食の女神はただひとり
昼休憩の終わり際、エリがフェルティナの元に駆け寄り、頭を下げた。
「フェルティナ様、ありがとうございました」
「? 何のことでしょう?」
本気で思い当たる節がないらしく、不思議そうに声が上ずった。
「食堂で料理を出せるようになって……、おかげで家も何とかやって行けそうです」
「あら、礼には及びませんわ。美味しいものを評価しただけです。こちらこそありがとう。牛・首領のおかげで皆が幸せそうにしていますわ」
何に対しての礼なのか理解し、フェルティナも頭を下げる。
本当は、それだけじゃなくて、礼を言いたいことは山ほどあるのだが、それを口にすれば自分への卑下にもつながるし、フェルティナ側も過剰な礼は望んではいない。
それは何となくわかっているので、今度機会があったとき、別な形で恩は返させてもらおうと思う。
そんなことを思うエリに、フェルティナが「そうですわ」と両手を叩いた。
「エリのお店、『食の女神』様が現れたそうね」
「……え?」
まるで他人事のように目を輝かせてくるフェルティナに、思わずエリが唖然となった。
「お会いしたのですよね? どんな方でしたか? カノンも知っているみたいですけど、意地悪して教えてくださらないの。同じような味を好んでいるようですから、一度お会いしてみたくて……! よろしければ、どんな方かお伺いしてもよろしくて?」
……この人、ほんとに自覚がないのか?
何も知らずに自分を頼ってくる様子がおかしくて、エリは思わず吹き出して笑った。
なぜ笑われたのかがわからず、フェルティナがポカンと目を丸くすると、
「会うのは、……色々あって難しいと思いますよ」
「まあ。どうしてでしょう?」
「だって、女神さまは一人しかいませんからね」
「……?」
これが、私が話せる最大限です。
告げられたエリのヒントに、ますます難しい顔になったフェルティナを見て、やっぱりこの人は愉快な人なのかもしれないと、エリも穏やかに微笑んだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
一方そのころ、アカデミーの理事長室では、
「ほう、これは美味いな」
「そうですね。お嬢様はチーズとタバスコをかけて召し上がられていました」
理事長室では、テイクアウトの牛丼を食べながら、フェルティナの父とカノンが報告会を行っていった。
「この牛・首領をきっかけに、セルヴァラントの食がさらに豊かになればよいな」
「そうですね」
カノンも父も、木匙を使って、気品を保ちながらも豪快に丼を食べ進んでいく。
大盛でテイクアウトした牛丼を、二人は軽く平らげてしまった。
「もう食べ終わってしまった」
「私もです」
「それでは倭国の流儀に合わせて——」
「「ごちそうさまでした」」
手を合わせ、食への感謝を込めながら、空になった器に一礼をする。
美味しさの余韻が抜けたところで、「それはそうと」と父が切り出した。
「この料理、カロリーはいくらになる?」
「……大盛で約1000㎉。……お嬢様が食べたのは特盛のチーズトッピングですので」
「……」
「……およそ、1700㎉になるかと」
気まずそうに述べた数字に、カノンと父が同時にため息をついた。
この数字は、別なところで調整しなければなるまい。
空になった容器を横目に、二人は温かくも苦い茶を啜って、小さく息を吐くのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
全5章の予定ですので、もし面白いと思って頂けたなら、あと少しだけフェルティナたちの物語にお付き合い頂けますと幸いです。
m(__)m




