあ、そうだけどさ……」
いやいや。ちょっとくらい良いではありませんか。
私、屋敷ではそこまで沢山ご飯を召し上がっていませんもの。
完全に夜中の抜けだしがばれているとはつゆ知らず。
フェルティナがカノンと、それに同調するアルマに心の中で突っ込みを入れる。
「……なあ。ヴァレンシュタイン公爵様はさ、嬢ちゃんが好きなもんを食うのを許さねえような、器の小せえ貴族様なのか?」
アルマの問いに、カノンが小さく首を振る。
「嫡男様は、そのような方ではございませんよ。正直に話せば、最大の配慮をして頂けるかと」
「じゃあ、正直に飯の趣味が合わねえって吐いちまえば——」
「しかし、他の公爵家の方が、それを良く思うかは別な話です」
カノンの言葉に、アルマが頬を打たれたような顔になった。
「セルヴァラントも有力な貴族とはいえ、公爵家よりも位は下。下の家から嫁いだお嬢様に、公爵家側が配慮を見せることを、よく思われない方もいるかもしれません」
「……」
「自由が約束されていない以上、我々で我慢も教えなければなりません。不自由な公爵家の生活を送ることになってしまったとき、自分の心を守る力を育むために」
その言葉を聞いて、フェルティナも頬を打たれた気持ちになった。
本当は何となくわかっていた。
カノンの厳しさは、自分を思う気持ちからくるものだと。
家には多くの使用人がいるが、じぶんのわがままを真っ向から付き返してくれるのはカノンだけだ。
なんだかんだで他の者は、自分が少し甘えるような態度を取れば、快く自分の要望に応えようとしてくれる。
愛されている証でもあるが、好意で答えることだけが、愛の証明であるわけではない。
あえて、一番傍に仕えるカノンが、皆の分の嫌われ役を引き受けてくれている。
鉄仮面のように、表情が動かない、厳しい侍女だとは思ったことはある。
だけど、冷たい人間だと思ったことはない。
いつも自分の側で、自分を支えてくれていたのは誰か。
そう問われれば、それはカノンだと、どんな時でも即答するだろう。
「……メニューさ。ゴミだって言ったこと、謝るよ」
「……お気になさらず。あれは私のわがままかもしれませんから」
「……あんたにゃ敵わねえな」
と言わんばかりの表情でアルマが苦い笑みを見せた。
「敵うも何も、我々はそもそも敵でもライバルでもありません」
カノンが自分のスープの方から、いくつか具材をよそってアルマに差し出した。
「人としての相性はあれども、私たちは同じ主を支える仲間ですから」




