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おいしいご飯が食べたいので、この縁談は無かったことにして頂けないでしょうか?  ~辺境伯令嬢の夜な夜な背徳飯ライフ~  作者: 糸音
第4章 同じ鍋にも味2つ

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予期せぬ合流

 

 食べ物を求めて歩く人の中を縫うように歩きながら、フェルティナはフードの中で思考を巡らせる。


「今日はどこで食べましょう……」


 街頭で街は明るいが、今夜は冷えるため吐く息は白い。

 街に溶けていく白い息を横目に、フェルティナは周辺の店を一瞥する。


 いつもなら肉! 肉ですわ! と高カロリーなメニューに目移りするのだが、どうも今日はそんな気が起きない。

 ボリュームがある料理を食べたいのに、胸に刺さった取れ切らない小骨が、背徳感をちくちくと刺激してくる。


 やはり、カノンの胸の内を知ることが無い限り、この骨は痛くなくとも完全に取れることは無いだろう。


「小骨と言えば……」


 倭国には、のどに小骨が刺さったときに、ご飯を噛まずに飲み込む医療法があるとエリがおっしゃっていましたわ。


 そんなことを思い立った時、自然と意識がエリの店の方へ向いた。


 そうだ。エリの店がある。


 倭国の料理にはボリュームがありながらも、比較的カロリーが控えめな料理があるに違いない。

 カノンへの背徳感を抱えたまま、肉をむさぼるのは気が引ける。


 そんな心境の今、エリの店はぴったりだ。

 正体を隠しているので、友人として会話などはできないが、元気に働く友の姿は心が励まされる思いもあるし、何より出される料理が今の心境にはぴったりだ。


 最近繁盛しているようだから、混んでなければいいのだけれど。



 店の最古参と勝手に思っていることもあり、賑わううれしさ半面、偶に入れないこともあるので、自分だけのお店で無くなった寂しさもある。


 さあ、今日は席が空いているだろうか。


 店の前に辿り着き、中を伺うと、ちょうど席を立った客がいた。


「ふふふ。今日はこの店に入りなさいと、神様がおっしゃっていますわね」


 出てきた客と入れ替わるように、エリの店に入る。


「いらっしゃいま、せ……?!」

「一人、入れるかしら?」

「ど、どうぞ……!」


 フェルティナの姿を確認すると、ちょうど空いた席の片づけをしていたエリと目が合った。

 すると、エリが動揺し、少し迷ったように店の隅にある広い席へ一瞬目をやった。


 だが、すぐに机の上を拭いて掃除し、フェルティナを席に案内する。


「こ、こちら、温かいお茶とお手拭きになります」

「ありがとう。……?」


 エリの態度に異変を感じ、立てかけてあったメニューを眺めながら、フェルティナはエリの様子を伺った。


 牛首領の件以来、フェルティナ(夜間)はたびたびエリの店で料理を食べる。いわば常連客になっている状態だ。

 正体がばれているわけでもあるまいし、自分が来ることに何も問題はないはずなのだが、今日はどうも、あの空いている席に目が泳いでいる気がする。




 フェルティナはエリの視線の方向に目を向ける。


 入り口にある席は、まだ誰も座っていないのに、既に食器や器が置いてある。器の数からして2人分か。

 その席には『予約済み』と記載された立札が置いてある。


 なるほど、人気店で食事をするのにそういう手段もあるのか、とフェルティナが感心してしながらお茶を口にした時だった。




「いらっしゃいませ」

「すいません。2名で予約していたカノンです」

「ブホッ——」


 入り口から現れた侍女頭の姿に、メニューの奥でフェルティナがむせる。




 な、な。






 なななななな、なんでこんな夜更けにカノンが外におりますの?!


 動揺して、メニューで顔を覆って姿を隠す。


 侍女頭の後に続いて現れたのは、同じ屋敷に仕える調理長だ。


「ここか? あんたのおすすめの店って」

「はい。美味しい倭国料理が楽しめる良いお店です」

「ふーん。頭は固い癖に、良い雰囲気の店は知ってるじゃん。こいつは料理も期待できそうだ」


 見知った顔が、予約済みの席に案内されるのを陰から見ながら、フェルティナはバクバクと心臓を弾ませながら、メニューとフードの奥で身を震わせるのだった。


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