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三章 僕が思うにあの二人、デキてる

 「(分かってくれ美桜くん、僕たちは禁断の恋をしてしまったんだ、決して許されることは無いんだ。)」

 「(そんなこと最初から分かっています!了承した上であなたに恋をしているのです。)」

 窓から差し込む夏至の日差しに心を踊らせながら小説を読む。

 「(僕だって出来るのならば一緒に居たい、だが世間は許してくれないんだ。)」

 「(ならば一緒に逃げませんか、誰も知ることの無いどこか遠くへ。)」

 「うわ…結構すごいなこれ」

 「ひなた様ー幼なじみって何ですカ?」

 アリスは愛を知りたがっていた、アンドロイドに人間臭い感情があるのか分からないが、本棚で眠っていた恋愛小説を渡して読ませていた。

 「幼なじみはね、幼稚園とか保育園とか幼い時から一緒に居る友達の事だよ。」

 「ひなた様は居ますカ?」

 「一人だけいるよ、幼稚園からの付き合いだ。」

 「私も会ってみたいデス!どんな人なのでスカ?」

 「んーどんな人か、一言余計と言うかルールに厳しいやつで、でも繊細なやつかな。」

 「この地域には居ないのデスカ?」

 「そうだね、地元を離れてるわけだし、今度合わせてあげる。」

時期両親にもアリスを見せたいし自慢したい。

 「幼なじみさんに会ったらひなた様の幼い時の話を聞きたいノデス!」

 「あいやそれはいいよ!ただのクソガキだから!」

 「えへへ!でも少し眠くなってきてしまいマシタ」

 「そうだね、僕も少し眠くなってきたよ。」

 「本来私たちは睡眠をすることによって体内の有機物を使って発電をシマス、なので充電目的以外で睡眠を摂ることは無いのデスガ、最近は眠くなってしまうノデス。」

 「バイオマス発電、って言うやつかな。眠くなるのはね、アリスが僕たち人間に近づいたという証拠だよ。」

 「えへへ…嬉しい…デス……」

 かくんとアリスの頭が僕の肩にもたれかかる。可愛い寝顔を見ていると僕まで眠くなってしまうよ、起きたら何を教えてあげようかな。

そんなことを考えているうちに、気づけば僕らはもたれ合いながら深い眠りに落ちた。


 プルル……

村田さんからの着信で目を覚ました僕はすぐに切ってもう一度寝ようと考えていた。

 「『ひなたクン?切ってはならないよ?僕からディナーのお誘いだ。』」

 「『なんですか…最近内職を増やしすぎて疲れているんですよ。』」

 「『そんなこと言ったら僕の方が疲れてるよ!?昨夜だってずっと証拠探してたんだから!』」

 「『あーそれは、すみません』」

 「『だからさ?ほら、お肉でも食べに行こうよ!そうじ…叔父さんもストレス溜まってるっぽいしさ!特別に、アリスちゃんも連れてきな!』」

 プツン……ツーツー……

村田さんは僕の返事を聞くこと無く電話を切ってしまった。すると横で寝ていたアリスも目を覚ました。

 「アリス、村田さん達とご飯に行くけど、君も来るかい?」

 「はい!行きマス!」


 数々のビルから放たれている光のおかげで、辺りは隣の人の顔がはっきり見える程に明るい。

僕はアリスの横顔に見とれていた。

 「あの、ひなた様…そんなに見られると緊張しちゃいマス……」

 「えっ、気づいていたの?!ごめんごめん」

 「いえ謝らないでくだサイ!恥ずかしいってだけデス……」

 みるみるうちにアリスの顔が夕日色に染まる、サラサラとなびく髪の隙間から見える彼女の赤面に心を奪われたまま、僕は前へ前へと歩いた。

 「あ、居た居た、ひなたくん!こっちこっち!このビルの十五階だ」

 エレベーターで一気に駆け上り、迫力あるお店の雰囲気に僕は一歩引く

 「あ、予約していた村田です。」

 「お待ちしておりました、こちらへどうぞ。」

 高級焼肉店、その単語を聞くだけで緊張してしまう。だがメニュー表を見た僕はさらに身構えてしまう。

 「好きな物を食べな!この前のお礼だよ」

 「あざーす!村田さんの部下でよかったっす!」

 「そうじくん、君は少しくらいは出してくれないか?」

 「でも、本当にいいんですか?」

 「ああ!これからもよろしく頼むよ!」

なるほど、僕を協力させるために契約金を払ったって訳か。

 「とりあえず乾杯しましょう」

 「カンパイ…?何に負けるのデスカ?」

 「アリス、乾杯と言うのは日本の習慣でね、合図でみんなのコップを持ち上げたり、みんなでコップを当てたりするんだよ。」

 「じゃあ僕の合図でいいかな?」

僕らはコップを手に取った。

 「じゃあ事件解決を祈って、乾杯!」

 アリスは不安な顔から笑顔に変わった、すると店員さんが豪勢なお肉を両腕に抱えて持ってきた。

 「さあ!沢山食べてね!」

 僕は罪悪感と共に上手に焼かれたお肉を口の中に頬張る、するとさっきまで感じていた不安や心苦しい気持ちが嘘みたいに晴れ渡った。

 「美味しすぎる……」

 「ひなた様!こんな美味しいお肉食べた事がありまセン!」

 「そうだろ!僕は祝い事やストレスが溜まるとなにかとこの店に来ているんだ」

 「ぜいたく病になりますよ村田さん」

 「そうじくん、君たまに刺してくるよね」

 僕らは幸福を一つ一つ味わいながら食べた、お腹が満たされた時、同時に心も満たされていた。

すごいな、焼肉って。

 「いやー美味しかった!遅くなっちゃったね、僕が送って行こうか?」

 「いえ、少し歩いたところなので大丈夫です!」

 「よし、じゃあ気をつけて帰れよ、いつ襲われるか分からないからな」

 「ありがとうおじさん!じゃあ行こうかアリス」

 「はい!」

 僕とアリス、叔父さんと村田さんは反対方向に歩き出した。

 「そうじくん、僕が思うにあの二人、デキてる」

 「いやー陽太は奥手ですからねーもし本当にデキてるなら、色々と協力はしてやるつもりです。」

 

 あの二人、アリスがアンドロイドってことに気づいてるのかな。

 「おはようございますひなた様……ふわぁ……」

アリスが眠たそうに目をこする。

 「おはようアリス、何だか早くに目が覚めてしまってね、朝ごはん作っておいたよ」

 「やったー!ひなた様の料理は格別デス!」

 「アリスの料理に比べたら大したものじゃないよ」

 アリスは目を輝かせながら焼き魚を食べる、僕はそれを見て癒される。

ああなんて幸せな朝なんだ。

 「アリス、今日は漫画を読んでみようか」

 「マンガ…?それはなんでスカ?」

 「見ればわかるよラブコメしかないけどね。」

アリスは夢中になって漫画を読んだ、その間僕は内職を進める、横を見ると若干前のめりになっている美少女が居る、仕事が捗って仕方がない。

 

 「大変でスひなた様!ケチャップがありまセン!」

 太陽がすっかり姿を消し、月や星が顔をのぞかせていた時刻、内職をしていた僕の耳にアリスの声が響く。

 「なら一緒に買いに行くかい?」

 「いえ!私のジェットパックでひとっ飛びですので、すぐ買ってキマス!」

 「そうかい?なら任せようかな」

 「私の背中に乗ってくれるのなら話は別デス」

 「玄関燃やさないようにねー」

僕は高所恐怖症なのだ、いくらアリスの背中でも怖いものは怖いのだ。

 夜に一人、孤独を感じる。チクタクと時間を刻むあいつは僕の独り身を嘲笑うかのように一秒一秒数える。どうせなら二人でいるときにチクタク言ってくれよ。

 「はぁ、寂しいな」

 キッチンから聞こえる火の音が僕の孤独をさらに燃やす。

ん?火?

ドドドドド、遠くからエンジンの音が聞こえた。僕の鼓動が大きくなるのを感じた。

 「ひなた様ー!ただいま帰りまシタ!」

 「おかえりアリス」

 「ええちょ、!ひなた様!?」

 僕は無意識のうちにアリスを抱きしめていた。暖かい、そして柔らかい、本物の女の子みたいだ。

 「あ、ごめんごめん」

 「そんなに寂しかったのデスカ?」

アリスの顔がニヤリと微笑む、僕が目を逸らすとすかさず顔を覗いてくる。

 「ふーん?へへ!嬉しいデス!私も早くひなた様に会いたかったノデ!」

 「アリス、もしかしたら僕は君に…」

 「あああああ!!コンロの火!!」

 「へ?」

急なアリスの大声に僕は少し怯む

 「よかったー、弱火だった…危うくひなた様ごと燃やしちゃうところデシタ……」

 「まったく、次から気をつけてね?気づけなかった僕も僕だけど…」

アリスは、僕のことをどう思ってくれているのだろう。知りたいようであまり考えたくは無い。

 「あ、ひなた様さっき何か言いかけまシタ?」

 「ああいやいいんだ、なんでもないよ」

 僕の返事を聞いてアリスは深堀することなくキッチンの方へ向かって行った。仕事の続きを初めて数十分、美味しそうな匂いが僕の鼻腔を刺激した。

 「ずっと火にかけていたから、スープが冷めずに済みまシタ!今日はひなた様の好きなオムライスでスヨ!」

 「ありがとうアリス、初めて教えた時より何倍も美味しくなってるよ」

 「えっへん!私は成長するアンドロイドですノデ!」


 次の日の早朝、僕は耳を疑った。

それは叔父さんからの一本の電話だった

 「『村田さんが殺された。』」

その一言を聞いた途端寒気が僕の背骨を掛けた。早急に叔父の元へと急いだ、だが時は既に遅かった、遅すぎた。

 「死亡時刻は恐らく夜中、か」

 「おじさん!」

 「陽太か、今から葬式だ、アリスちゃんを連れて着替えて来い」

 そこには喪服に身を包んだ叔父さんや東雲さん、たくさんの人たちが言葉を交わさず佇んでいた。

 控え室には僕とアリスのために用意された喪服が机の上に置いてあった。

 「あの、ひなた様」

 「あ、ごめんアリス着方を教えていなかったね」

 「いえ、そうではなくて、大丈夫ですカ?」

 「そういう事かありがとう、僕は大丈夫だよ、君は優しい子だ。」

 「え、気づいてないのですカ?」

 「え?」

視界が滲んだ、その時僕は初めて自分が泣いていることに気がついた。

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