ビーフシチューオムライス
パーティーが終わったのは夜遅くだ。
招かれた貴族たちは各々宿を取っており、そこで一晩過ごしてからそれぞれの治める土地へと戻っていく。
ヴァレンシュタイン公爵は今晩、セルヴァラント家の客用の寝室に泊まることになっていた。
「フェルティナ、おやすみ。愛しているよ」
「はい、公爵様。おやすみなさいませ」
甘い言葉を交わしてから、それぞれの寝室へ向かう。
1時間ほど経過したところ、ベッドで眠りについていたフェルティナが突然目を覚ました。
……というより、そもそも寝ていない。
(だって夜はこれからではありませんか!)
パーティーで散々お預けを食らった後だ。
目も舌も覚め、このまま眠れるわけがない。
慣れた様子でいつものフードを被り、祭典ムードが漂う街の飲食街へと降り立った。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
祭典の真っただ中ということもあり、いつもならこの時間には、ある程度の静寂を見せる飲食街が、今日は明かりと人ごみで賑わっている。
過度な喧騒は苦手だが、祭りの賑わいは嫌いじゃない。
人と人との間を縫うように歩きながら、フェルティナは辺りの店を物色する。
(今日は珍しく、何を食べたいかは決まっておりますの)
店先に置かれているメニューを確認しながら飲食街を進んでいく。
そしてお目当てのメニューを見つけたとき、念のため窓から店の様子を確認して、雰囲気がいい店であることを確認し、鈴の付いたドアを開けた。
「いらっしゃいませ! おひとりさまですか?」
入ったのは、グリルやハンバーグなどの鉄板料理を主に扱う洋食屋だ。
店内に入ると、温かい湯気に乗って香草や胡椒の香りが優しく鼻を突き抜ける。
店内も程よい明るさで、人で賑わっているも、下品に賑わう声は一切ない。
雰囲気は良し。周囲の者たちが食べている肉料理を見るに、味もおそらく当たりだろう。
「ご注文がお決まりでしたら、お声かけください」
「ありがとう。早速よろしくて?」
「はい。お伺いします」
お冷を用意した給仕の若い男が、フェルティナの呼びかけに注文票を取り出した。
いつもなら、「ボリュームのある肉料理を」という曖昧な注文を楽しむのだが、
「外のメニューにあった、『ビーフシチューオムライス』をお願いいたします」
「かしこまりました。ビーフシチューオムライスですね」
男が復唱し、オーダーを厨房に伝えに向かう。
ホロホロと肉が柔らかくなるまで煮込んだ旨味たっぷりのビーフシチュー。
卵をたっぷり使い、甘いチキンライスをふわふわの膜で閉じ込めたオムライス。
それぞれフェルティナの好きな料理の1位と2位だ。
その二つが組み合わさったビーフシチューオムライス。1位と2位が組み合わさってできた料理だ。美味しくないわけがない。
何を食べるのか迷ったときは、とりあえずビーフシチューオムライスを頼むくらい、フェルティナはこの料理が大好きだ。
なのに好きな料理ランキング1位にこれが来ない理由は、あまりにも大好きすぎるため、フェルティナが『殿堂入り』と判定し、勝手にランキングから除外しているからである。
個人のランキングに『殿堂入り』とか特別枠とか無いだろうという突っ込みは無しとする。大切なのは、それぐらいフェルティナがビーフシチューオムライスを愛しているという事実なのだから。
そして、暫く料理を待ち続けていたところ、
「お待たせしました。鉄板ダイニング特性『ビーフシチューオムライス』です」
……やはり、数ある洋食屋の中から、ここを選んで正解でしたわね。
目の前に出された好物を前に、フェルティナは勝手に勝利を確信するのだった。




