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ことの顛末

 ――意識が覚醒する。

「……ぁ」

 瞼が重い。耳が遠い。何が起きたか思い出せない。

 今感じるのは嗅覚と触覚。この独特の匂い……消毒液かな。背面にはふかふかな柔らかさを感じる。

それ以外の感覚は正常に動作していない。目は開こうとしないし、耳はキーンと鳴っている。しかし、時間が経つにつれてそれも徐々に回復していき、ようやくわたしは目を開けることができた。

「……ぅっ」

 開けた目に直接入ってくる光が眩しい。目が……目がぁ……! 

と、内心冗談を交えつつとりあえず起き上がり辺りを見渡す。

どうやら、わたしはベッドで寝ているようだった。多分病院の。どうしてこんなところにいるのか、やはり思い出せない。

「……はっ! そうだ、切り裂き魔……!」

 混乱していた脳がやっとちゃんと働き始め、直前の記憶が蘇る。

 わたしは切り裂き魔事件、その首謀者の居場所を突き止める為にマイター・スクエアのみならずノースミンスタ全体に及ぶ規模での魔力探知を行なっていた。現れた切り裂き魔は銀狼さんが戦闘不能にまで追い込んでいて……、そこからだ。そこからの記憶がない。つまり、そこで何かあってわたしは気を失ったんだ。

「銀狼さん……っ」

 何かがあったのなら銀狼さんも危ないのでは。そういう思考が頭を駆け巡る。わたしの体は考えるよりも先に動いていて。ベッドから飛び出していた。

「わっ! ……うぐ」

 しかし、滑った。寝起き直後の体は思ったようにちゃんと動かず、ベッドから滑り落ちて、視界が逆さまになった。

 その時――この部屋のドアがガラガラと開き、誰かが入ってきた。

 そして、その人物の透き通るような蒼い瞳と目が合う。

「……」

「……」

 わたしと彼の間に静寂が流れる。というか時が止まってる。

 何も言えないわたしの代わりに、銀流さんが口を開いた。

「……それ、楽しいのか?」

「あっ、ぅう……」

 真面目な顔で銀狼さんにそう言われ、銀狼さんがの安全がわかった安堵と同時に恥ずかしすぎて顔が熱くなったのを感じた。もう……死にたい……。




 それからしばらくしたあと、レストレード警部が顔を見せにきた。というより事の顛末、その報告をしにというところだろう。

 ――あの時起こったこと。

 銀狼さんが切り裂き魔を戦闘不能にまで追い込み、わたしが魔力探知で首謀者の居場所を特定しようと集中していた。

 銀狼さんと警部の話では、そのタイミングで切り裂き魔の体から光が溢れだし、大爆発を起こしたそう。その威力と規模はおおよそマイター・スクエア一帯を軽く吹き飛ばせるほどのもの。そんな破壊力を秘めた高密度の魔力爆撃、普通なら今こうしてわたしたちが五体満足で話していられるわけがない。しかし、それを可能にしたのがこの銀狼さんなのだ。

 大方話し終えたところで、レストレード警部は座っていた椅子から立ち上がる。

「……と、まあそういうわけで、大した被害は出てねえ。銀狼、お前さんのおかげでな。この街を代表してお礼を言わせてくれ。――本当に助かった。ありがとう」

 深々と頭を下げる警部。その姿は、これまでの態度からは考えられないちゃんとした大人の姿だった。失礼なこと思ってすみません。以後考えを改めます。

「頭を上げろ、レストレード」

「銀狼……?」

「たしかに今回は完全に俺のおかげだ。だが本当に、ほんっっっとうに微力だがお前の助けもあったから何とかなったんだ。感謝してる」

 あ、この人調子に乗ってる。呼び方からもうそれが如実に出ている。

 銀狼さんの珍しい姿に新鮮さを覚える。その一方、レストレード警部は頭に怒りのマークが浮かび上がっていた。あれ出る人本当にいるんだ……。

「て、てめえ……下手に出てりゃ好き勝手言いやがって」

「おいおい、俺はこの街を三度も救った英雄だぞ? 英雄に手を出すのか?」

「くっ……珍しく調子に乗りやがって。礼なんて言うんじゃなかったぜ」

 悔いるように拳を握り舌打ちをする警部。

 ところで、と今度はわたしから話を切り出す。

「切り裂き魔を操る術者……事件の首謀者について何かわかりましたか……?」

 わたしからの問いにレストレード警部は首を横に振った。

「……それが全然ダメだ。嬢ちゃんの魔法陣を通してこっちでも探してみたものの、この街にその魔力の残穢の欠片すらなかった」

「つまり、最後に切り裂き魔と戦った時点で、黒幕はこの街から撤退していたということか。切り裂き魔め、いいように使われたな」

「というと?」

「最後の自爆……あれが意味するのは、最初から奴は捨て駒に過ぎなかったということだ。……いや、もう少し細かく言えば実験台かな」

 話の核心が見えてこないわたしとレストレード警部は続きを促す。

「モリア教授の研究でほぼ完成していた『死者蘇生』。その試運転が一つ目。未だかつて誰も成功した事のない自然の理に反することだ。どこまで生前の状態を再現できるか、もしくはそれ以上の力を引き出せるのか。全てにおいて未知数だろう」

 どんな生き物でも死ねばあとは土に還るのみ。命の灯火が消えた時点でその者の物語は幕を閉じている。それが自然の理。至極当たり前のこと。それを歪めようものなら、まさしく禁忌と言わざるを得ない。

「『死者蘇生』が叶った黒幕は、次に応用を試した。それが幻覚魔法のような特徴を持つ魔力質の体や、特定の場所に瞬時に現れ、消える事の理由だろう」

「な、なるほど。……あ、でも、それが上手くいかなくて切り裂き魔が捕縛、そのまま尋問されていたりなんてことになっていたらどうする気だったんでしょうか?」

 作戦なんて失敗が前提のもの。

とはいえ、それで情報が抜き取られて自分自身が不利に働く要因になれば危うい状況に陥らざるを得なくなる。

「……いや、そこら辺は多分大丈夫なんじゃねえかな嬢ちゃん。まず奴を捕まえられるやつはこの街にはいねえ。外から呼んだ銀狼くらいしか相手できないからな。それに、そうなったらそれこそ自爆の出番だろ。警察署もろとも吹き飛ばせれば万々歳だろうしな」

「あー、たしかにそうですね……」

 そう言えばそうだ。警察署というこの街の治安を守る組織の、その本拠地となれば自爆の本領発揮。人々の混乱を誘いつつそれを統括する人間もいなくなり、あわよくば捕まっている犯罪者をも解放させることも可能なはず。

 そう考えたら、黒幕はどんな展開になっていてもプラスになるように動いていたとしか思えない。

「だから俺の能力は想定外のものだっただろうな」

「いや俺からしてもお前さんがそこまで化け物じみてるとは思ってなかったよ」

 黒幕が唯一想定外だったであろう銀狼さんの力――シンプルな莫大な魔力。

全身から立ち上る溢れんばかりの魔力は、刃に込めればどんなナマクラも必殺の一撃を撃てる魔剣になり、身体に纏われている間はどんな魔力攻撃も弾く鉄壁の鎧となる。

 その魔力を応用し、切り裂き魔の動きを封じたり。自爆による被害を無理やり抑え込んだ。

「……」

 ……正直なところ、規格外にも程がある。

普通、魔力でできることと言えば自分の肉体を強化して通常状態じゃ持てない武器を振るったり、単純な防御力を上げたり。あとはわたしやティナちゃんのように世界に干渉して魔法を使ったりくらい。

 銀狼さんのような使い方なんて見たことがない。でも、それを可能にしているのがあり得ないほどの莫大な魔力……あと、多分相当の訓練を積んでいるはず。でないとあのくらいの自由度と練度を持ち合わせることなんて不可能だ。

「銀狼さんがS級なのって多分そこら辺が理由ですよね」

「そこら辺ってのは?」

 レストレード警部が首を傾げる。

「魔力ですよ、魔力。実はわたしの眼って特別性で魔力を視ることができるんですけど、正直普段から魔力がドバドバ出てて、眼が疲れるんですよ……」

「それはすまない。だが仕方ないだろ。いつどこから不意打ちが来るかわかったもんじゃないんだ」

「わからなくもないんですけど……」

 流石に街中くらいは解いてほしい。外は魔物とかで危険はあるけど、わたしが魔力に気づくし、賊の襲撃だったりもどうせ銀狼さんが気配で気づく。だからちょっとくらいは休んでもいいんじゃないかというのが本音だ。いや、わたしを休ませてほしい。

「……何かがあってからじゃ遅いからな」

「……? え、ええまあ」

 それはそう……なんだけど、何か含みのある言い方だった。けどわたしはその正体はわからない。

 すると、パンッと手を叩く音が聞こえた。

「はい、終了ー。もう話はいいだろ。とにかく、嬢ちゃんは明日で退院だから今は安静に。銀狼はこの後ちょっと俺と来てもらうぞ。なんかギルドの方から書類やらなんやらが来てんだ」

「うっ……それ今日じゃなきゃ」

「ダメだ。ほれ行くぞ。じゃあな嬢ちゃん、お大事に」

「あっ、はい。気をつけます」

 そうして、銀狼さんは警部に連れて行かれた。化け物みたいな強さの銀狼さんにも弱点はあるんだなぁと知れたのが今回の収穫かな。




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