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南の蛮族料理人少女【カリュード】が戦斧を振り下ろして調理する  作者: 楠本恵士
第三章・表学園長の誕生日料理はとってもデンジャラス
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第八話・食材は『転生者の魂?

「さぁ、この調子でドンドン食材を集めていこう♪ にゃは♪」

 浜から移動をはじめるカリュードたち、一瞬立ち止まった炎樹が振り返り、何か気になっているような素振りを見せた。

「炎樹、どうしたんだワン」

「なんでもない、気のせいだったか?」

 カリュードたちが浜から姿を消す──この時、離れた茂みの中から、様子をうかがっていた複数の複眼があった。

 茂みの中に潜んでいた赤、青、黄のトンパ・トンパが会話をする。


「ギギィギィギ〔見ました? 奥さま、人間の皮を被っていますけれどアレ同胞のトンパ・トンパですわ……フェロモンでわかりますわ〕」

「ギギィギィギーッ〔ええっ、それも変異体のオスですわね……なんて魅力的なオス〕」


「ギギィギィ……ギィ〔捕獲してクィーントンパ・トンパさまに、差し出せば女王さまは、お喜びですわ〕」

「ギィーッギィギィ〔機会を待って、オスを捕獲しましょうトンパ・トンパ〕」

「ギィギィ〔トンパ・トンパ〕」


 カリュードたちは、順調に食材を集めていった。

 暑さで少し溶けている、板チョコに線と球体の手足が生えている、動き回るマンガのような食材をゲットして、虫カゴに入れたカリュードが言った。

「そろそろ、バースデーケーキの食材を提供してくれる人に会いに行かないと……にゃは」


 カリュードたちがエルフオーナーから指定された場所に行ってみると、南国風の家の中から編みカゴを脇に抱え、腰にパレオを巻いた十七歳くらいの、後ろ髪を横で束ねた少女が出てきた。


 少女はすぐに巨大な戦斧を担いで、七色に輝く皮鎧を着たカリュードに気づく。

 軽く頭を下げて、少女が言った。

「野蛮料理人のカリュードさんですか? エルフさんから来るコトは聞いています」

「にゃは♪ 野蛮料理人じゃなくて、蛮族料理人あなたは?」

「呪術師です──この間、師匠から晴れて十三代目を名乗るコトを許されました。ケーキの材料でしたね、どうぞこちらへ」

 呪術師少女に案内されて、家に入るカリュードたち。

 壁に南方特有のお面が飾れた部屋で、呪術師少女は壺を持って来た。

「これが、バースデーケーキの材料です」

 壺の中に棒を突っ込んで、黒っぽい灰色をした水飴のようなモノをたぐり持ち上げる。

 持ち上げられた水飴状のモノには、泣き出しそうな簡単な顔が数個あった。『ヽ状の目』に『ヘ字型の口』がある顔たちが。

「がぁあああああ……」と、呻いていた。

 呪術師少女の説明。

「あたしは、アチの世界の戦時中に避難した防空壕(ぼうくうごう)の奥にあったコチの世界に繋がる通路を通って、やって来て定住しました……この壺の中に入っているのは〝強制転生者〟の魂の残骸です」

「強制転生者?」

「安易に『異世界に転生してぇ』と思っていた現実逃避のク●たちを、呪術の力で呪殺して転生させた者たちの末路(まつろ)です」


 少女の話しだと、呪術の強制転生は、惨たらしく苦しむ死に方をして転生してくるらしい。

 そして、壺の中の転生仲間と融合していく。

「呪術で転生させたんだから、地獄行きにならなかっただけでも感謝してもらいたいですね……転生したのは、生物でなくて食材ですけれど」

「転生者に対する、凄まじい悪意を感じるな……転生者との間に何かあったのかにゃは?」

「実は、別れた元カレが最低の浮気転生者でして……つい、思い出してしまって、失礼しました」


 すべての食材が調達できたカリュードたちは、アチの世界の毒森創作レストランに戻った。

 後日──裏鳴学園長を招いたバースディーパーティーが行われた。


 挙動不審でオドオドしている裏鳴学園長の前に、料理が運ばれてくる。

「前菜の〝誕生日を忘れないで草〟のサラダです……花たちが歌って誕生日を祝ってくれます」

 マンガのニコニコ顔のような花のサラダが、ラップ口調で歌う。


「〝七種のデンジャラス食材スープ〟です、具財はスープの湖中に隠れていて見えませんが……時おり浮上して姿を現します」

 濃厚なクリームスープの中から、ミニチュアサイズの首長竜が頭を持ち上げたり、エビのハサミや、ミニチュアクラーケンの触手が浮かんでは沈む。


「メインデッシュの〝電撃(エレキ)ナマズのソテー〟です……調理されても、ピリピリと放電しています」


「東方地域からの渡り鳥〝イツマデン鳥の南国風姿煮込み〟です……死者の近くを飛び回って『イツマデン! イツマデン!』と鳴いています」


 デンジャラスな料理の数々に、吐きそうになりながらも裏鳴学園長は涙目で、料理を口の中に押し込み咀嚼(そしゃく)する。


 最後に、不気味なバースデーケーキがホールサイズごと出てきた。

 黒っぽい灰色をしているケーキの表面では、転生者の魂の残骸が浮かび上がって呻いていた。

 裏鳴学園長が、これはムリという素振りを見せると、コック姿で戦斧を持ったカリュードが微笑みながら言った。

「にゃは♪ 苦労して集めた食材だ、ムリヤリにでも全部喰わせろ!」


 毒森学園長が、裏鳴の口をこじ開けて呻くケーキを押し込む。

「ぐぇぇぇっ」

「があぁぁ……殺してくれぇ……異世界転生なんてするんじゃなかった……苦しい……ぁぁぁぁ」


 裏鳴の口に、呪われたケーキを押し込みながら毒森学園長が言った。

「君が異世界転生を夢見て、笑いながら電車に飛び込んでから……君の母親は、君の遺影を拝むたびに涙していたぞ……この親泣かせが」


 裏鳴がホールごとケーキを食べきって、誕生日パーティーが終了するとカリュードが裏鳴に訊ねる。

「にゃは、いかがでしたか? 南方地域の料理は」


 その時──店の物陰に潜んでいた、赤、青、黄の三匹のトンパ・トンパが急に現れて、ウェイトレス姿の牙美を、あっという間に壁に飾られている、エルフオーナーの絵に連れ去った。


 あまりの早業に、茫然とするカリュードたち。

 最初に口を開いたのは風紋だった。

「大変だ! 牙美がトンパ・トンパに連れ去られた!」

「みんな、トンパ・トンパを追って牙美を取りもどすよ!」

 それぞれの本来の姿にもどったカリュードたちは、エルフオーナーの絵に飛び込み消えた。


 百目族の姿にもどった毒森学園長が、怯えている裏鳴学園長に百目を怪しく光らせながら言った。

「誕生日ケーキを楽しく食べ終わった後の出来事は、忘れなさい……君は何も見なかった。美味しい料理を食べて祝ってもらっただけだ……いいね」


  ◆◆◆◆◆◆


 数日後──現世界の【毒森メニューがない無愛想な創作料理店】店内で雑談をしているカリュードたちの姿があった。

 カリュードこと、雁 竜子が言った。

「クィーントンパ・トンパも、中央地域のゴルゴンゾーラ城であれだけのダメージを受けたら、しばらくは大人しくしているね」


 ウェイトレス姿の霧崎牙美が、テーブルを拭きながら言った。

「まさか、異世界であんな目に合うなんて……もう、こりごりだ危うくクィーントンパ・トンパの体内に取り込まれるところだった……考えただけでゾッとする」


 手の中の炎で遊びながら炎樹が言った。

「あたしらのチーフは、南方地域の守護者だからね……食材だけ集めていれば、いいってもんでもないからね」


 水芸をしながら、人間形態の水犬が言った。

「南方地域の食を、南の厄災から守るのもボクたちの仕事の一つ」 


 手の中で小さな竜巻を作り出して、風紋が言った。

「食魔獣トンパ・トンパとの戦いは、この先も続きそうですね」


表学園長の誕生日料理はとってもデンジャラス~おわり~

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