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おいしいご飯が食べたいので、この縁談は無かったことにして頂けないでしょうか?  ~辺境伯令嬢の夜な夜な背徳飯ライフ~  作者: 糸音
第4章 同じ鍋にも味2つ

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魚の小骨と良き友人

 

 夜食はカノンの言いつけを守り、アルマは野菜を中心とした献立を作った。


「……」


 美味しい。が、不思議と味がしない。

 味が付いていないわけではない。むしろ好きな味付けだ。


 原因は分かっている。今料理のこと以外に気が移っているからだ。


「お嬢様。どうかされました」

「いえ、何も……」


 結局あの後、フォローを入れすぎたことを謝ったが、逆に「騒ぎを起こしてしまい申し訳ございませんでした」と謝られた。


 その後、カノンはいつも通りに完璧な仕事をこなし、あの喧騒はどこへやら。屋敷にはいつも通りの日常が戻っている。


「……」


 だが、カノンが少しだけ見せたあの静かな怒りが、胸に魚の小骨のように刺さっていて、どうとも言い難い後味の悪さが残っている。


 良くも悪くも普段通りに戻ったせいで、その胸の内を掘り下げる機会もなかったし、そのことについて謝罪する隙も与えてもらえなかった。


 小骨が刺さったまま食事が終わり、その日はそのまま就寝に着いた。


 食欲よりも、カノンへの背徳感が勝り、その日は屋敷を抜け出す気にはなれなかった。




 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




「……ということがありましたの」

「それはまた大変でしたね」


 次の日、アカデミーの放課後、フェルティナはエリを誘い、中庭のベンチに腰をかけながら昨日の出来事を説明した。


 中の良い令嬢や生徒たちは多いが、真剣な悩みや愚痴などを話す時は大抵エリだ。


「フェルティナ様の心境を含めて、もう一度話をされてみてはいかがでしょうか」

「……今朝も試みたのですが、『気にする必要はございません』と返されました」

「カノンさんらしいですね」

「それでも引き下がると、『それよりもご自身の摂取カロリーを心配されてください』、と返されました。……カノンは口を開けば小言ばっかりですわ」


 それはあなたが口を開けば、夜に肉ばっか食ってるからでは。


 などという突っ込みが湧いてきたが、口には出さずにしまっておく。


「……カノンは、私のことをどう思っているのでしょうか」


 独り言のように漏らしたフェルティナに、エリが向かい直る。

 フェルティナは俯きながらも、エリが聞く姿勢になったのをみて、思っていることを語り始めた。




「カノンは働き者です。家のことを凄く大切にしてくれています。……だけど、最近、私をどのように思っているのか分からなくなる時があるのです」

「……と、いうと?」

「……カノンは、私よりもヴァレンシュタイン様との縁談の方が、大切なのではないかと」


 そこまで言ってしまい、「しまった」とフェルティナは目を見開いた。

 この言い方では、自分が縁談話を断りたいと感づかれてしまう可能性がある。


 幸い周りに生徒はいない。他の者に聞かれてはいないだろう。


 後はエリが気が付いたかどうか。


 少し焦った様子で、フェルティナはエリに振り返ると、



「フェルティナ様、ヴァレンシュタイン公爵とは料理の趣味が合わなそうですもんね」


 とエリは苦笑気味に返した。

 全てを見透かしたようなその微笑みに、フェルティナは恐る恐る尋ねた。


「エリ……その、私の悩みに、気が付いて……?」

「ええ、まあ。この前のパーティーの様子を見て、なんとなく、ですけど」


 口元で人差し指を立て、片目を瞑ったエリを見て、フェルティナはじんわりと胸が熱くなった。

 口止めの必要はなさそうだった。


「……私は、本当に良き友人を持ちました」

「こちらこそ、感謝してもしきれないことが多いです」

「ねえ、エリ。カノンは私のこと、どう思っていると思う?」


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