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チャンピオンとチャレンジャー



「……ふぅ」

 試合を終え控室に戻った俺は軽く息を吐き出す。

 この喧嘩祭り、俺は日常的に纏っている魔力の障壁を解除している。というのも、先のオルガとかいう剣闘士のように強者であればあるほど切り札が魔力である可能性が高い。その全力をインチキじみた防御能力で防ぐのは戦士に失礼……いや、単純に俺が嫌だ。

 この戦いは殺し合いじゃない。命がかかっている戦いならば俺も出し惜しみはせず存分に魔力を使っていた。しかし、喧嘩祭りはただ己の武力を競い合うだけの場。戦士の全力を俺の全力で持って迎え撃つ。戦いそのものの本来の楽しみだ。

ここ最近命を削り合う戦いが多かったから、全力で戦いを楽しむために喧嘩祭りに参加したのだ。

「よぉ、お疲れさん」

「……ライリーか」

 岩の段差に腰をついてると、この後に試合を控えているA級剣闘士が声をかけてきた。

「お前さんがやったオルガ、あいつは中々強い方だったんだがまさか一撃でノックアウトとはな」

「ふっ、見たところあの剣闘士は他人を見下す癖があるみたいだったからな。完全にぶちのめせば考えを改めるだろうと思ったんだ」

 煽ったら予想通り簡単に全力を出してくれた。ああいう妙にプライドのあるタイプは口車に乗せるのが存外簡単だ。それから、全力の一撃を打ち込むところを仕留めればいい。

「ま。これからあいつは強くなるだろう。チャンピオンの座が奪われるかもしれないから気をつけろよ?」

「足元はちゃんと見てるつもりだから問題ないさ。それより……」

 ライリーは目線だけ控室の端、そこにいる参加者の方へと向ける。

「……ああ、あの魔術師だろ?」

 視線の先、そこにいるのは一回戦で強力な魔法を見せつけた仮面の女魔術師。

「まさか女のしかも魔法使いが喧嘩祭りに参加するなんて俺の知る限り初だな。それにすごい使い手ときた」

「ああ。当たったときは油断しないよう気をつけるさ」

「……ん、ああそういや聞いてない、というか知らないか」

「何がだ」

 ライリーの言葉に首を傾げる。

「今大会の参加者数は二十。AとBブロックでそれぞれ十人ずつだ。二回戦から残りの参加者は奇数になりAとBで合わせてやることになるんだ。そして最終試合は残った五人のバトルロイヤルなんだ。だからあの魔術師が勝ち上がるとするなら、俺も兄ちゃんもやることになるんだよ」

「そうだったのか」

 まあたしかに順当に試合が進めばそうなるのか。にしてもバトルロイヤル……つまり乱戦必死になる訳だが、そうなると広範囲攻撃の術があるあのリリスという少女がだいぶ有利なんじゃないか。

「お前さんも思ってるだろうが、決勝のバトルロイヤルの方が魔術師としての本領発揮ってとこだろう。本気で気をつけないとな」

「ま、そのときはそのときだ。ところで、そろそろ行かなくていいのか? もう試合始まるみたいだが」

「おっとマジだな。じゃ、行ってくる。チャンピオンとしての試合見せてやるからな」

「ふっ、楽しみにしとくよ」

 それからしばらくして、会場の方から耳を突き抜けるほどの歓声が沸き起こった。





「ライリー!」

「魅せてくれよチャンプ! 楽しみにしてるぞー!」

「今年こそ勝てよレックスー!」

「万年二位をそろそろ覆してくれーっ!」

 舞台に立つ戦士二人、それぞれのファンの声援が闘技場の中に降り注ぐ。 

 相対する二人の強者。一回戦でやるには惜しいと誰もが思う剣闘士の頂上決戦だ。

「まさかこんな序盤であんたとやることになるとはなあ」

「だな。ま、俺としては万全のチャンプとやって完全な勝利をおさめる方がいいってもんだ」

 この二人の剣闘士歴はほぼ同じ。成ってから数ヶ月でA級、一年足らずでチャンピオンとしての座を手に入れたライリー。対するレックスはライリーほどの才と実力があるわけではなかったものの、他に類を見ない速度で着実に実力をつけていき、ライリーに次ぐA級二位と成った。

 毎年開催されるこの喧嘩祭りにおいて決勝戦は必ずこの二人の戦いとなり、もはや名物とすらなっているのだ。その戦いが喧嘩祭りの最序盤一回戦で行われるのは有識者からすれば楽しみが即終わると言っても過言ではない。

しかし、今年は異例中の異例。

B級上位を完封した無名の銀髪の冒険者。謎に包まれた凄腕女魔術師。さらに決勝は実力者のバトルロイヤル。観客の熱気はまだまだ上がり続けることだろう。

「……んじゃま、準備はいいか」

「そんなもんとっくだ」

言葉と拳を重ねた一位と二位。観客のボルテージが上がる中、ひとっ飛びで距離を取った両者。そして、戦いのゴングが鳴り響いた。

先手はチャンピオンライリー。魔力が全くない代わりに得た圧倒的な身体能力で一瞬にして距離を縮めた。そこから繰り出される必殺のラリアット。

力とは速さ――B級三位のオルガがたどり着いたその考えは、ライリーの持つこの技によるものだった。

 鋼の肉体。鍛え上げられた剛腕。爆発的な速度。その全てが掛け算の容量で合わさり、どんな防御も無とするシンプルにして強力な技。

 それはA級二位というライリーに次ぐ実力者であるレックスでも例外ではない。ライリーに勝つにはまずこの一撃を凌がなければならないのだが。

「うっ……ぐっ!」

 超高威力のラリアットに対し、ベストタイミングでの防御をしたレックスだが、凄まじい衝撃と重さを受け切ることができず、目にも止まらぬ速さで闘技場の壁まで吹き飛ばされた。

 崩壊する壁。巻き起こる砂煙。その煙から飛び出してきた挑戦者レックス。

「よぉし耐えたぞライリー!」

 頭から血が流れ目に見えて第ダメージを負っているものの、逆に闘志に火がつき燃え上がっていた。

「はっ! そうこなくちゃな!」

 魔力を纏い強化した打撃で攻め込むレックスをライリーはチャンピオンらしく堂々と迎え撃つ。

 A級というランク付は冒険者においては凶悪な魔物が無数に巣食うダンジョンを踏破できる者や、王国騎士団一個隊を率いる聖騎士ほどの力の持ち主とされる。A級とB級、それぞれには絶対的な壁が存在し、そしてそれは剣闘士にも同じことが言える。

「……ッ!」

 未だ拳撃を打ち込み続けるA級二位の剣闘士は対峙するチャンピオンの戦法に息を呑んだ。

 レックスの嵐のごとき猛攻。鍛え上げられた拳に魔力によって上乗せされたたしかな攻撃力はライリーをも防戦一方に追い込むほどの力を秘めていた。

右からの攻撃を捌いたと思えばすかさず左からの拳撃が。それを避けたと思えば避けた先に凶脚が。ライリーに攻めさせる気は全くない、それがよくわかる猛攻撃だった。

一発でもまともに貰えばあとはドミノ倒しのように防御が瓦解しやがて倒れることだろう。しかしながら、ライリーが取った手段は常軌を逸したものだった。

「……おいおい、マジかよ」

 一つ一つの打撃が必殺の威力を秘めており、ましてやそれが一秒に十発二十発、打撃が続く限り加速し続けるインファイトの極み。

 考えたくもない暴力を前に、なんとチャンピオン・ライリーは防御を解き前のめりに攻めの姿勢に躍り出たのだ。

 想定外の行動に一瞬気圧されるもその手を止めることはない。だというのに、ライリーは一歩ずつ歩みを進めていった。

「――お返しだ!」

 そして、自身の間合いまで近づき、叫んだ言葉同様これまでの攻撃の借りを返すが如く、拳撃の嵐を裂く一発の拳がレックスの顔面に直撃した。

 たった一撃。

 されど一撃。

 ライリーに勝つには攻めさせてはならないと、長年戦い続けてきたA級剣闘士二位の男がたどり着いた結論は正しかったのだとその一撃で証明されることとなった。


 ――Bブロック一回戦最終試合勝者ライリー




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