違和感の正体
コツン。
違和感の正体を確かめようと、木匙を再び差し込むと、同じ触感が木匙を通して伝わってきた。
「……………………?」
なんですの。この肌をなぞる静かな違和感は。
高揚した心に、小さく落とされた冷たい雫。
静かに。それでいて確かに、心から体へ冷たい波動が伝わっていくのがわかる。
しかし、なぜかその違和感を言語化できない。
この感覚には覚えがある。
これは、本能的にその違和感の正体を理解しているものの、本能的に脳が認識を拒んでいるときにおこる、現実逃避に近い困惑だ。
落ち着きなさいフェルティナ。あなたはセルヴァラント領の令嬢。
こういう不測の事態にこそ、落ち着いて状況を整理しなくてはなりません。
動揺する自分に言い聞かせながら、木匙の先から伝わってくる感覚に集中するため、薄く目を閉じる。
一度、深呼吸しましょう。
すう。はあ。
……ええ。大分落ち着きましたわ。
流れを一つずつ整理しましょうか。
私は先ほどまで、ビーフシチューオムライスを食べておりました。
一心不乱に食べ進めていたところ、鉄皿の底に辿り着いたのか、何やら硬い感覚が木匙の方から伝わってきております。
……しかし、匙から伝わってくる感覚は鉄皿のそれではございません。
それに、この感覚が生じている場所は、鉄皿の底よりも数㎝高い場所でございます。
まるで、皿の底と、オムライス様の間に、何か土台のようなものが仕込まれているような……
木匙を優しく押しつけながら、フェルティナはその違和感を生じさせてくる物体の正体を記憶から探る。
何となく。……いや、何故か。
それを表現する言葉をつい最近聞いた気がします。
いつでしょう? カノンと昼食を巡って攻防を繰り広げたとき? 違います。
アカデミーで、セルヴァラント領の歴史をエリと一緒に学んだとき? 違いま——
いや、エリですわ。
彼女の言った何かが、きっとこの違和感の正体なのですわ。
必死に頭を巡らすフェルティナの脳裏によぎったのは、
一緒にローストビーフを食べた、あの立食パーティー。
『靴底に何か仕込んでいるのでしょう。上げ底っていうやつです』
『『上げ底?』』
「——はあっ?! 上げ底お?!」
悲鳴に近い声と共に、フェルティナが反射的にその場で立ち上がった。




