七章 目を瞑って見つめよう
実家を後にして数週間が経過した、犯人の足取りは掴めぬまま被害者だけが増えていった。
「(ひなたくん、例の資料だよ。)」
「(ありがとうございます、東雲さんも気をつけてください)」
「(ありがとうね、でも僕はずっと引きこもってるから!)」
東雲さんからのメールだった、それは指定暴力団、蜥蜴組の古い記事で、数日前に拝見させて貰えないか頼んだ所、快く了承してくれた。
そこには数々の犯罪履歴が載っていた。違法薬物の密売に恐喝、強盗に売春、だが僕はある文章に目を奪われた
「出雲家、一家殺人事件…?」
聞いたことがあるようなないような、その事件を境に組長の交代、長を失った蜥蜴組の犯罪はピタリと止まったのだ。その事件の概要は、出雲家へと強盗に入った組員が偶然居合わせた家族を殺した、子供は行方不明で、売られたか海に沈められた可能性が高いと言う。
彼らの親族や関係者が犯行に及んでいるのかもしれない、だが証拠が一切掴めないのだ。
遠くからエンジンの音が聞こえる。
「ただいまです!ひなた様!」
「遅かったねアリス、近所のスーパーに行ってるんじゃないのかい?」
「最近あそこ閉店しちゃったんです、なので隣町のスーパーに。」
「そうだったのか、ごめんね遠い距離を」
「全然大丈夫です!ひなた様のためなら!」
「今日は僕も手伝うよ、料理」
「わーい!一緒に作りましょう!」
「アリス、ここだよ」
「ここが…!」
僕とアリスはタオルや下着を持ってきてくれと頼まれ、遥々叔父さんの家へとやってきた。
「玄関の鍵はこれかな?」
扉を開くと、薄暗い廊下が続く。奥へ進み、リビングの扉を開けると、服や空き缶が散漫していた。
「だらしないな……」
僕は簡単に片付けを始める。
「ひなた様?あっちがおじ様の部屋じゃないでしょうか」
そこには内開きの取っ手がついた塗装されていない扉があった。
「叔父さんの部屋かな?」
扉を開くとそこは。写真や毛糸、記事やメモで張り巡らせた、壁一面埋まるほどの大きな捜査ボードが堂々と佇んでいた。
「これは、叔父さんが事件を調べたあと…?」
「(犯行時刻は午後七時過ぎから八時の間、太陽が完全に沈んだ頃に行われる。)
(反抗場所は街灯があまり当たらず暗くなる、暗闇に入ることで鈍くなる視覚と平衡感覚を利用し、自分を見せることなく犯行に及ぶ。)
(彼らの長期に渡る犯罪の終止符となったのは出雲家一家殺人事件。そこからという物は、資料に載っていない、何かしらの関係があると読む。)
(監視ロボットのカメラに何かしらの仕掛けをした可能性があると読む。)」
数々のメモに目を通していくと、最後のメモに僕は目を奪われた。
「(犯人は人間ではない可能性がある。)」
この文字を目にした僕は背中に嫌な悪寒が走る。犯人は人間じゃない、?となると何が犯行に及ぶと言うんだ、?野生動物が意図的に、さらに特定の集団の人を襲うとは考えられない。だとしたら、ロボッ……
「ひなたさまー?ありましたか?」
「わっ!」
不意に声をかけられ僕は情けない声を上げる
「ふふ、なんですかその声」
アリスがクスクスと笑う、恥ずかしさが僕の顔に血液を運ぶ。
「脅かさないでくれよ、!」
「ひなた様顔真っ赤!」
「まったくアリスってば…」
苦笑する僕を裏腹に、心に少しモヤモヤとしたものが生まれる。次第にそれは大きくなり、僕を不安の海へと引きずり込む。
「アリス、見てこれ、“ 犯人は人間ではない可能性がある”って、君だったら何者が犯人だと予想する?」
「んー野生の動物、?それとも、ロボット、?」
「やっぱりか…」
アンドロイドは人に刃を向けるわけがないと思っていた僕の心がバラバラに砕け散った。
自分が作ろうとしているものは人を傷つけるのかもしれない、目的もなく、ただ作りたいと言うだけなのはとても無神経な事なのではないのだろうか、そんな思いが頭の中を駆け巡る。
「大丈夫ですか、?」
「ありがとうアリス、これだけ持って行こうか。」
移動中も僕の頭と心は不安を語る。考えれば考えるほど不安は大きくなり絡みついて離れない。
「おじ様に届けたあと私はお買い物に行きますね!」
「アリス、それ僕も着いて言っていいかな?」
「いやいや!ひなた様はおうちでゆっくりしててください!」
「いやいいよ今日だって手伝ってくれたしさ」
「じゃあお言葉に甘えます!」
「ほんとにこのルートなの、?」
「そうです!スーパーへの近道です!」
アリス、本当に隣町のスーパーに行っていたなんて……
「ここです!」
そこには横に広く、大きな看板を携え、夜なのにも関わらずその周囲は昼間のような明るさの施設があった。
「こんな所まで通っていたなんて…いつもありがとう……」
「いえいえ!当然のことです!」
「今日買うものは?」
「お肉に卵に玉ねぎです!」
「分かったよ、じゃあ行こうか。」
やっぱり分からないな、犯人が人間では無いのなら更にターゲットが拡がってしまう。ただ確かなのは何かしら蜥蜴組に因縁を持っている者だ。
「ひなた様!昨日買い忘れたものを買いに行ってきます!」
「分かったよ、気をつけてね。」
「行ってきます!」
機械音とともにジェットエンジンの轟音が聞こえる。
「やっぱりもう一回監視ロボットを見せてもらうか…いや手間をかけさせる訳にはなー、」
いや待てよ?これだけ報道されるのに犯人の尻尾も掴めないなんて、もしかしたら警察がこの事件に携わっているのかもしれない。何か、膨大な力の圧のような……
時刻は八時過ぎ、家にはアリスの帰りを待つ僕が居る。遠くからエンジンの音が聞こえる。
「ただいまです!」
「おかえりアリスいつも遠くまでありがとう」
「大丈夫です!」
「じゃあご飯作るよ」
「わーい!ひなた様のご飯だ!」
翌日
「昨夜、蜥蜴組の組員二名が遺体で発見されました、警察は連続殺人事件の被害者と見ました。」
また新たな被害者だ、止まることがなく、永遠に続くのかとさえ思ってしまう。
「アリス、現場に行ってみよう」
そこには黄色と黒のテープが張り巡らせてあり、現実と非現実を隔てる壁のようだった。
「ああ君は市川くんの甥っ子か、悪いが今日は入れることは出来ない。」
「大丈夫です、ここから見てます。」
やはり現場に来たところで、素人の僕からじゃ何も分からない。腐敗臭が鼻を刺激する。
僕らはその場を離れた。
「ねぇ、アリス、僕はこの事件、警察が関与していると思うんだ。だから今度おじさんの通行書を使って行ってみようと思う。」
「見つかったらひなた様は捕まってしまいます…」
「それでも僕はやりたいんだ。このまま何もしないのは嫌だ。」
「分かりました、では着いていきます。ひなた様が居るところに私ありです!」
「ありがとう」
アリスの覚悟に少し驚く。犯罪なのは分かっている、見つかった時はおじさんのせいにしよう、僕は自分のずるい考えを否定したくなった。でも僕にも覚悟はある、この事件を解決したい、ヤケになっているのかもしれないが、本気なのは確かだ。
「おじさん、通行書ある?」
「お前、何する気だ?覚悟の上で言っているのか?」
「僕は本気だ」
陽太の覇気に俺は少し臆する。
「ダメだ、何があろうと」
「たのむ!」
陽太は勢いよく頭を下げた
「どうしてそんなに執着しているんだ。」
「僕はこの事件を解決できないと、夢を追えない、僕はヤケになっているんだ、だからお願い、絶対に解決してみせるから。」
少し揺らいでしまった、陽太は大切な甥だ、危険な目に晒す訳には行かないが、こいつの意見を否定したくはない。
「覚悟の上だな?」
「もちろん。」
「はぁ、」
俺は大きなため息を着く。
「あー、通行書机の上に置きっぱなしだなー誰かに取られそうだなー」
「……!ありがとうおじさん、!ありがとう!」
「ほら、用がないなら帰れ帰れ」
陽太は颯爽と病室を出る。
さっきまでのあいつはどこに行ったんだろうな、全く手のかかるやつだ。
「気をつけろよ、陽太。」




