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冒険は楽しい


 街から少し離れた洞窟。

 依頼に記された魔物の巣はその最奥にあるそうで、わたしたちは慎重に進んでいった。……正確に言えばその予定だった。

「うおりゃー!」

 大きな掛け声と同時にフィーネちゃんは自分よりも一回りほど大きな大剣で魔物を蹴散らしていく。わたし含めロウくんとティナちゃんは後方から援護……もとい撃ち漏らしている魔物を仕留めて、魔石も回収していく。

「あの、フィーネちゃんっていつもあんな感じ、何ですか?」

 わたしの問いにロウくんが応じる。

「うーん、そうだね。今回は個体ごとの強さは大したことないから自由にやらせているけど、群れのボスクラスの魔物相手ならもっと連携は取ってるよ。今回はアイリスさんがいるから張り切ってるんじゃないかな?」

「いつもより、元気です」

「そうなんですね……」

 自分のおかげで元気になってるっていうのは何だかうれしくはあるけど、もはやわたしいらなかったんじゃないかってくらい圧倒的だ。

「みんなー! こっち来て!」

 すると、先に奥に進んでいたフィーネちゃんがわたしたちを呼ぶ声が聞こえた。ちょうど魔石も拾い終えていたので足早にそっちへ行く。

「ほら、あれ見て」

 フィーネちゃんの指差す方向、洞窟の先にある広い空間。そこには、複数体の魔物とそれらよりも2回りほど大きな魔物――いわゆる上位種の魔物がいた。

「……ティナはフィーネの体力を回復、アイリスさんは一発でかいのを頼みます」

「任せたよアイリスちゃん!」

「は、はいっ!」

 ついに来てしまったわたしの大仕事。フィーネちゃんからの期待の眼差しがグサグサと刺さってくるのを感じる。

 あぁ〜緊張する。失敗できない。わたしの初陣がこんな大役だなんて聞いてなかったよ……でも、やるしかない。120%を求められているわけじゃない。普段通り、わたしができることをやればいいだけなのだ。

「じゃあ……いきます」

 一度深呼吸をして、両手を前に魔物たちを目掛けて指先まで魔力を込めていく。そしてイメージする。――敵を破壊する、炎の力。

「――〈クリムゾン・スフィア〉」

 収束――そして炸裂する大火球。

 油断しきっている魔物たちに大打撃を与えるには十分すぎる一撃。

 突然の襲撃に慌てふためく魔物の群れ。知性も乏しい下位の魔物のため、群れの長が統率、指揮を取るのには時間がかかった。その間、数十秒と言ったところか。その致命的すぎるほどの隙は、大剣を背負う剛腕の少女に万全のパフォーマンスを発揮させるのに過剰とまで思えるほどのものであった。

「せりゃぁぁぁあ!」

 大剣を振り回し、混乱状態にある魔物たちを一掃していく。ここまで戦闘力に差があると、かえって魔物がかわいそうに思えてくる。不意打ちで魔法を行使した身としてはあんまり言えないけど、ごめんね魔物。




 洞窟からの帰り道。

 わたしの初陣、初任務は大成功に終わった。

 とはいえ、フィーネちゃんたちの尽力あってこそのものだった。みんなには感謝だ。

「いやぁ〜、勝った勝った!」

 フィーネちゃんは満足そうに笑みを浮かべながら、袋に入れたたくさんの魔石を見てそう言った。

「何が勝っただ。不意打ちされかけたのを助けたのもう忘れたのか?」

「あはは」

「あははじゃない!」

 確かにロウくんの言う通り一回だけフィーネちゃんが危ないタイミングがあった。岩陰に隠れていた魔物からの不意打ち。ロウくんが反応して迎撃していなければ、最悪の場合致命傷になりえたかも知れなかったと思う。

 自由に暴れるフィーネちゃん、的確な指示と完璧なフォローができるロウくん、そしてその二人ダメージを瞬時に回復させるティナちゃん。

 高いレベルでバランスの良いパーティだ。間違いなく、B級レベル以上の実力はあると思う。

「アイリスさんの魔法、すごかった」

「え?」

 そんなことを考えていると、隣を歩くティナちゃんが不意につぶやいた。

「そ、そうでした?」

 急な褒め言葉に困惑していると、前方で怒られているフィーネちゃんが振り向き、

「ティナのゆーとおりだよ。あんな魔法撃てるのなかなかいないよ。少なくともC級に同じことができる人はいないと思う。すごかったよアイリスちゃん!」

「いえいえいえ! わたしなんてそんな……」

 洞窟内という閉鎖空間でわたしの放てる魔法の中からベストのものを選んだだけにすぎない。もっとすごい人はたくさんいるし、わたしなんてまだまだ未熟者の魔女の卵だ。

「……でも、ありがとうございます」

初めて師匠以外の人の前で魔法を使った。

自分の中ではまだまだ拙い、未熟すぎるほどの魔法。それでも、誰かの役に立てたなら。誰かの助けになれたなら。

 みんなからのお褒めの言葉を胸に、これからの冒険者人生を頑張ろうと決意した。



 わたしの初任務からおよそ半年が経過した。

 あれからわたし達はどんどん依頼をこなしていき、それなりに名の売れたパーティとなった。とは言っても、わたしが入る前から元々の実力はあったわけだし、わたしの影響力なんてたかが知れている。あくまでわたしはプラスアルファの要因でしかない。

 でも、わたしの魔法でみんなの力になれている、その事実だけはわたしの中で大きな自信となっていた。

「おい、また銀狼が出たらしいぞ」

「銀狼ー⁉︎ せっっかく波に乗ってきたのにこのタイミングでかぁー」

 冒険者ギルドでフィーネちゃんとロウくんの二人を見つけ声をかけようと近づくと、そんな話し声が聞こえた。

「二人とも、おはようございます。……えっと、銀狼ってなんですか?」

 わたしの知る銀狼は文字通り銀色の毛並みをした狼。はるか昔、神代の時代で猛威を振るっていた伝説の魔獣の呼び名。

 巨大な上に閃光の如き速度。その牙は岩をも砕き、その爪は鋼すら切り裂くと言われている、正真正銘の魔の獣だ。

 そんな化け物が出た……もう引きこもろうかな……。

「あ、おはようアイリスちゃん。えっとね、銀狼っていうのはある冒険者の二つ名なの」

「冒険者?」

 なんだよかった。引きこもらずに済むや。まあ? わたしの本気の魔法でちょちょいのちょいだったとは思うけどね。食らわせられなくてむしろ残念ですよ。

「銀色の髪、パーティは組まずずっとソロ。まあ、他のメンバーなんていらないくらい強いっていうのもあると思うけど、それで付いた二つ名が……」

「銀狼……」

 ずっとソロっていうのが一匹狼って意味なのかな。

「しかもね、なんと単独で竜狩りに成功した数少ない冒険者なんだよ。もちろん等級はS。あ、さっきわたしが嫌がってたのは、それだけ強い上に依頼を片っ端から取ってっちゃうからなんだよ。もちろん全部ってわけじゃないんだけど、残ってるのってほとんどがしょっぱいやつなんだ」

「あぁ……そういう……」

 なるほど、と納得した。

 最強クラスの必殺仕事人が現れたとなれば、こっちの稼ぎがぐんと減るわけだしフィーネちゃんの嘆きも当然の話だ。……まあわたしも今月ちょっとピンチだし危なくはあるんだけど。

「あっ、そういえばティナちゃんはどうしたんですか?」

 来た時から思ってはいたけど、ティナちゃんの姿が見えない。いつもならロウくんの後ろにべったりくっついているのに。

「ああ、ティナはこの時期は実家に帰ってるんだよ。生粋のお家大好きっ子だからね。銀狼が現れて仕事も少ないしちょうどよかったかな」

「だねー。でもお二方、ここいらで一稼ぎ行きたくないかい?」

 フィーネちゃんの言葉に、ロウくんとわたしは揃って顔を見合わせる。

「それに越したことはないな」

「ですね……でも、依頼はほとんどないんですよね?」

 わたしが言うと、フィーネちゃんは人差し指をピシッと突き出し、

「ちっちっち、こんなこともあろうかと〜……じゃじゃーん! 事前に取っておいた依頼書でーす!」

 ババーンと効果音でも付きそうな勢いで一枚の紙を出してくる。

「おお。よく取ってたな」

「まあねー。わたしもたまには役に立つのですよ。えっと、依頼内容は山賊の討伐。生死は問わないって。場所は…………」

 何かが詰まったかのように、フィーネちゃんの口から次の言葉がなかなか出てこない。

「え、えっと……どうかしたんですか?」

「あぁ〜……場所は……」

 わたしが問いかけるも、なんだか言いづらそうにしている。

「なんだよ。ちょっと見せろ」

「ああっ! ちょちょい!」

 ついに痺れを切らしたロウくんがフィーネちゃんの手から強引に依頼書を奪い取り内容を読み上げる。

「えー、場所は……はっ⁉︎ ベルファスト山⁉︎」

「……みたいだねえ」

「え、えっと、ベルファスト山って……?」

「ベルファスト山は、簡単に言えば、魔物だらけのモンスターハウス。巣食う魔物は個体ごとの強さも普通とは段違いな上に頭数も多い……あそこに立ち入って生きて帰ってくる奴は相当の実力者か最低でも六人くらいのパーティ、しかも全員B以上はないとまずだめなんだ」

「正直それでもキッツイよねえ……」

 と、ロウくんの言葉にフィーネちゃんが付け足す。

「そ、そんなおぞましい山に今からわたしたち三人でいくんですか……?」

 無理だ。ムリムリ。帰ろう。帰って引きこもります。

 そんな危険な山で、あろうことか山賊を相手にするのはいくらなんでも無理です。

「あ、はは……まあでもあれだよ! 魔物との戦闘は極力避けて、山賊のとこで大暴れすればいいのよ。ほら、アイリスちゃん魔力感じ取れるじゃん。それでまたさーっと避ければいいのよ」

「アイリスさん頼みかよ」

「わ、わたしもそこまで確実に分かるわけじゃないので頼みの綱みたいにされると……」

 多少なり相手の魔力量だったり魔力の流れを感じ取ることはできる。現に、前の依頼で森にいる魔物を討伐するときにも魔力探知で索敵して上手く進むことができた。でも、この力にはムラがある。対象は魔物、人間、動植物でさえ含まれる。そんな中、ただでさえ強力な魔物が大量に現れれば、流石に機能しなくなるかもしれない。

 現場でわたしの力前提で進んで、もし失敗してしまったらそれこそ命に関わってしまう。そんな責任はわたしは負えない。

「ま、まあまあ大丈夫だって! いざとなったらアイリスちゃんの魔法で辺り一帯焼き尽くせばいいんだし!」

「無茶苦茶だ……」

 できないことはないと思うけど自分達の被害も考えたら諸刃の剣すぎる……。

「はぁ……、まあ受けてしまったものは仕方ない。アイリスさんには本当に悪いけど、頑張ろう。終わったらフィーネの奢りで美味いものでも食べに行こうか」

「あっ、はっ、はい!」

「う、ぐぅぅ……」

 奢りという言葉に反応し、嫌だという気持ちと仕方ないという気持ちが入り混じったようなうめき声で何も言えずにいるフィーネちゃんを横目に、ちょっと同情の念は持ちつつも依頼達成後に行くご飯はどこにしようかと話に花を咲かせるのだった。




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