魔術師をバディに。
──それから数日。
「ヤレヤレ、折角華やかな王都まで来たのにまた田舎に逆戻りとはねぇ。 まあ行く地方が違うのは有難いよな。 今夜はいい地の物でも摘みながら酒でも楽しもうぜ」
「観光かよ。 もう酒精様がどうとか言わせねぇからな、バルザックさんよぉ」
「はは、根に持つ男は嫌われるぞ?」
俺はバルケス──もとい、バルザックと共に南部・ルシャール領へと向かっていた。
俺は裕福な商人の息子、バルザックはその従者に扮している為、移動は馬車だ。
バルザックは推測していた以上に閣下と強い繋がりがあった。
そして年齢はなんと10近く上。
学園騎士科に生徒として在籍していたのも、当時王女殿下だった閣下の命だという。ただしこれは、騎士としての彼の教育も兼ねていたらしい。
彼は元々隣国の魔術師だったそうで、見た目の年齢が不詳なのもそのせい。
6歳の頃、隣国第一王子殿下の立太子の式典に、同世代である第三王子との顔合わせも兼ねて連れていかれたパトリシア様。
隣国の王宮で出会った彼を気に入ったパトリシア様が、『是非自分の侍従に』と連れ帰ったのだとか。
「ちっ……道理で妙に落ち着いていると思ったぜ」
「なぁにぃ~? 年齢のこと?」
「他にも色々」
そもそもパトリシア様付きの侍従だったコイツだ。6歳以降ならば、おそらく昔から交流のあった俺とも会っている。
全く気付かなかったことが悔しくてならん。
(……まあ学生時代にコイツがいたのは良かった)
俺の方が強い割に、どこかコイツには敵わないような漠然とした敗北感。
今思えば年齢や経験、そして本当は魔術師であることへの余裕などの差だったのだと思うが……学園入学当初の無知で視野が狭く無自覚に傲慢だった俺は、アレがなかったらもっと調子に乗っていたかもしれない。
あの夜自分の気持ちを初めて素直に伝え、ウィレマが色々吐露してくれたことで決意の固まった俺は、翌日また閣下にお会いしに魔塔へと向かった。
「閣下、ご命令を」──その一言で話は通じた。
『呪い』とは関係なく、ルシャール子爵家の乗っ取りの証拠を掴むこと。
本当の閣下の狙いはここにあったのだ、と思っている。
全ては推測にすぎず……閣下はその為に危険を冒してまで誰かを動かせる立場にない。
自嘲するように零した『なにが正解かわからない』は、王族としての矜恃、義務感、ウィレマへの友愛などの複雑な気持ちから出たのだと感じる。
あの夜に俺は決意を固めたけれど、その前だって俺に命じることはできた筈だ。
だが、きっと俺自身が決めて動くことが最善だったから、猶予を与えたのだろう。
ウィレマも言っていたが、閣下は本当にお優しい……特に、ウィレマには。
そこに少しだけ、疑問を抱いていた。
「バルザック、閣下は元々ウィレマと仲が良かったのか?」
「は、ヤキモチか?」
「茶化すなよ」
「愚問だな。 あのお方は当時王女殿下、片やウィレマはただの子爵令嬢だ。 近付く為に勉学に励んだ彼女が、その前からパトリシア様と仲良くできるワケがない」
「そう……だよな」
「大体お前、昔からパトリシア様とは交流しているだろう。 あの方の交友関係は叩き込まれた筈だ、違うか?」
「だがお前には気付かなかった」
「はは、疑り深いねぇ。 なにが気になる? 閣下の忠実なる騎士、アーヴィング・ガーウィン卿」
口調は軽いままだが、そこには明確な非難が込められており、気まずさに目を逸らす。
確かに俺如きが閣下のお気持ちを推し量ろうとするのは、不遜な行為だ。
「……見逃してることがあるなら気になる、それだけだよ」
「ふぅん」と軽く返すバルザックの表情をチラリと窺うと、予想に反し何故か楽しげですらあり、更に困惑せざるを得ない。
(読めないヤツだ)
魔術師らしい、と言えばそう。
そもそもいくら気に入ったとはいえ、隣国からの引き抜きで侍従のコイツ。
ずっとお傍に置くことを許されていたあたり、少なくとも腹の探り合いや舌戦、駆け引きなんかに於いては、俺など到底敵わない相手に違いない。
(全く……第二の脳筋共に、偉そうにななにかを言えたもんでもないな)
自身の察しの悪さに辟易しつつ、腕を組んで目を瞑る。
バルザックは話し掛けてはこなかった。
知らないことが多くて嫌になる。
ずっと同じような日々が続くワケないというのに、そんな幻想にしがみついて動こうとしなかった、俺の怠慢が生んだ結果だ。
(今度は間違えない)
出立前、ウィレマにはピアスを贈った。
「独占欲丸出しか」と皆に揶揄われながらも、俺の瞳の色に合わせた宝石の、シンプルなもの。
実際、独占欲丸出しなのでそこは否定しない。
俺はウィレマの瞳の色のピアスを揃いで作り、台座には互いの身に異変が起きた時、それを感知する術式の彫られた物を使用している。
「……アーヴィングも着けるの」
「勿論、ホラ。 どう?」
着けて見せると、ウィレマは顔を真っ赤にして大いに動揺した。
可愛い。
「ちゃんと見てよ、似合う?」
「う……うんまあ」
「お前の色だ」
「うっわやめろそういうこと言うの!」
「フッ、ウィレマの目は宝石より綺麗だよ……」
「なんの嫌がらせ?!」
ウィレマは自分がピアスをつけることより、俺がウィレマの色のピアスをつけていることに対して恥ずかしそうにしていた。
それが可愛くて照れそうな言葉を並べ立てた結果、とうとうキレて「クソッ外せ!」と言いながら飛び掛かるウィレマを押さえ付けて後ろから抱き締める。(※バックハグであるかのように語っているが、客観的にはどう見ても『羽交い締め』)
プンプン怒る彼女を宥めながら頭に頬ずりする俺は、周囲から見ても熱い恋人達として映ったことだろう。
そんないちゃいちゃ(※客観的には『わちゃわちゃ』)する俺達に注がれた、宝飾店の店員や客からの生温かい視線すら誇らしく。最終的にはその人達に向かって「いや~、妻が照れちゃって。 騒がしくしてすみませんね~」などと謝罪がてら『夫婦』宣言する俺の腕をウィレマが情熱的に引っ張るという、なかなか思い出深い出来事となった。
「……うっわ、アーヴィング。 今お前絶対ウィレマのこと考えてただろ」
「えっわかる?」
「わかる。 ……逆に自覚がないの引くわ~、鏡見た方がいいレベルでニヤニヤしてたわ」
「フン、当然だろ? 俺は今幸せ一杯なんだ!」
「はあ、左様で」
「あ~早く新婚旅行とか行きてぇな~。 退屈な馬車内もウィレマとふたりきりなら最高なのに……」
「仕方ないヤツだなぁ」
そう言ってバルザックは俺の隣に移動した。
「さあ、存分に愛でていいぞ! ウィレマの代わりに」
「……殺すよ?」
全然可愛くないわ。
オッサンのくせになんて図々しい。
「お前如きにウィレマの代わりが務まると思うな!? フッ、だが折角だからウィレマの可愛さを延々と聞かせてやろう」
「……火に油を注いだか」
バルケスがバルザックという男だったことはそれなりに衝撃で、先のマークの件や閣下のことからどうしても身構えた部分が強かった。
この馬車内でのいい加減な遣り取りはバルケスとの学生時代のそれと変わらず、俺に彼と組むことへの安心感を抱かせてくれた。
バルザックは俺が思っている以上にデキル男だ。
だがこれから探るのは既に大分過去のこと。
しかも人員はふたり──なんとか上手く証拠を見付けねばならない。
実家にも『紹介したい女性がいる』旨の手紙を出した。
これを終えたら、ちゃんとプロポーズする。
(コレさえ片付ばなんの問題もない)
その筈だ。




