真・違和感の正体
ガタン、と椅子を鳴らしながらその場で立ち上がったフェルティナに、周囲の者たちの視線が集まった。
その視線に我に返り、「失礼いたしましたわ」と上品に頭を下げ、椅子を正して座りなおす。
しかし、内心はとても落ち着いてはいられなかった。
ああああああ、げげげげげげ。
あげ、あげあげ、あげげげげげげげげ。
あげ、ぞこ? 上げ底? アゲゾコ?
お父様が治める領地で? 食の中心地であるこのセルヴァラントで?
食と平和の発展を願う、この賑わいのど真ん中で?
いけませんわ。いけません。
あってはならないでしょうそんなこと‼
フェルティナが怒りで静かに顔を赤く染め、わなわなと体を震えさせ始めた。
いくら中身が素晴らしいと言えども!
必要以上に外見を偽ればそれは詐欺‼
幸せは幸せな食事から! あろうことか、その食事の場で人を貶めるなど!
それも、私の一番の大好物であるビーフシチューオムライス様を使って‼
あってはならないでしょう‼ そんな愚行‼‼
フェルティナはカウンターの奥を見渡し、厨房の奥で料理を作るシェフの姿を見つけ、邪悪な笑みを浮かべ始めた。
あなた。平和な時代に生まれてよかったわね。
生まれる時代が違えば、打ち首でしてよ。一族もろとも。
すると、圧をはらんだフェルティナの視線に気が付いたのか、シェフが食べ終えた皿を戻しに来たスタッフに何かを伝えていた。
スタッフが慌てた様子で、速足でフェルティナの元に向かってくる。
ええそうですね。まずは謝罪をいただきましょうか。
私の大切なビーフシチューオムライス様を、罪の泥で汚した愚行を。
第一声には、十分に気を付けてくださいませ。
たとえ謝罪の場であろうと、エリがおっしゃったとおり、第一印象は大事ですからね。
気分はさながら、罪人を捌く審問官。
弁明によっては、減刑を考えてやらないこともない。
さあ、この罪人の刑はいかがいたしましょう。
机の上で手を組み、汲んだ両手の上に顎を乗せ、スタッフが来るのを待っていた時、
「すいません。ナイフとフォークが必要でしたね。失礼いたしました」
「へ?」
スタッフが謝罪と共に、料理の横に木製のナイフとフォークをそっと添えた。
予想外の対応にフェルティナが目を丸くしてしまう。
え? ナイフ? フォーク?
オムライスに? ビーフシチューに?
どうしてそれらのものを渡されたのか分からず、困惑しながら、とりあえずオムライスの底にフォークを刺してみる。
するとどういうことだろうか。
先ほどまで上げ底と思っていた、台の底にフォークが刺さる。
そして、確かな厚みを持って、フォークを押し返してくるこの感触は……
「お肉……?!」
何度も夜中に食べた素材だ。よもや間違うはずもない。
思考を興奮が飛び越して、底をスプーンで掘り進めると、チキンライスとシチューの海の底に眠っていたのものは、
「ハンバーグ……?!」
上げ底ではない。オムライスは宝箱だ。
ビーフシチューの海の底から突如として現れた財宝が、フェルティナの瞳に再び宝石のような輝きを灯すのだった。




