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五章 忘れることがないように

 段々と涼しくなり行く外の気温に心地良さを感じながら、僕たちは村田さんのお墓の前に居る。

 「これだけの花があれば村田さんも寂しくないだろう。」

 「うん、そうだね、綺麗だ。」

掌を合わせる。そよ風が僕らの隙間を通る。

 「村田さんが、そんな顔するなってよ。」

 「うん、そんな気がした、あの人らしいや。」

 「ひなた様?ここに村田様が居るのですか?」

 「これはね、みんなが村田さんの事を忘れないように、いつでも思い出せるように、村田さんの歩んできた道ごと、ここに居るんだよ。」

 「そうなんですね……ところで、なぜ手を合わせるのですか?」

 「いくら村田さんでも、一人は寂しいでしょ?だからこうやって話しかけるんだ、ありがとうございましたって。」

 「人と人を繋ぐのは心だと聞いたことがあります。私も沢山感謝を伝えます!」

 「アリスちゃん、着々と日本の文化に染まり出してるね。」

叔父さんはアリスが外国から来た子だと勘違いしている。文化を学ぶという点では間違っていないのだけど……

 「はい!ひなた様が丁寧に教えてくれるおかげで、完璧までとは行かないけどだいぶ理解しましたよ!」

 「おじさんあのね、この子は」

 「分かっているぞ陽太」

叔父さんが僕の口を遮る。

 「今が恋愛で一番楽しい時期だろ?」

叔父さんは僕に耳打ちする。

 「いやだからそんなんじゃ!」

 「大丈夫だ陽太、俺は理解がある男だ。」

 「何を話しているのですか?」

 「いや!なんでもないよアリス!」

叔父さんは妙に口角を上げて微笑む

 「気持ち悪いよおじさん」

 「な、なんだと!?」


 「本当にいいの?おじさん」

 「ああ、好きなだけ食べてくれ、村田さんはな、貰った恩は返すのではなく、他に与えろって言うんだ、だからあの人が俺やお前たちに飯を食わせたように、俺もお前らに飯を食わしてやる。」

 目の前に広げられたご馳走は僕から理性を奪ってくる。

 「ひなた様…ここは天国ですか……?」

 「バ、バイキングなんて初めて来た。」

 「お前らの好きそうなものを取ってきた、奥に色々あるから好きな物を取るといい。」

 「ひ、ひなた様…私たち、いい物を食べ過ぎている気がします……」

 「それは同感だ…でもバイキングは食べなきゃ損!沢山食べよう!アリス!おじさん!」

 「お前は飯のことになると妙にマジになるんだよな、まぁよく食うのはいい事だ。」

 「私も沢山食べます!」


 外の世界が段々と涼しくなっていく中で、僕は行き詰っていた。

 まったく証拠が掴めない…犯人の動機は、?どうやって監視の目を掻い潜って居るんだ、?

 「ひなた様…?」

 「ああ、ごめんアリス、ロボットの映像を見ていたんだ。」

 「いえ…そうではなくて、あの。」

 「なんだい?何かあったのかい?」

 「私のわがままで、犯人に会いたいなんて言ったばかりに、ひなた様に苦労をかけてしまって。」

 「アリス、確かに君に負けて始めた捜査かもしれない、でもね、僕も燃えているんだ、村田さんの事もある、だから尚更ここで諦めたくないんだ。」

 「ひなた様のそういう所、大好きです」

 「ええそれはどういう意味で、!」

 「教えません!買い物行ってきますね!」


 「だああダメだ、全く分からない…」

 どれだけ探ろうとかすりもしない犯人に諦めすら覚える。

 「勉強もしなきゃなー…」

文系のくせに電子工学科を選んだ僕は勉強にも行き詰まっていた。

 「アリス遅いな…」

 気がつけば夜が更けていた、遠くからエンジン音が聞こえる。それを耳にした僕は犬のようにしっぽを振り玄関で待機したかったが、ぐっと我慢した。

 「ひなた様!ただいま帰りました!」

 「おかえりアリス!」

 「お勉強ですか?偉いです!」

 「テストが近いんだけど、全く身についてなくてさ…」

 この試験を落とすと留年がまた近くなってしまう、なんとか高い点数を取りたいのだが。

 「お手伝いしましょうか?私の体のことしか教えられませんが…」

 「本当?是非お願いしたい。」

 「私の事で良ければ喜んで!」

 アリスが一つ一つ丁寧に自分の体の構造を教えてくれた、僕は初めて勉強が楽しいと感じた。その瞬間は何気ない日常だとしても、僕の頭の中に思い出として深く刻まれた。


 「ひなた様!起きてください!」

昨夜までの幸せな気持ちは一瞬にして絶望へと変貌した。

 「頼む、頼む!」

僕は勢いよく病院の扉を開く。

 「おじさん!」

 「馬鹿ヤロー、病院では静かにしろ」

そこには頭と腹部に包帯をぐるぐるに巻き、腕に管を繋いでいる叔父さんの姿があった。

 「何があったのさ、」

 「襲われたんだ、犯人に。」

僕の背中に寒気が走る。

 「昨日の夜の帰りに後ろから腹を刺されたんだ、すぐに反撃に出ようとしたんだが、痛みで上手く動けなくてな、犯人の影を見た所で頭を打っちまって、そこから記憶が無いんだ。すまない。」

 「いいんだよ、おじさん、生きててよかった。」

 「そうだなその通りだ、倒れた時に犯人は俺が死んだと思ったんだろう、気が付いたらここに居たんだ。多分少しでも遅かったら俺は死んでたな。」

 きっと通りかかった通行人が救急車を呼んだのだろう、僕は叔父さんの無事を知り安堵したが、同時に不安な思いがふつふつと湧いてきた。

 「このままじゃ俺は捜査が出来ない、と言うより下半身が動かないんだ、それに…」

 「何?おじさん」

 「陽太、お前はもうこの事件を追うのをやめろ。」

 「え、?どうしてそんなこと言うんだよ…」

 「俺は気が付いたんだ、この事件を追えば次のターゲットにされる。」

 「どうしてさ!被害者は反社の人達なんだろ、?」

 「陽太、社会はな、偉い人やすごい人、そして俺たちが取り締まるべき悪い奴らが居て、色んな人間が居ることによってバランスが取られてるんだ、だから悪い奴ら全員をぶっ殺した所で、いい社会になんてならないんだよ。」

 「そんな事ないさ!悪い奴らはみんな居なくなればいい!そうしたらみんな平和に過ごせる!」

 「陽太、この世界は平等の上に成り立っていない、生まれた環境が違うだけで俺たち警察みたいな人間になるやつもいれば、捕まえるべき犯罪者になるやつだっているんだ。いいか?社会は偏った地面の上に置かれている天秤だ。最初から平等なんでなければ、片方が少なくなれば偏るだけだ。だから俺たち警察が居るんだ、天秤を保つためにな。」

 「そんな…だからってなんでおじさん達が!」

 「それが俺たち刑事の理ってもんだ、だからお前も実家に帰れ、今お前があの家にいて何かあっても俺は助けられない。お前の母親には言ってあるから。」

 「そんなこと勝手に決めるなよ、今更…今更父さんが僕を許すわけないじゃないか!」

僕は病室を飛び出す。

 「ひなた様…!?」

 「アリスちゃん、陽太を頼む、あいつは一丁前に大人なふりをするが、心はまだまだ子供なんだ、手のかかるやつだが、頼む。」

 「…承ります。ひなた様は私が守ります!では行ってきます!」

アリスも病室を飛び出す

 「はぁ…手のかかるやつだ。」

陽太と並んで撮った大学の入学式の写真を手に取り、そっと微笑んだ。


 「ひなた様…?」

 「ああ、アリス、ごめん。」

 「聞かせてくれますか?お父様のこと。」

 「んー。」

僕は重い口を開く。

 「僕はね、父さんからお前は警察になれって言われて育ったんだ。でも僕は夢があってね、自分の手でロボットを作ってみたいんだ。その夢を忘れられなくて、この街の大学に通うために家を出たんだ。その時に父さんの大喧嘩したんだ、謝れないまま一人暮らしを始めちゃったから、喧嘩したままなんだ…」

 「そうだったんですね…話してくれてありがとうございます。」

 プルル…と僕の携帯が鳴く。

 「うわ…父さんだ……」

 「出ますか?」

 「うん…まぁおじさんの事かもしれないし」

 「偉いです」

 アリスはそっと微笑んだ。その顔を見ると不思議と勇気が湧いてくる。

 「もしもし?父さん?」

 「『……いつでも帰ってこい。』」

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