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南の蛮族料理人少女【カリュード】が戦斧を振り下ろして調理する  作者: 楠本恵士
第三章・表学園長の誕生日料理はとってもデンジャラス
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第六話・表学園長の誕生日料理

 異界大陸国レザリムスの南方地域にある、活火山島おかんの顔が岩肌に彫られた『オッ火山』が珍しく、少し大きな噴火をして赤い火山灰が南方地域に積った日──。


【CLOSED〔準備中〕】のプレートが入り口に下げられた。

 アチの世界〔現世界〕にある『毒森メニューがない無愛想な創作料理店』の店内で、カリュードたち料理人メンバーが会話をしていた。


 学校の制服姿で、店の椅子に座り説教を受けている小柄な女子高校生は、ポリポリと頬を掻きながら鼻に貼られた絆創膏を剥がそうとした。


 それを見て、少しキツい口調でたしなめる、美形ファースト料理人の『風紋』

「人が話している時に、顔の絆創膏を剥がして遊ばない!」

 小柄な女子高校生姿をした、チーフ蛮族料理人『カリュード』こと『雁 竜子(かり りゅうこ)』は、ふて腐れた表情で近くに置いてある身長と同じくらい大きい、愛用の戦斧を抱えた。


 今は人間の姿に化けている、ハーフデーモンの風紋は一枚の採点されたテスト用紙を、カリュードの前に置いた。

「なんですか……この点数は、もう少し勉強も頑張らないと。また、追試ですか」

「だって、三日三晩コチの世界〔異界大陸国レザリムス・南方地域〕で、食材の獲物を追いかけ回していたんだもん……試験の前日まで」

 そう言って、カリュードは部屋の隅に転がされている両目がバッテン印になった、カブトムシとイノシシが合体したような生物を指差す。


「いやぁ、イノカブトンはなかなか逃げ足が早くて、その上に背中の黒光りするムシの表皮が、固くて固くて……にゃは」

「どうせ、楽しみながら野山を追いかけ回していたんでしょう──今度、異世界で食材を狩る時は勉強道具を持参して、試験勉強をしながら狩りをしてください」

「え──っ、そんなの面倒だよ」

「面倒じゃない! やればできる!」


 カリュードをたしなめている風紋を、セカンド料理人で赤毛の女子高校生『炎樹(えんじゅ)』と、サード料理人の男子高校生『水犬(すいけん)』は、少し離れたテーブルの椅子に座って眺めていた。


 炎樹と水犬の近くのテーブルでは、等身のキノコに手足が生えたウエイターと、バイトウェイトレス姿の女子高校生……『霧崎 牙美(きりさき がみ)』が、レストランナプキンを補充していた。


 カリュードへの説教が終わった風紋は、少し諦め気味のタメ息を漏らす。

「まったく、わたしだって毎回、こんな説教をしたくはないんですよ……でも、この成績は酷すぎます……次の試験はせめて、平均点に到達してください」

 適当な返答をするカリュード。

「はい、はい」

「はい、は一回でいい!」


 風紋が頭から左右非対称の角を出して怒っていると、カギをかけてあるはずの入り口のドアからカチッと音がして、ドアを開けて就活スーツ姿の若い男が南方地域のケチャ歌を鼻歌で歌いながら入ってきて言った。

「腹減った、何か喰わしてくれ」


 いきなり、入店してきた男に向かって水犬が、困り顔で言った。

「 CLOSED〔準備中〕のプレートを下げた店のカギを勝手に開けて、入ってこないでください」

「歩いていたら、腹が減ったからしかたがないだろう」


 男の人差し指が、ヒルのようにニュゥゥと伸びて、先端がカギ状に変化する。

 男の名前は、南方地域『ナマアゲハ王』の息子『コアゲハ』──南方地域に居る時は、タトゥーを彫った上半身裸体で黒い革のライダーパンツとブーツを履いている。


 就活スーツ姿のコアゲハを見て、炎樹が言った。

「アチの世界〔現世界〕では、上半身裸じゃないんだな……こっちの世界で就職活動か?」

「これは、現世界で購入した古着だ──上半身裸で遊び回っていたら、不審者扱いされて通報されるからな……それより、腹減った何か喰わせろ」

 コアゲハの口が、ヒルの口に変わってニュゥゥと伸びる。

 コアゲハは、全身で食事をする。


 料理人たちが困っていると、壁に飾られている戦闘迷彩服を着て、アサルトライフルを持った尖耳女性エルフの全身肖像画から。

 絵と同じ格好をしたエルフオーナーが出てきた。

 店のエルフオーナーに続いて、絵の中から現れたのは、全身に目がある二足歩行のブヨブヨとした化け物だった。

 妖怪百目のような容姿の化け物が、少し体格がいい男性の姿に変わる。

 体格がいい男性──カリュードが通う学園の裏学園長『毒森』がコアゲハを見て言った。


「おや? 久しぶりだねアチの世界には、なんの用事で?」

「単なる遊びで来た……腹ペコだ。何か喰わせろ……この際、繊細さに欠けた蛮族料理でも構わない」


 コアゲハの言葉を聞いて、巨大な戦斧を手に椅子から立ち上がるカリュード。

「言ってくれるじゃない、肉はレアに炙って塩コショウのシンプルな味つけが、蛮族料理の基本だよ」

 戦斧を振り上げたカリュードを、なだめる迷彩服のエルフオーナー。

「まぁまぁ、ここは怒りを抑えて。そうそう、向こうの世界〔異世界〕で、偶然にここに居る毒森裏学園長に会って……誕生日パーティーの料理依頼を受けたの……誕生日パーティーの会場は、この店を貸し切りにしてやるから」

 風紋がエルフオーナーに訊ねる。

「誰の誕生日ですか?」

「表学園長の誕生日」


 リュード、炎樹、水犬が通う学園には二人の学園長が存在する。

 一人は、実際に学園を運営している異世界の百目種族『毒森一族』の、表には出てこない裏学園長。

 もう一人は、毒森学園長が任命して生徒の前に姿を見せている、人間の表学園長の『裏鳴(うらなり)』だ。


 毒森学園長が言った。

「我々、毒森一族はさまざまなアチの世界〔多元現世界〕で、異界大陸国レザリムスからアチの世界に来ている者をサポートしているからね。別のアチの世界では人間に化けた、わたしの親戚が赤いガイコツ娘がバイトをしているコンビニの店長をしている」


 炎樹がエルフオーナーに質問する。

「貧乏神みたいな貧相な人相をした、 裏鳴学園長の誕生日っていつだ?」

「貧乏神ってのは酷い言われ様ね……まぁ、確かにあの容姿は貧乏神だけれど」

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