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おいしいご飯が食べたいので、この縁談は無かったことにして頂けないでしょうか?  ~辺境伯令嬢の夜な夜な背徳飯ライフ~  作者: 糸音
第2章 身分は平らに。されど牛丼は特盛に

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夜更けに令嬢が訪れるわけがない。

「エリ。ランプに火を頼む」

「はいはい。わかってますよーっと」


 セルヴァラント領の食堂街メインストリート。

 そこからやや外れにある2階建ての宿舎が、エリの家族の家、そして彼女らが運営する食堂である。


 清掃を終えた後、食堂の壁に設置されている並んだランプに火を灯す。

 なんでも、今セルヴァラントをの食の最先端を行くという『食の女神』は、清潔で騒がしくなく、ある程度店内が明るい店を巡る傾向があるとのこと。


 エリの店も元々ランプはついていたが、その噂を聞き増設した形だ。


 ランプだって安くないんだけどなあ。と噂に振り回されている父に呆れながら、ランプを灯し終える。

 多分今日も暇なんだろう。と、キレイに清掃された店内を一瞥し、ドアの立札を『OPEN』に返した。


 ただ、少し気がかりなのが——


「……ねえお父さん。万が一お偉いさんが来ても、妙な真似しないでよね」

「ん? どうした急に」

「別に。何となく」


 フェルティナが食事の最中、店の場所を聞いてきた。

 答えはしたが、ここは大通りから外れた位置にある大衆食堂。フェルティナのような令嬢が訪れるとは思えない。


 ……が、それでも口にしてしまうということは、ほんのり期待してしまっているということか。

 今日のお礼をしたい気持ちが7割、フェルティナが訪れることで店の評判が広まるという下心が3割だ。


(……って、何を失礼なことを考えているんだ、私は)


 エリが両手で頬を叩き、接客モードへと面持ちを切り替える。


 しかし、日が暮れてから夜が更けるまで、数えられる程度の客しか来なかった。




 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




「はあ~、ねむ……」


 夜中になり、大通りの店が賑わう時間帯。

 エリは磨いたばかりのテーブルで頬杖を突きながらあくびをした。


「明日もアカデミーに行くんだろ? もう寝ていいぞ」

「今から他のメニューを試作するんでしょ? お父さん夢中になるとすぐに周り見えなくなるんだから。閉めるまではここにいるよ」


 アカデミーで配布された教本を取り出し、机の上で読み始める。

 エリの父親は少し申し訳なさそうに眉をひそめてから「そうか」と頷いた。


「まかない作ってやろうか」

「ありがと。余ってるやつでいいよ」


 今日の仕込みを見るに、出されるメニューは『あれ』だろう。

 この国の人たちの流行にも合うよう、ボリューミーかつこってりなメニューを開発した。

 食べた者たちからは好評だが、その評判が広まるにも時間は必要らしい。


 その魅力が伝わるまで、うちがもてばいいけどなー。


 なんて、ネガティブな物思いに耽りながら教本を読む。


「……フェルティナ様、良い人だったな」


 教本を読みながら、アカデミーでのことを思い出し、少し残念そうにため息をついた。

 思った以上に、店に来ることを期待してしまっていたらしい。


 そもそも、興味を示しただけで、来るとは一言も言っていないし、来るとしても今日来るとは限らない。


 精いっぱいのおもてなしをしたかったなあ。


 もうこんな時間だ。フェルティナのような令嬢はもう寝てしまっている頃だろう。

 こんな夜更けに現れるわけがない。


 そう思っていたところ、入り口のドアが静かに開いた。


「あ、1名様ですね。開いている席へどう——じょ?」

「ありがとう。そこの席にいいかしら」


 フードで顔を隠した女性。

 そのフードの奥に見える特徴的な銀の髪と琥珀色の瞳に、エリは思わず呆けた声を上げてしまうのだった。


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