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おいしいご飯が食べたいので、この縁談は無かったことにして頂けないでしょうか?  ~辺境伯令嬢の夜な夜な背徳飯ライフ~  作者: 糸音
第1章 渦巻くは、謀とソーセージ

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生きることとは、食べること。

 

 周辺諸国を分かつ山脈の間に位置する領地、セルヴァラント。

 そこがフェルティナの家が治める領地だ。


 高低差が激しい地形ではあるものの、周囲を山という天然の要塞に守られながらも豊かな豊饒の土地を持つこの街は、国々を繋ぐ関所として、あるいは他国からの侵略から国を守る防壁の役割を担ってきた地だ。

 関所と街の間には、見上げてしまうほどの大きな壁が築かれており、門の内と外を完全に隔ててしまっている。




「さあ、今日は何を食べましょう」




 使用人たちが寝静まったころを見計らい、フェルティナはベッドからこっそりと静かに起き上がり、慣れた様子で着替えを始めた。

 長袖のコートに厚手のジーンズ。肩掛けのバッグに、顔を隠す為の淡い色合いのフード。


 さながら旅人のような衣服に着替え、フェルティナは3階建ての屋敷の窓から、屋敷窓の淵や、階を分けるわける境目の凸部分を軽やかに伝って、柔らかい芝が均一に生えそろう中庭に着地する。


 屋敷の明かりが消えていることを確認してから、門を飛び越え、そのまま音を立てずに外へ走り抜けた。


 フェルティナの屋敷は高地にあり、領民が住まう街はそのふもと付近に広がっている。

 距離で言うと3kmほど。フェルティナの足なら20分で着く。


 人通りの少ない道を足早に駆け抜けると、多くの人々で賑わう飲食街に辿り着いた。




「やっぱり夜の飲食街は気分が高揚いたしますわね!」




 セルヴァラントはかつて他国からの侵略を防ぐ要所としての役割だったが、戦乱が落ち着いた今の時代では、他国との貿易が盛んに行われる交易都市としての発展を遂げていた。


 故に、他国から様々なものや文化が集う街となり、昼夜問わず多くの人で溢れかえっている。


 人が集まる——それすなわち、文化も発展しやすいということ。


 王都から離れた辺境に位置するにもかかわらず、石造りの立派な建物が立ち並び、街の大通りにはガス灯が等間隔で設置され、近代的な風景が広がっていた。

 ガス灯が設置されているのは、ここを除けば王都しかない。夜だというのに、治安が良いと様々な地で話題になっている。




「今日はお肉。お肉が食べたい気分ですわ」




 こうして夜に屋敷を抜け出し、食事を見繕う生活を始めて早3か月。

 彼女がここまで『美味しい食事』にこだわるのには理由がある。


 戦乱が絶えなかった頃、国を守る防衛の要として機能してきたセルヴァラント。


 他国からの侵略を受けた場合、土地の特性を利用して籠城戦をしかけることが得意としてきたこの領地では、兵糧が足りずに侵攻を諦める侵略者たちの姿を何度も目にしたという逸話がある。




「生きることとは、食べること」




 食べたものが勝ち、そうでないものが敗北する。

 故にこの地にとっては、食べるという行為そのものが大事にされており、おいしいものを満足に食べられることが、この地に住まう人々にとって矜持なのだ。

 フェルティナも当然例外ではない。




 フェルティナが位の高い公爵家からの婚約を破談にしてまで、食事を重んじる理由はそれだった。

 幸せに何かを食すこと。その1点に関して、フェルティナは誰にも譲れない矜持がある。




「この店にしましょうか」


 賑わう人の間を縫うように歩きながら、どこで食事をしようか吟味して回っていると、腸詰と簿同種が描かれている看板の店が目に留まった。

 窓から中を伺うと、ちょうどカウンター席が空いている。


 ここでなら良い食事ができそうだ。


 そう思ったフェルティナは鈴の付いた木製のドアを開けた。



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