良き学友
「お嬢様。ここにおられましたか」
ヴァレンシュタイン公爵に一礼してから、カノンがフェルティナの元に現れた。
「招待しておられた学友様が、今ご到着されたとのことです」
「まあ! 早速こちらへ案内してくださる?」
フェルティナの声色が明るくなり、カノンが頭を下げてからその場を去った。
そして、暫くした頃に、
「フェルティナ様。この度はお招きいただき、ありがとうございます」
「エリ!」
白いドレスに身を包んだエリが現れ、フェルティナが嬉しそうにドレスの裾を上げながら小走りで駆け寄った。
「来てくれてありがとう! お待ちしておりましたわ!」
牛丼の件以来、フェルティナはエリとよく会話をするようになり、今では良い学友となっている。
高価な絹で作った純白のドレスはフェルティナの方で仕立てたものだ。
エリの特徴的な黒い髪が映えて見え、控えめながらもしなやかなボディラインが美しい。
「フェルティナ。こちらのご令嬢はどちらの家の方なんだい?」
「こちらはエリ。アカデミーでの学友です」
「初めましてヴァレンシュタイン公爵様。エリと申す者です。セルヴァラント領の食堂街で、倭国の大衆食堂を営んでおります」
「倭国の方か。道理で美しい黒髪だと思ったよ。よろしく、エリ令嬢」
令嬢、と呼ばれるようなお家柄ではないのだが。
エリが照れ臭そうに一礼してから、差し出された手を優しく握り返す。
「エリ。ここに来るまでに何か食べてきた?」
「いえ、とくには」
「カノン。彼女にいくつか料理を持ってきて。私にも同じものを」
「かしこまりました」
カノンが一礼し、料理を取りに向かう前に、
「エリ、何が食べたい?」
フェルティナが尋ねながら、視線でローストビーフをさりげなく示す。
意図を察したカノンの足が止まった。
「野菜を使ったメニューも絶品ですよ」
カノンがすかさず別方向に軌道を修正しようと割って入る。
「……カノン。エリが困惑しておりますわ」
「失礼いたしました。でも、野菜は本当においしいですよ」
「そうだね。エリさん、野菜は本当においしいよ」
本、当に余計なことを言わないでくれますかヴァレンシュタイン様。
目下の敵と第三勢力が思わぬ形で手を組みだして、フェルティナの眉がぴくぴく動く。
「え、えーと……その……」
「エリ。好きなものを頼んでくださいませ。『一緒に』食べましょう」
にこやかな笑みで、それでいて縋るような声でフェルティナがエリに向かい直った。
エリはフェルティナとカノンをそれぞれ一瞥してから——
「……一緒に、ローストビーフを食べたい、です」
「……かしこまりました」
カノンが一礼し、料理を取りに向かった。
その姿が遠くなった後、フェルティナはエリの肩に手をかけ、
「私は良き学友に恵まれました……‼」
「泣くほどですか?!」
表情がエリにしか見せないように顔を伏せ、細い涙をフェルティナが流す。
この人もこの人で苦労してるんだなあ、と貴族社会の大変さを、フェルティナを通して知るエリだった。




