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猫が猫になった日

作者: のののの

 師走の頃。

 一匹の子猫を近所で見かけるようになった。

 子猫と言っても今春に産まれたであろう中くらいの大きさの黒猫。

 とても人懐こい黒猫。

 根城にしている公園を訪れる人に次から次へ愛想良く甘えてくる。

 珍しく一匹でいるところへ出くわした。

 こちらに気付くと真っ直ぐやってきて、足元に擦り寄ってくる。

 はじめて間近でみれば、黒毛は光沢無く薄い。

 あまり食べれてないのかな。

 年の瀬に向けてぐっと寒さは増し、公園に人は減っていくだろう。

「うちに来るか」

 猫は、にゃあと鳴いた。

「そうか。来るか」

 猫は容易く腕に抱かれた。

「無防備過ぎやしないか。ここらに悪いのがいなくて良かったなあ、ねこ」

 黒猫はふわふわの毛の見た目に騙されてしまっていたが、想像以上に軽い。

 骨が指にゴツゴツ触れる痩せた黒猫は、用意した猫用フードをガツガツ一気に平らげてしまった。

 そしてもともと飼われていたことがあったのか、心配をよそに黒猫は家猫暮らしに順応してくれた。

 数日経ち。十日経ち。

 はてと疑問がちらほら。

 一つ目は、ごはん前の執拗な儀式。

黒猫は甘えた声を出し頭をスリスリしてごはんの催促をする。これは可愛い。ただ、ごはんを出しても、何故か暫く続く。「お食べよ」と促しても聞く耳持たずである。

 二つ目は狩猟本能無し。

 猫は一歳に満たない子猫と思いきや老猫だったかと考えをあらためなければと思うほど、紐やボールといった猫が好みそうなオモチャに興味がない。全く遊ばないどころか、誘って動かした紐が頭上をかすめると怖がってしまう始末である。

 三つ目は高所不侵入。

 猫はダイニングテーブルの椅子が定位置。テーブルや棚、窓辺、冷蔵庫上などへは見向きもしない。猫自慢のジャンプ力を使って行く先は50センチ先の椅子の上が限界らしい。

 かつて生活を共にした猫たちに比べると、これら違和感をいだきながら、変わった猫だなくらいの思いで、膝の上が大好きなよく話す猫との毎日が愛しく過ぎていく。

 そして梅雨かあけ、蝉が夏の始まりを告げた日。

 ふと気付く。

 猫はにゃあにゃあとごはんを欲しがり、器に出すそばから食べはじめる。

 猫は肉球でちょいちょいとお気に入りのボールを転がして、家具の下に消えてしまうまで追いかけ走り回る。

 そして、今日も猫は冷蔵庫の上から私を見下ろしている。

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