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おいしいご飯が食べたいので、この縁談は無かったことにして頂けないでしょうか?  ~辺境伯令嬢の夜な夜な背徳飯ライフ~  作者: 糸音
第4章 同じ鍋にも味2つ

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考えるのはお腹が空きますわ

 

「カノン。アルマ。今日の食事もとても美味しく頂けましたわ」

「「お褒めにあずかり光栄でございます」」


 感謝を述べると、カノンもアルマも礼で答えた。

 カノンは相変わらず表情が動かないが、アルマは目を閉じながらも、その口元が嬉しさで若干緩んでいる。


 今日の夜食はライスに、味噌スープ、そしてチキンの照り焼きソース仕立てだ。

 最近食事でチキンが出るときは大抵ささみなど、油が控えめな部位であったため、もも肉を使用した鶏料理は久しぶりに食べた。


 ボリュームがありながらも、比較的カロリーは抑えられている。

 カノンがこの前エリに相談したのは、この料理の作り方だったのだろう。


「倭国風のソースも合いますね。これはエリに尋ねたの?」

「ええ。牛首領のレシピを伺ったときに、倭国の料理をいくつか」

「そうですか」


 カノンの回答に満足そうに頷いて、食後の口に付ける。

 倭国風の料理の後には、緑茶のほどよい苦みが心地よい。


 程よい余韻が体を巡り、ほっと湯気の混じった息を吐いたところ、






 ……牛首領のレシピを聞いたときって、結構前ですわよね?




 カノンの回答が後から引っかかり、フェルティナは思わず思考を止めた。


「? どうかされましたか」

「い、いえ、何も……。そういえばこの前、エリに何について尋ねたの?」

「はい。個人的な要件を少々。私事ですが、話したほうがよろしいでしょうか」

「いえ、私が知る必要のないことでしたら、無理に話さなくても大丈夫ですわ」

「かしこまりました」


 カノンは頭を下げてから、空になった皿やティーカップを下げ始めた。

 話す気はないらしい。

 いくら領主の娘とはいえ、使用人のプライベートについて過度に踏み込むのは気が引けるし、そもそも権力をちらつかせて詮索するなど、人としてもってのほかだ。






 食事の後はカノンの手伝いを受けながら、父から頼まれた書類へのサインや、領民に振り分ける公的事業の確認など、領主の仕事を進めてから、就寝の準備をする。


「それではおやすみなさいませ。お嬢様」

「ええ、おやすみなさい。カノン」


 まあ、詮索できない以上、気にしても神経を浪費するだけだ。

 白湯と一緒に興味を飲み込み、フェルティナはベッドに入り、深く布団をかぶりなおす。


 そう。気にしても仕方ない。


 目を閉じる前に自分に言い聞かせ、フェルティナは就寝についたのだった。











 が、



 き・に・な・り・ま・す・わ~~~~~~~~‼



 夜も更ける頃、意識が覚めたままのフェルティナが、突然布団の中で悶絶し始めた。


 なんですの?! カノンがエリに尋ねたことって?!

 私事ってなんですの?! プライベートのプの字の一画目すら匂わせない、鉄仮面の侍女頭の私事っていったい何?!

 エリには話せて、何で私には相談できませんの?!

 そりゃあ相談役においてエリは聖母マリアのような存在と言えども! 私に話せなくて、エリには話せることって何です?!


 エリは「店の料理についての質問」とは仰っておられましたが、それでは尚更気になるではありませんか‼


 エリのことです。エリが心配しなくていいと言えば、それはその通りなのでしょうが、心配と興味は別腹でしてよ?!


 悶々と、それでいてギンギンに目を見開きながら、フェルティナは布団の中からバッと起き上がった。




「……考えすぎて、お腹が空きましたわ」




 筋肉の形が感じられる、肉の無いお腹に手を当てると、胃袋がきゅるぅ、と細い音を鳴らした。

 頭と腹が眠らない。


 こうなってしまえば、やることは一つだ。




「良き就寝の為に、外で食べてくる他ありませんわね!」




 ベッドで悩んでも仕方ない。

 悩むか割り切るか決めるのも体力を使う。


 ならば食べてくるしかないじゃない。


 フェルティナはベッドから降りると、さっそうと寝間着からいつもの服に着替えて、寝室の窓から庭に降り立った。


 そして、明かりが灯る食堂街へ、静かに速足で駆けていくのだった。


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