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最強の冒険者銀狼との出会い

 銀色の髪、鋭く敵を睨む蒼い瞳。左手には髪色と同じ銀に閃く一振りの剣が握られている。しかしどういうわけか、山賊の手首を切り落としたであろうはずなのに血が一滴もついていない。その事実が、彼の技量の高さを伺わせる。

「……!」

 そして特筆すべきはその圧倒的な魔力量。全身から立ち上るほどの膨大な魔力。全く底が見えない。これほどまでのものは今まで見たことがない。……多分師匠ですら足元にも及ばないのでは……。

「動けるか」

 こちらに目を向けることなく声だけでそう問うてくる。

「ぁ……え、えと……」

 言葉に詰まりつつも、なんとか頭を回し、手が縛られていることを説明しようと……そこで気づいた。手枷が外れていたのだ。

「そいつはさっき斬った」

 き、斬った……? 全く見えなかったし、そもそもこの人の接近すら気づかなかった。動揺していたとはいえ、魔力を感知させなかったこの人の実力はとてつもないものだとそれだけでも十分以上に察せる。

「女を連れてさっさと逃げろ。残念だが男はもう助からん」

「……っ」

 言われることでその現実を受け止めざるを得なかった。しかしここは戦場。悲しみに暮れているほどの余裕はない。

 それにきっとこの人に任せて問題ない。わたしは言われた通りフィーネちゃんに近づき、地に伏している体を抱える。

「そう簡単にいくと思ってるのか?」

 しかし、まだ山賊の仲間がいたようで、出口の前に立ちはだかる。

「はっはぁー! お前らはここで死――」

 言い切る前に、飛来した剣が山賊の頭蓋に突き刺さり、勢いやまず岩壁に突き刺さる。

 よく見るとその剣はさっきあの人が持っていたもので。つまり、今あの人は……。

 バッと振り返り見れば、やはり武器を握っていない。そして、それを勝機と見たのか山賊たちは一斉に彼に襲い掛かる。

「あぶな……」

 そう叫ぼうとした瞬間、


 ――鮮血が咲き乱れる。


「へ……?」

 何が起きたのか一瞬分からなかった。

おおよそ十人程の山賊に囲まれ、絶対的な数的不利。その上武器を持っていない手ぶらの状態。普通なら間違いなく死ぬ状況。

しかし、あの剣士は冷静に対処した。

最初の一太刀を一瞥もくれずに振り初めから受け止め、そのままその剣を奪い取る。そして、あとは刹那の一瞬だった。

剣の描く銀色の軌跡が、山賊達の首を正確に、最低限の動作で切り捨てていく。遅れて咲く鮮血の花々。それはただの血飛沫だというのに、ものすごく綺麗で美しいものだと錯覚した。それほどまでに、彼の剣技は完成されていた。

「……! 後ろ!」

 しかし、山賊の長はしぶとく、手首を切り落とされて尚あの剣士の隙を窺っていた。そして虚をつき再び振り下ろされる凶刃。

 直後――バキンッ、と何かが折れた音がこの部屋に響き渡る。その音の正体は――、

「な、なな、なんで……!」

 その音の正体は、山賊の持っていた一振りの剣。折れた刀身を見て、山賊は動揺を隠しきれずにいた。

「その程度じゃ、俺は斬れん」

 腰が抜け震えている山賊の長に一歩一歩近づき、髪を引っ張るように頭を引き上げる。

「お前、この男を知っているか」

 腰のポーチから紙を取り出し突きつけている。何の話か、その内容までは聞き取れない。けど、こんなタイミングで問いただすということはよほど重要なことなのだろう。

「――――」

 あの剣士の背が壁になってその問答はよく見えない。しかし、

「……そうか」

 と、その声だけ聞こえ――、


 ――一閃――。


 最期の一太刀を受けた山賊は、切断面から血飛沫を上げながら力なくその場に倒れた。





「……」

「……」

 気まずい……。お互いに会話のないまま、山を下っているわけだけど、どうしたものか。

「あっ、あの……」

「なんだ」

 ……。怖い。

「えっと、その。助けていただき、ありがとうございます」

「……いや、全員助けられたわけじゃない。だから、礼は言うな」

 ロウくんが犠牲になった。この事実を知れば間違いなくティナちゃんは悲しむ。

フィーネちゃんも心に深い傷を負った。多分、一生残るほどの大きな傷を。それでも、最悪は免れた。死んだわけじゃない。だから、感謝の言葉は言っておきたい。

けどきっと、この人はそれを受け取らないような気がする。現に今受け取らなかったし。だから、この言葉は後にとっておく。

「……はい」

それからしばらく会話のないまま下山し、銀髪の剣士さんが泊まっているという馬宿に行った。そこから冒険者ギルドに連絡してもらい、フィーネちゃんの保護、ロウくんの遺体の処置をお願いした。

諸々の手続きを終えた後――。

 陽が落ちかけている時間帯。あの剣士さんが馬舎に向かう姿が見えたので、たたたっと足早に後を追い声をかけた。

「あ、あの」

「どうした」

「もしかして、もう出るんですか……?」

 馬舎に向かうということは、そこで休ませている馬を引き取りに行くということ。そして、それは旅立ちを意味する。

「ああ。もう用は済んだからな」

 用……山賊に問いただしていたことだろうか……?

「……そういえば、お前は」

 ――む。

「あの」

「ん?」

「アイリスです。お前、じゃなくてアイリスって呼んでください」

 わたしらしくもなく、自然とそんな言葉を口にしていた。

 どうしてか自分でもわからない。心境の変化でもあったのだろうか。

「そうか。すまん。ならアイリス、お前が旅をする理由はなんだ」

 お前呼び変わってないし……まあいいや。

「……はあ。えっと、旅の理由、ですか」

「ああ。旅の理由だ」

 これまで深くは考えてこなかった。きっかけはある。でも、それが理由かと聞かれると何だか違うような気もする。

 しかし、今のわたしに答えられるものは結局のところこれしかない。

「師匠に言われたんです。世界を見てこいって。この世界はわたしが思ってるよりずっと広くて、たくさんの物に溢れてるからって」

「……そうか」

「そうです」

 なら、と剣士さんは言葉を継ぐ。

「俺について来い。世界はたしかに広く、たくさんの物に溢れている。だが、それがいいものだけとは限らない。現にお前の仲間があんな目にあった。冒険者をやっていく以上、今回のようなことの方が多くなるだろう」

「だから、ついてこい、と……?」

「ああ、そうだ」

 冒険者は日常的に危険が隣り合わせだ。魔物、賊、罠、あげればキリがないほどに。

 だからこそ。だからこそ不安に思うことはある。

「それじゃ、わたしただの足手纏いになるんじゃないですか……?」

 わたしはついさっきこの人に助けられたばかりだ。この人について行けば、間違いなくどこかで足を引っ張ってしまう。最悪の場合、命に関わることだって。

 しかし、剣士さんは無表情のまま首を横に振る。

「問題ない。それに俺から頼んでいることだ」

「えっ、これって頼み……だったんですか?」

 わたしの言葉に彼は頷く。

 ……何となくこの人のことがわかってきた気がする。この人は口下手で不器用なとこがあるみたいだ。だからこっちが汲み取らなければいけない。

 はあ、と今日何度目かのため息をつき、

「……わかりました。不束者ですが、お供させていただきます」

「ああ、よろしく頼む」

 そう言って彼は左手を差し出す。

 多分握手だろう。この場にそぐうかはわからないけど、それに応じる。握ると感じる彼の手の感触。全体的に硬く、ゴツゴツしていて、実力の高さが努力と研鑽によって得られたものなのだと容易にわかった。

 この人について行けば、きっと何かがわかる。きっと、大丈夫だ。旅立つ前にお世話になったみんなに挨拶だけしておこう。



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