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再戦

陽が落ち、辺りが徐々に暗くなってくる。

 普段は人通りが多く喧騒に包まれているマイター・スクエアは、レストレード警部率いる警察部隊の協力のおかげで全くの無人。ゴーストタウンのような景色となっていた。

「……」

 まもなく出現するであろう切り裂き魔という名の亡霊に体の震えが止まらない。だって、すぐに治ったとはいえ斬られたものは斬られたし、死ぬほど痛かった。もしまたあれが来るのかと思えば……やはり震える。まるで生まれたての子鹿のようだ。

「あの、銀狼さん」

 この恐怖を紛らすように、傍にいる銀髪の剣士に声をかける。

「なんだ」

「あっ、えっとその……」

 まずい。声をかけたはいいものの何も考えてなかった。

「あ、そうだ。あの、前のパーティに居た女の子……フィーネちゃんから聞いたんですけど、一人で竜を倒したってほんとですか?」

 最後の依頼に向かう直前に彼女から聞いた銀狼の逸話。実力と功績のお話だ。

「……ああ、あれか。本当は倒すつもりはなかったんだが成り行きでな。それに俺にとって戦いやすい状況だったんだ。むしろあれで負けろという方が難しいくらいにな」

「へ、へぇ〜……」

 この世界において最強の生物――その一角とされている竜を、戦いやすい状況とはいえ単独で討伐したのは恐ろしいことだ。正直なところどん引き。

「おい、何だその反応は」

「い、いえいえ別に……」

 銀狼さんの詰めを顔を逸らしながら受け流す。

 そんなやりとりをしていると、

「お二人さんちょっといいかい」

 レストレード警部だ。

「あと数分で現れる。そろそろ準備頼んだぞってことを伝えにきた」

「そうか」

 出現時間が分かる理由。それは過去の事件の犯行時間と同じだろうという予測だ。実際、これまでの切り裂き魔の出現タイミングと場所が全て合致しているためおおよそ間違いないだろうとのこと。

「そうだ。この作戦の要は嬢ちゃんだからな。任せたぞ?」

「は、はいっ!」

 わたしがそう返すと、レストレード警部は軽く手を上げ自身の持ち場に戻っていった。

「今のうちに渡しておこう。手を貸せ」

「あっ、はい」

 言われた通りに右手を差し出し、銀狼さんがわたしの手を握る。

 そのつながりを通じて、彼の持つ莫大な魔力がわたしの中に流れ込む。前にも一度魔力を借りたことがあるとはいえ、やっぱりこの力には毎度驚かされる。

「……よし、こんなものか」

 必要分の魔力を渡し終えた銀狼さんは握っていた手を離す。

 その時だった。

「――」

 突如、辺りに濃霧が立ち込める。真っ白で幻想的な景色。しかしながら異様なまでの光景。間違いなく、魔法による現象だ。

「あの時もこんな感じだったな」

 コツ、コツ、と農務を切り分けるように足音が近づく。魔の気配が現れると同時に、銀髪の剣士は背負う鞘から剣を引き抜く。臨戦体制だ。

「……!」

それを確認したわたしはすぐに魔法行使の手順を踏む。今から発動する魔法はこの街全体にまで及ぶ大規模の魔力探知。あの切り裂き魔を操る術者を探し当てるためのものだ。

術者を叩けば魔法は効力を無くす。わたしが術者を見つけるまでの時間は、銀狼さんが切り裂き魔をひたすら戦闘不能に追い込む。それが今回の作戦だ。

「そっちは頼みます。銀狼さん――!」

「ああ。そっちも気張れよ」

 そう言い残し、銀狼さんは切り裂き魔との再戦に臨んだ。わたしは、翔ける彼の背を眺め今やるべきことに注力した。




 俺の役目は切り裂き魔を食い止め続けること。

 魂の再臨――あの世から現世に蘇ったこの亡霊を打ち倒すには、俺がただ斬り続けるだけじゃ不可能だ。

「……チッ」

 その上、普通に斬るだけでは前と同じようにすぐに消えてゆく。奴の肉体が魔力によって構築されているのがその要因だとモリア教授から聞いた。そして、その対策も。

「ふふふ」

 俺と対峙する切り裂き魔は不敵な笑みを浮かべながら、両手に握る二振りの短剣を操り連撃を繰り出す。その剣技、力量は生前と何ら遜色ない優美で鮮やかなものだった。この技が人のためではなく人の命を奪うために振るわれていたのが心底残念でならない。

「フッ!」

 踏み込んだ切り裂き魔の斬撃が頬を掠める。

何となく察していたが、やはりあれには魔力が流れていないな。俺対策だろうが、それでは魔力により強化された攻撃を受けることはできないだろう。

「――!」

 未だ止まぬ斬撃の嵐を、俺の振るった一太刀が斬り裂く。狙ったのは奴の持つ短剣。二つが重なる刹那の一瞬。そこを突き、刃を砕く。連続攻撃を終わらせると同時に切り裂き魔に隙を生じらせることに成功。

 まずいと判断したのか、体勢を立て直そうと切り裂き魔が一歩後ずさる。その瞬間――、

「ふっ……!」

 俺は低い姿勢で地を蹴り、疾風の如き速度で奴の懐に潜り込む。胸ぐらを掴み、俺自身を包む魔力の範囲を拡大。そして――、

「ご……は、ぁッ!」

 拳を握り、渾身の一撃を叩き込む。涼しい顔から一転苦しそうな表情で切り裂き魔は血反吐を吐き、凄まじい勢いで吹き飛んだ。

「さて……まずは一撃」

 打撃の威力で地に伏せ蹲る切り裂き魔の姿を見下ろしながら、俺はそう呟く。

 ようやく目に見えてダメージが入ったな。モリア教授から聞いた対策――切り裂き魔の肉体を構成している魔力よりも強大な魔力で叩く。俺がやったのは自身の魔力で奴の魔力を上書きし、消失させないようにしてから殴ったのだ。シンプルにして簡単なことではあったがそれ故に思いつかなかった。

あとはアイリスが術者を見つけるまでひたすら殴るのみ。簡単な話だ。

「……フ、うぅ……」

 すると、切り裂き魔は息を吐きながらスッと立ち上がる。

「ハァッ……フフ」

吐息。笑み。それしか発さない切り裂き魔に言葉を吐く。

「何か言えよ気色悪い」

「……ようやくだ」

「? 今……――ッ!」

 ひたすらに微笑だけしか浮かべなかった切り裂き魔がようやく何か口にする。かと思えば、再度俺との距離を詰め、欠けた凶刃を振り下ろす。

「ふ、うんっ!」

 俺は振り下ろされる腕を掴み、力の流れを利用して、投げる。されるがまま、思うがままに切り裂き魔の体は宙を舞い、加えた力で地面に叩きつける。合気、というやつだ。

「ガ……ッ、ハ、ァッ……」

 叩きつけられた衝撃で、コンクリートの地面に亀裂が走る。そのまま、押さえつけるように奴の胴を踏みつける。

「ぅ、ぐ……」

 切り裂き魔は苦しそうに身悶えをする。脚力で抑えているだけではこうはならないだろうというほどに。

それもそのはず。

今、奴の体には俺の足を通して、俺の魔力の重みが加わっているのだ。莫大な魔力、その圧。呼吸すら困難なはずだ。こうなればもう動けまい。

 視線を移し、俺は後ろで術者を探している魔術師を呼ぶ。

「アイリス!」

「……ぇえ、もう終わったんですか⁉︎ あっ、えっと……すみませんもう少しです!」

 そうして焦ったように再び魔法陣を描きだす。それを視認し、俺はもう一度視線を切り裂き魔へと向ける。

 凄まじい圧力がかかっているというのに、やはり気味の悪い笑みは変わらない。

「……あの時に聞けなかったから今聞くが、お前は何がしたかったんだ。どうして、人を斬る。なぜ罪のない人々の命を奪うんだ」

「……それは君も同じだろう、銀狼」

「は?」

 思わず、口から声が音を纏って飛び出す。切り裂き魔から返ってきた言葉の意味を理解する前に、奴は再度話し始める。

「罪とは何だ? 他人に害を成していない者が罪のない者か? 誰の尺度で、誰の物差しで罪を測っている。法か? 平等な神か? いいや違う。全て、人間が決めている。真実を知らぬ、上部だけの仮面でしか判断ができない愚かな人間がだ。人間が罪を定め、法という武器で人を裁く。真実は隠され、奥底で眠っているというのにな」

「……」

 俺は何も言えずにいた。先ほどの言葉の意味を頭の中で咀嚼していたというのもある。ただ、奴の心の叫び……否、魂の叫びが、尋常じゃないほどの妄執を秘めていたからだ。

「私がなぜこんなことをしたのか、だったな」

 そして。その行動の真意が奴の口から語られる。

 切り裂き魔の頬が悪意によって歪んだ。

「――時間切れだ。グッバイ、銀狼」

 瞬間――凄まじいほどの眩い光が切り裂き魔の身体から溢れ出す。宵闇を切り裂く白い閃光。

さらに一際、輝きが強さを増した瞬間、空気を焼き尽くす熱波と建物を崩壊させる爆風がマイター・スクエアを灰色に染め上げた。




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