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おいしいご飯が食べたいので、この縁談は無かったことにして頂けないでしょうか?  ~辺境伯令嬢の夜な夜な背徳飯ライフ~  作者: 糸音
第4章 同じ鍋にも味2つ

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同じものを頼みましょう

 なななななな、なんでカノンがこの店に。


 悪い夢でも見ているのかと思い、フェルティナはメニューで顔を隠しながら、ちらりとカノンの席を伺った。


 その時だ。




「……っ?!」

「——※△〇×※ぁ♯ぁぁ…………‼」

「ん、どした?」


 顔を出した瞬間、カノンと目が合ってしまい、流石のカノンも目を見開いて身を固めてしまった。


 フェルティナが口を閉じたまま、喉の奥でおよそ人の発するものでは無い悲鳴を鳴らす。

 反射的にメニューの奥に引っ込んで、机に伏せるようにして顔を隠した。




 ば、ばれました?!




 清掃したての冷たい机に額を張り付けながら、フェルティナはバクバクと心音を鳴らす。

 嫌な汗が滝のように湧き出てくる中、耳だけで席の様子を伺った。


「……いえ、何でも。人違いでした」

「?」

「あ、温かいお茶と! お手拭きです!」

「お、ありがとうございます。冷える日にこの温かいお手拭きはありがたいなあ。体温が戻る感じがするぜ」

「……そうですね」


 エリがすかさずお茶を運び、アルマの意識を別な場所へそらした。


 よ、よかった! バレておりませんわ!

 こんなこともあろうかと、変装していて助かりましたわ!


 とりあえず正体がばれなかった(フェルティナ視点)ことに安堵しながら、身を小さくしてメニューとカノンたちの様子を交互に見る。


 さ、さて、何を頼みましょう。


 気を取り直そうとメニューに目をやるも、なぜだろうか。動揺が収まらず文字が読めない。


 めめめ、メニューが、ゆゆゆ、歪んで見えますわ。

 おおお、落ち着きなさい。こんな時こそ、冷静に、食べるものを決めるのです。

 食堂で何も頼まないなんてあまりに不自然ではありませんか。


 必死に平静を取り戻そうとするも、意識の七割がカノンたちの席へと向いてしまう。


 一方でカノンたちの席では、アルマがメニューを眺めているところだった。


「で、何頼む? それぞれ好きなものでいいか」

「メインの料理は手配済みです。気になる料理があれば、単品で頼んでください」

「ん? あたしに何食わせるつもりだ?」


 せっかく楽し気にメニューを開いたところに釘を刺され、アルマが怪訝そうに眉をしかめる。

 そんなアルマをよそに、カノンが手を上げてエリを呼び寄せた。


「すいません。例のものを」

「かしこまりました。お連れの方は、こちらの中から好きなスープを選んでください」

「……好きなスープ?」


 そのやり取りに、フェルティナも耳を澄ませる。


 スープ、というと、頼むのは野菜スープや味噌スープなどの汁物でしょうか?


 先に頼んでおくような料理ではないだろう、と不思議に思っているうちに、アルマがエリの見せた紙の中から何かを指さした。


「エり……っ、コホン。すみません」


 フェルティナが小さな声で手を上げると、エリが目配せして頷いた。

 声を出さずに反応してくれるあたり、姿を隠したいフェルティナにはありがたい。


 やってきたエリが、カノンたちの視界を遮るように、フェルティナの机に現れた。


「はい。ご注文はお決まりでしょうか?」

「……あちらのお客様、一体何を頼まれましたの?」

「あ、お鍋です」

「な、鍋……?! あの二人は食堂に金物を買いに来たのですか……?」


 なにやら勘違いをしているフェルティナに、「違います」とエリが苦笑する。


「野菜とかお豆腐とか。色んな食材を大きなお鍋で煮込んで食べる、倭国の料理ジャンルの一つです。お一人用もございますよ」

 エリが見せたのは、土鍋の中に、野菜や豆腐、様々なキノコや魚の切り身が所狭しと詰め込まれた、異国風土漂う料理の絵だった。




 なにこれ美味しそう。


 


 初めて見る料理に、口の中でじゅるりと舌を鳴らす。


 恐らく、出汁で煮込んだ各種具材の、素材の味を楽しむ料理なのだろう。

 絵だけですべてを理解することはできないが、筆の太いタッチで描かれた絵柄や、煮込んで食べるという情報から、寒い日にぴったりの温かい料理だということは何となくわかる。


「具材にお肉はありまして?」

「はい。ございますよ」


 健康に気を使いながらも、しっかりお肉も取れるとなれば、今日の気分にもぴったりだ。


「私にも同じものを」

「かしこまりました。スープはいかがなさいます?」


 メニューをじっくり眺めようと思ったが、エリを拘束しすぎて、カノンたちの注意がこっちに向いてもまずい。

 それに、未知の料理とはいえエリの店だ。まずいものは出さないだろう。


 であれば店の選択にゆだねてみるのも悪くない。


「店のおすすめか、一番人気のものを。苦手な味はございませんわ」

「かしこまりました。今から煮込むので、少しお時間いただきますね」


 エリは手短に注文を聞き終えると、机に置いてあったメニューを、カノンとフェルティナの席の視界を遮るように立て直してから、厨房の奥へと消えていった。


 なぜでしょう。バレてないはずなのに、エリが自分に都合の良い動きばっかりしてくださりますわ。


 不思議に思ったが、日頃の行いが良いからだと、フェルティナの中で開き直る。

 日頃の行いの現れなら、夜間に限ればそろそろ罰が当たってもおかしくないはずなのだが。


 料理を待つ間、お茶を飲みながらカノンたちの様子をうかがう。

 どうやらアルマが気になる料理を適当に頼んでいるらしく、漬物や枝豆、あえ物などの小鉢が定期的に机に運ばれていく。


 私も何か頼もうかしら。


 などと料理を眺めていたところ、突然、改まった様子でアルマがカノンに切り出した。


「で、あたしと一緒に食事を摂ろうだなんて、なんのつもりだ?」



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