考えるのはお腹が空きますわ
「カノン。アルマ。今日の食事もとても美味しく頂けましたわ」
「「お褒めにあずかり光栄でございます」」
感謝を述べると、カノンもアルマも礼で答えた。
カノンは相変わらず表情が動かないが、アルマは目を閉じながらも、その口元が嬉しさで若干緩んでいる。
今日の夜食はライスに、味噌スープ、そしてチキンの照り焼きソース仕立てだ。
最近食事でチキンが出るときは大抵ささみなど、油が控えめな部位であったため、もも肉を使用した鶏料理は久しぶりに食べた。
ボリュームがありながらも、比較的カロリーは抑えられている。
カノンがこの前エリに相談したのは、この料理の作り方だったのだろう。
「倭国風のソースも合いますね。これはエリに尋ねたの?」
「ええ。牛首領のレシピを伺ったときに、倭国の料理をいくつか」
「そうですか」
カノンの回答に満足そうに頷いて、食後の口に付ける。
倭国風の料理の後には、緑茶のほどよい苦みが心地よい。
程よい余韻が体を巡り、ほっと湯気の混じった息を吐いたところ、
……牛首領のレシピを聞いたときって、結構前ですわよね?
カノンの回答が後から引っかかり、フェルティナは思わず思考を止めた。
「? どうかされましたか」
「い、いえ、何も……。そういえばこの前、エリに何について尋ねたの?」
「はい。個人的な要件を少々。私事ですが、話したほうがよろしいでしょうか」
「いえ、私が知る必要のないことでしたら、無理に話さなくても大丈夫ですわ」
「かしこまりました」
カノンは頭を下げてから、空になった皿やティーカップを下げ始めた。
話す気はないらしい。
いくら領主の娘とはいえ、使用人のプライベートについて過度に踏み込むのは気が引けるし、そもそも権力をちらつかせて詮索するなど、人としてもってのほかだ。
食事の後はカノンの手伝いを受けながら、父から頼まれた書類へのサインや、領民に振り分ける公的事業の確認など、領主の仕事を進めてから、就寝の準備をする。
「それではおやすみなさいませ。お嬢様」
「ええ、おやすみなさい。カノン」
まあ、詮索できない以上、気にしても神経を浪費するだけだ。
白湯と一緒に興味を飲み込み、フェルティナはベッドに入り、深く布団をかぶりなおす。
そう。気にしても仕方ない。
目を閉じる前に自分に言い聞かせ、フェルティナは就寝についたのだった。
が、
き・に・な・り・ま・す・わ~~~~~~~~‼
夜も更ける頃、意識が覚めたままのフェルティナが、突然布団の中で悶絶し始めた。
なんですの?! カノンがエリに尋ねたことって?!
私事ってなんですの?! プライベートのプの字の一画目すら匂わせない、鉄仮面の侍女頭の私事っていったい何?!
エリには話せて、何で私には相談できませんの?!
そりゃあ相談役においてエリは聖母のような存在と言えども! 私に話せなくて、エリには話せることって何です?!
エリは「店の料理についての質問」とは仰っておられましたが、それでは尚更気になるではありませんか‼
エリのことです。エリが心配しなくていいと言えば、それはその通りなのでしょうが、心配と興味は別腹でしてよ?!
悶々と、それでいてギンギンに目を見開きながら、フェルティナは布団の中からバッと起き上がった。
「……考えすぎて、お腹が空きましたわ」
筋肉の形が感じられる、肉の無いお腹に手を当てると、胃袋がきゅるぅ、と細い音を鳴らした。
頭と腹が眠らない。
こうなってしまえば、やることは一つだ。
「良き就寝の為に、外で食べてくる他ありませんわね!」
ベッドで悩んでも仕方ない。
悩むか割り切るか決めるのも体力を使う。
ならば食べてくるしかないじゃない。
フェルティナはベッドから降りると、さっそうと寝間着からいつもの服に着替えて、寝室の窓から庭に降り立った。
そして、明かりが灯る食堂街へ、静かに速足で駆けていくのだった。




