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南の蛮族料理人少女【カリュード】が戦斧を振り下ろして調理する  作者: 楠本恵士
第一章・毒森メニューがない無愛想な創作料理店
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第一話・毒森メニューがない無愛想な創作料理店ではキノコが店員

 アチの世界の、とある郊外の創作料理店の夕食時刻。

 仕事が終わった女性社員と女性社員の男性上司がやって来た。

 男性上司は、黒板にチョークで書かれた店名を眺める。

「『毒森メニューがない無愛想な創作料理店』ずいぶんと独創的な店名だな?」

 おしゃれな外装の店で、壁には(つた)が張りついていて、それもまた外装の一部になって外から見る店の雰囲気を作っている。


 女性社員が言った。

「散歩中に偶然発見した、隠れ家的なお店なんですよ……ちょっと変わった、お店ですけれど」

 二人は『OPEN』の吊りプレートが下がっている店の中に入った。

 内装は、よくある西洋料理店の内装と同じ作りだった。

 ただ、二つばかり他の西洋料理店と異なっていたのは、迷彩服を着てライフル銃を持ったエルフの等身肖像画が飾られていたコトと、見たこともない生き物の乾物が壁に吊り下げられていたコトだった。


 ドア鈴の音で、奥から出てきた従業員を見た、男性上司は仰天して言葉を失う。

「なっ!?」

 現れたのは腰に黒いエプロンを巻いた、細い手足が生えた等身のキノコだった。

 エジプトのメジェド神のような目をした等身キノコ人間の笠には、ミニチュアサイズのキノコ人間が二つ生えている。


 女性会社員が慣れた感じで、キノコ人間に言った。

「予約してないんですけれど……二人分の席ありますか?」

 一礼をしたキノコ人間が、二人を席に案内する。

 水とメニューを運んできたキノコ人間はそのまま、いなくなった。

 係長が不満そうな顔で言った。 

「なんだ、無愛想な店員だな……注文も聞きにこないのか」

「係長、注文はメニューからですよ」

 メニューを開いた係長が、怪訝な表情をする。

 メニューには何も書いて無かった。

「なんだ、この白紙のメニュー……あ、あれ?」

 白紙のメニューに文字のような、絵のようなモノが浮かび上がってきた──見たこともない文字だった。

「注文は端末からか……こんな文字見たこともないぞ? なんて書いてあるんだ」

「あっ、あたし読めますから……先に注文しますね、係長が食べたいモノ言ってもらえれば。あたしが注文します……ディナー料理でいいですか?」 

「君に任せる同じものでいい、ただし魚料理はシャケ以外は、わたしは食べられない」

「わかりました、前菜とスープはこれと、これで……メインの肉料理はこれで……係長、鳥みたいなサーモンのムニエルは食べれますか?」

「なんだ、鳥みたいなサーモンってのは? シャケなら大丈夫だ」

「それなら、注文に入れてと送信……はい、注文完了」


 しばらくすると、キノコ人間が料理を運んできてテーブルに置いた。

 係長は、スープに浮かんでいたモノを見て仰天する。

 スープの中には、ミニュアのキノコ人間が浮かんでいた。

 料理を運んできた等身キノコ人間の頭を見ると、さっきまで生えていたミニチュアキノコがなくなっていた。 

「き、君……スープの中に!?」

 係長が、スープ皿の中に浮かんだキノコ人間を指差して質問する前に、等身のキノコ人間は姿を消していた。

 女性社員が、キノコ人間のスープをスプーンですくって味わいながら言った。

「係長は、キノコ苦手でしたか?」

「いや、嫌いではないが……これは、ちょっと」


 その後も、メインデッシュの肉料理などが続き、食後の飲み物を飲み終わった頃に。

 腰にエプロンを巻いた、若い男性美形料理人が厨房から出てきて一礼して訊ねた。

「料理は、いかがでしたか?」

「今まで食べたコトが無い、不思議な味の料理ばかりだったが満足した。君がこの店のシェフか?」

「いいえ、わたしはファースト料理人です。チーフの料理人は食材調達に行っていまして……その間は、この店の厨房を任せられています」

「そうか、面白い店だな。気に入ったよ、また機会があったら寄らせてもらうよ」

「お待ちしております」


「ひとつ聞きたいのだが、フルコースで出てきたロースト肉はなんの肉かね? 磯の香りがしたが……鳥肉ではなさそうだが?」

「お気づきになられましたか、あれは『海モグラ』の肉です」

「海モグラ? なぜか不思議と妙に懐かしい感じがした?」


 その時──厨房の方から赤い髪の高校生くらいの料理人姿の少女が、大声で怒鳴りながら現れた。

「おいっ! ファースト料理人の『 風紋(ふうもん)』アチの世界のコショウのストックは厨房のどこに置いてあるんだ! コショウがないと、アチの世界で炎を操った美味い炎料理はできないぞ!」

 怒り気味に厨房から現れた少女の腰に厨房からしがみついて出てきた、同じく腰にエプロンを巻いた料理人姿の男子生徒が泣き出しそうな声で現れた。

「ダメですよぅ、『炎樹(えんじゅ)』さん、まだお客さんがくつろいでいるじゃないですか! いらっしゃいませ……ごゆっくりどうぞ」

「あ、本当だ客が残っていた……おい、『 水犬(すいけん)』いつまで、腰にしがみついているんだ! 離れろ」

 セカンド料理人の炎樹から、コショウの場所を聞かれたファースト料理人の風紋が、落ち着いた口調で答える。

「右上の棚に移動しました、伝え忘れていて悪かったです」


 小一時間後── 営業終了を示す『CLOSED』の吊りプレートがドアに下げられた。

 毒森メニューがない無愛想な創作料理店の店内で、コック帽子と料理人エプロンを外して座席に座ってくつろいでいる。

 ファースト料理人・風紋

 セカンド料理人・炎樹

 サード料理人・水犬の姿があった。

 炎樹が言った。

「今日もお客は少なかったな」

 店内を掃除しているキノコ人間を眺める炎樹が、大アクビをしていると──店に飾れている迷彩服エルフの絵から、抜け出るように。

 描かれたエルフと同じ姿の迷彩服エルフがアサルトライフル銃を持って現れた。

 風紋が言った。

「お帰りなさい、オーナー」

 尖耳のエルフオーナーが、鳥と獣をかけ合わせたような奇妙な生き物数匹の足を束ねたモノを差し出して言った。

「これ、今回の狩りの収穫……いつもみたいに壁に吊るして乾燥させて」

 水犬が受け取り、壁に吊るした。

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