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転生勇者の美少女生活

作者: アリティエ

 

 朝起きると身体に違和感を感じた。

 変な夢を見たせいだろうか。それとも、寝すぎのせいだろうか。


 高校生活が始まり初めての夏休み。

 一週間が経ち、自堕落な生活がすっかり身体に染み付いた。

 眠気でうまく頭が回らない。身体がいつもと違う気がするのもきっと眠気のせいだ。


 「おはよぅ、愛しのマイシスター」


 リビングで朝食の準備をしている妹へ朝の挨拶を。

 自分の声もいつもと違って、高い声のような。こんなに女の子みたいな声だったか?


 妹の美夢みゆは、不審者を見るような視線を俺に向けて、懐からスマホを取りだした。


「不審者、誰? 警察呼ばないと」

「いくら兄のことが嫌いでも通報しないでくれないか」

「兄? 馬鹿言わない。華がなくてキモチ悪いのが兄」


 美夢の言葉が胸に刺さる。胸も腫れ上がったかのように膨らんで……いる?

 両手で胸の膨らみを確認すると、とても柔らかい感触がした。腫れているわけではない。


「突然、自分の胸を揉む変態……」


 美夢は苦虫を噛んだように顔を歪ませる。だが、妹の痛い視線を浴びながら俺は胸を揉み続ける。

 まずは状況を整理しよう。

 朝起きたら声が女の子みたいになって胸まである。なら、下半身の玉と棒はどうなっている……ない。

 これは夢だ。だって身体が完全に女の子になってるんだよ。

 ならば、この夢を限りなく堪能しよう。


「美夢、これは夢だ。警察なんて呼ぶ必要ないんだよ」

「夢? 寝ぼけてるのは私?」

「美夢、今のお兄ちゃんは女だ。つまり美夢の姉になったってことだ。美夢はキモチ悪い兄よりお姉ちゃんがいいって言ってたろ。甘え時だぞ。今を逃せば次は無いかもしれない」

「それも……そう?」


 さすが俺の夢、目の前の美夢の反応は本人そのものだ。

 美夢はちょっとお馬鹿な所がある。適当な理屈だとしても、それが魅力的な言葉なら納得させることができる。


「ほら、お姉ちゃんに甘えていいだよ」

 特大の甘え声で両手を広げる。

「お姉ちゃん」

 美夢は俺の胸に飛び込む。

 顔をスリスリと擦り付ける様はまるで小動物。

 さっきまで不審者扱いしてたのに。ちょっと妹のことが心配になってきた。リアルの方の妹はもうちょい警戒心あるよ。 

 まぁ夢だし、俺に都合よくことが進むんだろう、きっと。                 

       

 ――スキル・【妹たらし】を獲得しました。


 なんか聞こえた。幻聴か? 夢で幻聴を聞くって不思議な感じだな。


 ――スキル・【お姉ちゃんになる】を獲得しました。


 変なスキル手に入れた。お姉ちゃんになるって何?

「頭、なでなで、して」

 美夢が甘えてきたので頭を撫でる。最後に甘えられたのは俺が小学生の時だったかな。懐かしい。

「綺麗、いい匂い、柔らかい」

「なぁ、今の俺ってそんなにいい感じなのか?」

「ずっと甘えたいくらい良い」

 夢とはいえ、美夢がこんなにも甘えん坊になるとは。今の俺ってどんな見た目してるんだ?

「美夢に甘えられて嬉しいんだけど、そろそろ離れてくれ。鏡で自分の姿を確認したい」

「だ〜め」

 美夢は下から顔を覗かせる。なんか、目にハートマークが浮かんでるんだけど……。

「好き好き好き」

 美夢の甘えたがりが加速している気がする。

 魅了されてるようにしか見えない。漫画とかラノベでよく見る状態異常だ。これが俺の願望なのか。

 いや、嬉しいんだけどさ。目が覚めると、妹の目も冷めるだよなぁ。


 ――スキル・【魅了】を獲得しました。


 またスキルを手に入れたらしい。女の子になって妹に甘えられる夢なのに、スキル要素まで組み込まれてるって。ステータスとか言ったらウィンド画面みたいなの出そうだな。

「ステータス」


◀名前


【早乙女 晶】


◀種族


【美少女】


◀スキル


【美少女は正義】


【妹たらし】


【お姉ちゃんになる】


【魅了】


◀称号


【元・異界の勇者】


 本当に出たよ。四角いプレート状の画面が目の前に。

 種族と称号が気になる。美少女に勇者。最近、どこかでこの2つの言葉を口にしたような。

「あ、今日見た夢だ」

「夢は今見てるよ?」

「そうなんだけど」

「そんなことより、もっと美夢の色んなとこに触って」

 まぁ、考えるのは後でいいか。今は美夢の相手だ。

「どこを触って欲しいのかな。頬っぺ、背中、太もも、お尻、どこでもいいぞ」

「ぜ〜んぶ」

「よ〜し全部か、お姉ちゃんに任せろ」


 ――スキル【お兄ちゃんの下心】を獲得しました。


「キモイ、キモイ、キモイ、離れて」


 美夢に突き飛ばされて俺は尻もちをつく。

 美夢の目からハートマークが消え、汚物を見るかのような支線へと変わっていた。 

「この不快感、兄と同一。貴女は兄?」

「え、今はお姉ちゃんですよ〜」

「この全身に走る寒気、やっぱり兄の。どうして女になってるの?」

「だってこれ夢だよ。女になっていても不思議じゃない」

 美夢は恐る恐ると俺の顔に手を伸ばすと、俺の頬を力いっぱい、つねって来た。

「痛い痛い痛い。ちょっと止めっ――」


 ――スキル・【美少女の顔は完全無敵】を獲得しました。


「――痛くない。やっぱり夢だ」

「痛くない?」


 美夢は不思議そうな顔をして、自分の頬を摘み指に力を入れた。


「痛い、これは現実?」

 

 俺も自分の頬を摘む。引っ張ったり力強く摘んだりしても痛くない。触れた感触はあるのに痛みだけない。

 さっきから獲得してるスキルの影響とか? いや、これ夢よ、仮にそうだとしても夢であることに変わりはないから、確認とかしても無意味じゃない。とか思いつつも手は正直だ。


「兄、何も無い空間を見ながら指を動かしてる。壊れた? いや、壊れてるのは元から、やっぱり現実? でも、現実の兄は男……」


 美夢が俺を見ながら困惑してる。美夢からはステータス画面は見えてないみたいだ。

 目の前のステータス画面をいじっていたら、スキルと称号の簡単な詳細のようなものが出た。


【美少女の顔は完全無敵】

【美少女】の顔は傷つかない、老いない、穢せない。

 

【お兄ちゃんの下心】

お兄ちゃんの下心は【妹】または【弟】相手に必ず伝わる。それにより生じた感情は他スキルの影響を受けない


【美少女は正義】

美少女は全てにおいて肯定される。


【お姉ちゃんになる】

【妹】または【弟】からお姉ちゃんとして認識される。


【妹たらし】

【妹】から必ず好感を持たれる。

 

【魅了】

 好感を抱いている相手を虜にする。この状態の相手になら何をしても嫌われない。


「何この珍スキル達、俺の夢はこのスキルで何を目指してるの?」


 昨日見たアニメの影響なのかと疑いながらも、最後に称号の確認する。


【元・異界の勇者】

世界を救った勇者に贈られる称号【勇者】。あなたは前世でこことは違う異界を救った【勇者】だった。

世界を救った【勇者】は女神から願いを一つ叶えてもらえる。

さすがの女神も「美少女になりたい」と言われるとは思ってもいなかったようだ。


「美少女になりたい……」


 最近口にした言葉、いや常日頃から口にしてるな。美少女は全てにおいて勝ち組だ。容姿が優れているから誰からにも好かれ、横暴な振る舞いや辛辣な言葉を使い誰かを攻めても美少女は絶対正義と言わんばかりに肯定される。

 常日頃からとある美少女に悩まされている俺がたどり着いた結論だ。


「兄、すでに美少女。これは悪夢。『現実で気持ち悪い兄が夢の中で美少女の姉になったけど、やっぱり気持ち悪いから甘えられない』って状態。不快」

 美夢は不満を口にした。

 美夢にとって悪夢らしいこの夢に、ラノベのタイトルみたいな感想をつけられるほど、俺は気持ち悪いみたいだ。


「美夢ごめんよ、たとえ夢だとしても、限度は大事だよね、うん。夢の中ならお姉ちゃんなんだし、一緒にお風呂くらいまでなら限度の範囲だよね。、うん」


「お姉ちゃんとお風呂……」

 美夢の目が一瞬輝き、その数秒後には虚ろな瞳に変化する。

「兄、こんな悪夢、もう終わらせて」

 

 今にも泣き出しそうな表情で美夢は言う。そんなに嫌なのか。


「妹を苦しめ、その姿に辛さを覚えるよ。この夢はまさに悪夢だ。俺は美夢を傷つけたいわけではない。なら、こんな夢さっさと終わらせるべきだろう。でも、どうしたら夢から覚めるんだ」


「ビンタ?」


「スキル【美少女の顔は完全無敵】で顔のダメージはゼロだ」


「えい」

 美夢が俺の腕を強く捻ってつまんできた。

「痛い痛い」

 顔じゃないからダメージが通るみたいだ。夢なのに痛覚があるってのはどうなんだ。

「どう?」

「いや、痛いだけだね」

「もっとインパクトないと駄目……なら、兄、スマホ」

 美夢は手を差し出してきた。俺のスマホをご所望のようだ。画面のロックを解除して、美夢に渡す。


「はい、スマホで何するの?」

「最終、兵器」

 そう言うと、どこかに電話をかける。

「もしもし、華恋さんですか? 兄が他の女の身体を堪能してましたよ」

「ストッープ! 悪魔を呼ぶの止めてぇ!」

「はい、はい、兄に変わります」 

 美夢はスマホを俺に返してきた。恐る恐る耳へとスマホを向けると、


 ――スキル・【危機感】を獲得しました。


「誰が悪魔ですって……覚悟なさい、私を裏切ルナンテ、ユルサイカラ……」

 

 その言葉でスマホの通話が切れた。

 寒気や恐怖心で震えが止まらない。夢なら悪夢に変わるだけだ。でも、今全身で感じる危機感が、これは夢なんかじゃないと告げている。


「美夢ちゃん、お兄ちゃん死んじゃうかもしれない。お願いします。助けてください」

「土下座、悪くない?頭踏みつけてもいい?」


 それはご褒美だけど、今はそれどころじゃないんだよ。

 

 ――スキル・【美少女の土下座は芸術だよね?】を獲得しました。

 ――称号・【妹に踏まれたい勇者】を獲得しました。

 ――これを最後にスキルシステムは凍結します。


 ゴミみたいなスキルのオンパレードで、俺の美少女生活(?)は、始まった瞬間に詰んだ。

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