美味しい料理とは
その日から暫くが過ぎ、セルヴァラント領には『チーズ牛丼』の噂が広がった。
途端に店が繁盛するようになり、エリはアカデミーでも幸せそうに疲れている様子を偶に見せるようになった。
難点として、店に行列ができるようになったので、お目当ての料理に中々ありつけないものがまだいるという問題がある。
それに目を付けたフェルティナが、父にとある提案をした。
「へえ、これが噂の牛首領かあ……!」
フェルティナの父がエリの店を訪れて、学食に牛丼を提供しないか尋ねたのだ。
エリの父もこれを快諾。
レシピを共有し、学食で販売したところ大盛況。
食の女神が認めたという評判、そして比較的安価でお腹いっぱいになれるコスパの良さから、主に平民の生徒たちに、好んで食べられるようになった。
「まあ。フェルティナ様も牛首領を買われたのですか?」
食堂で早速牛丼弁当を食べるフェルティナに、庶民の生徒が語り掛けてきた。
同じものを食べるというのは、身分の壁を取り払ってくれるものなのだと、フェルティナは感心しながら「ええ」とほほ笑む。
エリもその様子を、牛丼を食べながら見守った。
そんなとき、
「まあフェルティナ様。そんな庶民が食べるもの、お口に合うはずがありませんわ。あちらで私たちと高級ランチを食べませんこと?」
この前とは別な令嬢たちが、悪態を交えながらフェルティナの元へ歩いてきた。
まあ、よくもこういう輩が次から次に来るものだと呆れるが、フェルティナは「遠慮いたします」と余裕をもって返す。
気まずくなった空気に、エリや庶民の生徒が不安そうにフェルティナを見つめていると、フェルティナが令嬢たちに問いかけた。
「ところであなたたち。美味しい料理とはどのようなものか、答えられますか?」
不意に尋ねられ、問いを投げられた本人たちも、それを傍から聞いていた庶民たちも顔を見合わせる。
ひそひそと協議を重ねた後、令嬢たちが得意げに返した。
「一流の素材を使い、一流のシェフが作った料理ですわ!」
「それが、あなたたちの中での美味しい料理なのですね」
「ええ。身分が違えば食べるものが違う。食べるものが違えば住む世界が変わるのです。ですからフェルティナ様、そんな庶民の料理など召し上がられていないで、こちらで一緒にランチを——」
「私が思う美味しい料理とは、料理人が食べる人のことを思い、美味しさを追い求めた末に生まれる、熱意と努力の結晶です」
令嬢たちの言葉を遮りながら、改まった様子でフェルティナが告げる。
「素材の味は確かに大事です。しかし、料理をおいしくするのは、料理人の熱意と努力。住む世界、ましてや身分など、お皿と舌の上では関係ありません。私はこれからも、この先も。私がおいしいと思うものを口にし、その料理とそれを生み出した者たちへ、最大の敬意を払い続けます」
そして、牛丼を匙で掬い、紅ショウガと一緒に口に含んだ。
「この料理は、美味しいわ」
それを聞いた庶民たちの表情は明るくなり、令嬢たちはばつが悪そうな顔になって、何も言わずにその場を去っていった。
その様子を見ていたエリは、少し涙目になりながら、内から溢れてくる幸福感に浸り、牛丼を口に運んだ。




