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おいしいご飯が食べたいので、この縁談は無かったことにして頂けないでしょうか?  ~辺境伯令嬢の夜な夜な背徳飯ライフ~  作者: 糸音
第3章 中身も外も大事です。人も。オムライスも。

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ビーフシチューオムライス

 パーティーが終わったのは夜遅くだ。

 招かれた貴族たちは各々宿を取っており、そこで一晩過ごしてからそれぞれの治める土地へと戻っていく。


 ヴァレンシュタイン公爵は今晩、セルヴァラント家の客用の寝室に泊まることになっていた。


「フェルティナ、おやすみ。愛しているよ」

「はい、公爵様。おやすみなさいませ」


 甘い言葉を交わしてから、それぞれの寝室へ向かう。

 1時間ほど経過したところ、ベッドで眠りについていたフェルティナが突然目を覚ました。


 ……というより、そもそも寝ていない。


(だって夜はこれからではありませんか!)


 パーティーで散々お預けを食らった後だ。

 目も舌も覚め、このまま眠れるわけがない。


 慣れた様子でいつものフードを被り、祭典ムードが漂う街の飲食街へと降り立った。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 祭典の真っただ中ということもあり、いつもならこの時間には、ある程度の静寂を見せる飲食街が、今日は明かりと人ごみで賑わっている。

 過度な喧騒は苦手だが、祭りの賑わいは嫌いじゃない。


 人と人との間を縫うように歩きながら、フェルティナは辺りの店を物色する。


(今日は珍しく、何を食べたいかは決まっておりますの)


 店先に置かれているメニューを確認しながら飲食街を進んでいく。


 そしてお目当てのメニューを見つけたとき、念のため窓から店の様子を確認して、雰囲気がいい店であることを確認し、鈴の付いたドアを開けた。


「いらっしゃいませ! おひとりさまですか?」


 入ったのは、グリルやハンバーグなどの鉄板料理を主に扱う洋食屋だ。

 店内に入ると、温かい湯気に乗って香草や胡椒の香りが優しく鼻を突き抜ける。

 店内も程よい明るさで、人で賑わっているも、下品に賑わう声は一切ない。


 雰囲気は良し。周囲の者たちが食べている肉料理を見るに、味もおそらく当たりだろう。


「ご注文がお決まりでしたら、お声かけください」

「ありがとう。早速よろしくて?」

「はい。お伺いします」


 お冷を用意した給仕の若い男が、フェルティナの呼びかけに注文票を取り出した。

 いつもなら、「ボリュームのある肉料理を」という曖昧な注文を楽しむのだが、


「外のメニューにあった、『ビーフシチューオムライス』をお願いいたします」

「かしこまりました。ビーフシチューオムライスですね」


 男が復唱し、オーダーを厨房に伝えに向かう。


 ホロホロと肉が柔らかくなるまで煮込んだ旨味たっぷりのビーフシチュー。

 卵をたっぷり使い、甘いチキンライスをふわふわの膜で閉じ込めたオムライス。


 それぞれフェルティナの好きな料理の1位と2位だ。

 その二つが組み合わさったビーフシチューオムライス。1位と2位が組み合わさってできた料理だ。美味しくないわけがない。


 何を食べるのか迷ったときは、とりあえずビーフシチューオムライスを頼むくらい、フェルティナはこの料理が大好きだ。


 なのに好きな料理ランキング1位にこれが来ない理由は、あまりにも大好きすぎるため、フェルティナが『殿堂入り』と判定し、勝手にランキングから除外しているからである。


 個人のランキングに『殿堂入り』とか特別枠とか無いだろうという突っ込みは無しとする。大切なのは、それぐらいフェルティナがビーフシチューオムライスを愛しているという事実なのだから。




 そして、暫く料理を待ち続けていたところ、


「お待たせしました。鉄板ダイニング特性『ビーフシチューオムライス』です」


 ……やはり、数ある洋食屋の中から、ここを選んで正解でしたわね。


 目の前に出された好物を前に、フェルティナは勝手に勝利を確信するのだった。



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