六章 生きる場所、それが僕らの街
「久しぶりだな…この場所も」
電車を乗り継ぎ、僕は地元へ帰ってきた。
「ここがひなた様の育った場所ですか!自然が多いですね!」
「ここは都会の方みたいに街の開拓が進んで居ないからね。気候とかの問題で高いビルを建てれないとかなんとか。」
「私は好きですよ!こういう所!」
辺りを見回しても草木や畑、高い建物があるとしても、三階建てのマンションくらいだ。奥には山が待ち構えている。
「ここからバスだよ」
「初めて乗ります!ここのバスはまだ人が運転しているのですね!」
「そうだね、今は電車もタクシーも自動運転だけどここはずっと人だね。」
僕らは整理券をとって席に座る。
「こうしてみると、二人でお出かけに来たみたいですね!」
「んー僕からしたらいつもの道だからな。」
「でも私はこの道知りません!だから楽しいです!」
「そうかなーそうだと嬉しいよ。」
数十分後、目的地へと着いた僕らはバスを降りる。
「もうすぐそこだよ。久しぶりだな、家に帰るの。」
「楽しみです!」
道なりに進む、見覚えのある景色が脳を刺激していく。すぐそこが実家だ、そう思った時僕はある人が目に留まる。
「え、ひーくん……?」
「ほ、ほたるちゃん…?」
懐かしい匂いに包まれている僕は締め付けられていた紐が解かれるよに気を緩める。
「おかえりなさい陽太、ゆっくりしていきなさいね。それに蛍ちゃん、久しぶりに来てくれてありがとう、ご飯食べてく?」
「ありがとうごさいます!頂きます!」
「なんなら泊まってってもいいのよ?」
「母さん、それくらいに…」
「あらあらごめんなさいね、お父さんは書斎に居るから、お話してきなさいね。」
そうだ、ここには幼なじみのほたるちゃんが居る、気を引き締めなくちゃ…
「ひなた様?」
「ああごめんアリス、この人が僕の母親だよ。」
「アリスちゃん?外国の子かしら!大学で出会ったのね、よろしくねアリスちゃん!」
「あいや、母さんこの子は」
「さて、ご飯の支度をしましょうかね」
母は僕の話を聞く前に台所へと向かった。
「それよりひーくん、その子、アンドロイドでしょ。」
「やっぱり分かるんだ、アリスって言うんだ。アリス、この子は幼なじみのほたるちゃん。」
「そう!ウチほたる!よろしくね!」
「よろしくお願いします!ほたるさん!」
「へぇーよく出来てるなー!」
蛍はアリスの顔をじっと見つめる。
「わ、私の顔に何か着いてますでしょうか…」
「気にしなくていいよアリス、ほたるちゃんはこういう子なんだ。」
「ちょっと!それどう言う意味!?」
「そのままの意味だよ?悪い意味じゃないよ!」
「本当かー?このヤロー!」
「ハハ!やめてよほたるちゃん!」
二人は幼稚園児のようにじゃれ合う。
「蛍ちゃーん!お母さんから電話よー?」
「あ、はーい!」
蛍は駆け足で陽太の母親の元へ向かう。
「ひなた様、ほたるさんと仲良いのですね」
「そうだね、幼稚園から一緒だし、それに僕が夢を持ったきっかけは、ほたるちゃんなんだ。」
小学一年生
『ひーくん頭いいねー』
『そんなことないよ!ほたるちゃんの方が』
『んーん!ウチより頭いい!ロボットより足し算早いんだもん!』
『算数は覚えるだけだよ?ロボットの方がもっとすごいよ!だってお仕事するんだよ?悪い人捕まえたり見張ったりしてるんだよ!僕なんてまだまだだ……』
『そこまで言うならさ!ロボット作ってみてよ!そうしたらひーくんがロボットより頭いいってなるでしょ?』
『僕が、ロボットを作る…?』
「当時の僕は全く気にかけていなくてさ、今でも思うよ、子供の戯言だって、でもなんかずっと頭に残っててヤケになっちゃってさ、気づいたら大学でロボットのことを学んでいたよ。」
「そうなんですね、ちょっとだけ羨ましいです……」
「え?誰が?」
「え?あ!いやなんでもないです!私に出来ることがないか探してきます!」
「どうしたんだ?……」
僕は話に夢中になり、父親へ声をかけるのを忘れていた。
重い足を書斎へと運ぶ。
「ふぅ……」
僕は奥に父親が居るという現実を受け止め、深く息を吐く。
「と、父さん、?」
「陽太か、学校は上手くやってるのか?」
予想外の質問に息を飲む。
「うん、僕なりにやってるよ。」
「そうか、叔父さんの件は仕方の無いことだ、今日はゆっくりしてけ。」
「あ、ありがとう。」
いつも厳格で冷たい父親が今日は妙に優しく僕は唖然と立ち尽くす。
「突っ立ってないで、母さんの手伝いでもしたらどうなんだ?」
「あ、そうだよね、じゃあ」
そっと書斎の扉を占める。
「ひなた様?」
「アリス、ごめんね一人にして、ちょっと散歩しないかい?社会勉強って事でさ。」
僕らは山へと沈む真赤な太陽に照らされながらあぜ道を歩く。
「本当にここは空気が綺麗で植物が沢山ありますね!」
「都会は発展して行けるけど、ここはこの国の食べ物を支えてるから、下手に開拓できないんだってさ。」
「監視ロボットが一体もいないのに、犯罪は平気なのでしょうか。」
「治安がいいからね、みんな家の鍵をかけないで出かけることだってあるよ?」
「よっぽど平和なんですね!居心地がすごくいいし。」
「アリス、僕はロボットを作るために家を飛び出して都会に出たけど、やっぱり僕はこっちの方が性に合うんだよね。だから…」
「私は、どっちでもいいですよ?ひなた様が居るところに私は居ます。」
アリスの笑顔が太陽に照らされる、綺麗以外の言葉が見つからなかった。
「ありがとう、でも僕は事件を追いたいんだ、だから街に戻ったらまた犯人探しをしよう。」
「ひなた様は、それでいいのですか?」
「うん、確かに僕の命や君の命が危険に晒されるかもしれない、でもその時は僕が君を守るか…」
アリスの人差し指が僕の唇に触れる、反射的に僕は黙ってしまった。
「私が貴方を守る、でも私は探すことは出来ない、だから危険を顧みずに犯人を探して。信じていますよひなた様!」
時々アリスは急に大人びる、落差に戸惑う時もあるけど、それは彼女の魅力の一つだ。
「ありがとう、じゃあ家に戻ろうか。」
目の前に広げられたご馳走は僕達を誘惑して離さない。
「わーい!ひーくんママの料理久しぶり!」
「沢山食べてね!アリスちゃんも!」
「ありがとうございます!」
周りは笑顔で溢れ、賑やかな中父は顔色一つ変えずに箸を進める。
こんな時くらい笑えばいいのに。
「蛍ちゃん今日泊まっていくでしょ?アリスちゃんも、二人とも同じ部屋なんだけどいいかしら?」
「大丈夫です!」
「私のことはお気になさらず!平気です!」
「アリスちゃん今日はよろしくね!」
「よ、よろしくお願いします?」
「あいやアリスは僕の部屋に…」
「ダメよそんなの!何がとは言わないけどダメよ!今日は寒くなるから布団敷きなさいね」
「いや僕とアリスはそんな関係じゃ…」
ふとアリスを見ると一瞬寂しそうな顔を見せた。
「ってことも言えないけどさ…」
「もうひなたったら!もうみんなお風呂入っちゃいな!沸いてるから!」
久しぶりの実家の風呂に入った僕は薄暗い廊下を進んで自分の部屋に向かっている、するとリビングの電気が薄暗く灯っている。
僕は無意識に近づく。
「母さん、陽太は変わっていなかったか?」
「お父さん、自分で聞いたんじゃないの?」
「分からないんだ、俺は陽太を思って、警察にしようとした、あいつの夢を無視して、今更何を話せばいいのか…」
「でもそれはあの子の将来を思ってのことでしょ?」
「総司くんの部下になればすぐ手の届く、だから警察になれと言ったが、これはただの押しつけだ、陽太には申し訳ない事をした。」
僕は目を見開いた。
「アリスちゃんお風呂入った?」
「私は特別汚れた日以外はあまり。」
「ダメだよ?お風呂は乙女の義務なんだから!」
「それはどうでしょうか…」
二人はぎこちなく笑う。
「ねぇアリスちゃん、ウチのこと、嫌い?」
「いや!そんな事ないです!ただ、」
「ただ?」
「ただ、ほたる様がひなた様と仲良くしている所を見ると、何故か胸の当たりがモヤモヤして…こんな事私は知りません、故障してしまったのでしょうか……」
「ええ?!それって…」
「やっぱり私はおかしいのでしょうか!」
アリスは震えながら蛍を見つめる。
「ううん、それはね、アリスちゃんがひーくんをよっぽど好きな証拠だよ。どんなところが好きなの?」
「ひなた様は優しくて、頭が良くて、私に色んなことを教えてくれました。」
「うんうん!優しいよね!でも大丈夫だよ、ウチはひーくんを盗ったりなんてしないから!」
「あ、いやそういう意味じゃ……」
「いい加減自分の気持ちに気づけよー!仕方ない!ウチが夜通し惚気話に付き合ってあげよう!」
「あ、ありがとうございます、?」
「はぁ、でも母さんと晩酌なんて、何年ぶりだろうな。」
父は自責の念に駆られながらコップに酒を注ぐ。
「お父さん、陽太が産まれてから全然飲まないんだもの、いい事なんだけどね。」
「まぁ、たまにはいいじゃないか。」
「陽太、成長してたわよ。もう大丈夫。」
「そうか、良かった、あいつに頑張れって伝えてくれ。」
「まったく、あなたも素直になりなさいよ、その言葉はあなたが伝えるべきよ。」
「うーん。」
一緒に暮らしている時は知る由もなかった父の思い、どうして伝えてくれなかったんだ、どうして教えてくれなかったんだと心で思った、でもそれは間違いだ。そうだ、僕は知ろうとしなかったんだ。
「ごめん…父さん……」
喉を限界まで搾った声は自分でも驚くほど小さかった、僕は今更何を恥ずかしがっているんだ。
リビングを後にして自分の部屋へと戻った。
「ん?」
「どうしたの?お父さん」
「いや、なんでもないよ。」
「じゃあ、帰るね、また来るよ。」
「お母様お父様、お世話になりました!」
「アリスちゃん?お義母さんって呼んでもいいのよ?」
「変なことを教えないでくれよ…」
「じゃあね!アリスちゃん!ひーくんの事よろしくね!」
「はい!お任せ下さい!ほたる様もお元気で!」
「いつの間にふたりは仲良くなったんだ?」
「「ひみつ!」」
二人は同時に言葉を発した。
「じゃあな陽太、向こうでもしっかりやれよ。」
「ありがとう、父さんこそ体気をつけてね。」
「ああ、」
母が父に目配せをする、僕が歩き出す。
「まあなんだ、頑張れよ、お前は俺の息子だ、大丈夫だ。」
「ありがとう!」
声を張り上げながら手を振る、一心不乱に家を飛び出した時の記憶と照らし合わせながら。
「もういいのですか?」
「いいんだよ、父さん母さんも元気そうだったし、ほたるちゃんも」
「ひなた様が良ければ。」
「今はアリスと住んでいる所が本当の家だよ、帰ろう。」
僕はそっとアリスに手を伸ばす。
「はい!」
アリスも僕の手を取る。
「せっかくだしアリス、背中、乗せてくれない?父さんたちに見られないようにね。」
「はい!喜んで!」
アリスの背中から大きなジェットパックが出てきた。
「さあ!ひなた様!」
「うわあああああああ!速い!速い!」
「まだスピード出ますよ!」
「いやこれで十分!怖いよ!でも、楽しい!」
「えへへ!それは何よりです!」
次へ次へと景色が変わる、あれだけ退屈だと思っていた田舎町もすぐに過ぎ去る、寂しい気持ちを隠しつつ前を向く。頑丈に塗り固められた殻を破るように。
「さ、帰ろっか!僕らの街に!」
環境は常に変化していくもの、変わりゆく景色の、一つ一つの思い出を刻んでいこう。そうすれば忘れることの無い、振り返れば綺麗な記憶が残る。何度も想い出そう、何度も、何度も。




