大事にしたいから。
ウィレマは緊張している様子だが、耳を撫で続けても拒むことはしない。
「──ピアス、開けていい?」
「は?!」
「婚約の記念にプレゼントする。 ピアスなら邪魔にならないだろ」
「アーヴィングが開けるの? やだよ怖い」
「優しくするから」
「な、なんかいやらしい……さっきから」
「否定はしない」
なんならさっきと言わず、ずっといやらしいことしか考えてないぐらいだ。
だが、なけなしの自制心を駆使し、ウィレマの柔らかい耳たぶと甘い香りを名残惜しみつつ、手と身体を少し離す。
(……ヤバいヤバい、暴走するとこだった)
まだ伝え足りていない。
『もう一人』──リリイベルの残滓は、話を聞いた限りでは中にいるというより外にいるというか、本当に『もう一人』が別にいるような感じだ。
どういうカラクリかはわからないが、ウィレマ本人に直接的に及ぼす影響は少ないように感じられた。
現に先程も『気持ちの靄』を割と客観的に語っているし、肉体も精々『涙を流す』とか『できないことができる』とかで、さしたる主導権はないというか。
それでも今のウィレマの容姿がリリイベルの姿であり彼女のコンプレックスならば、容姿に対する愛ももっと伝えるべきなのではないかと思うのだ。
『呪い』は『前世』とは言えないかもしれないが、それがウィレマ自身だと言うならば、それごと大事にしたい。
なにより俺は今のウィレマが好きだ。
変わってもきっと愛せるけど、できればこのまま……生活だとか年月だとか、そういうモノで変わっていくのを隣で見ていたい。
だから、
「否定はしないけど、我慢ならする。 大事にしたいから……ちゃんと意識して、俺のこと」
「アーヴィング……」
欲望も我慢も。
触れたい程好きなことも、大事にしたいことも、今まで言えなかった気持ちをこれからはなるべく素直に伝えるよう努力するから。
それを感じてくれれば、と思う。
受け止めるとかは先でいいから。
まずはそこからでいい──
そう、思っていたのに。
「──うっわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
なんとウィレマは寝間着のシャツを豪快に脱ぎ出したのだ。
咄嗟にクッションをウィレマの身体に押し付けて隠す。
「え、普通って脱ぐモノじゃないの?」
「大事にしたいって言ったよね俺! 今!!」
「でもホラ折角いやらしい気持ちになったんなら、確かめといた方がいいかなって、紋様」
そう言ってクッションをズラそうとするのを、すんでのところで止めた。
なにが折角なんだ、なにが。
「結局、結婚するならいずれはするわけで、できるかどうかのが大事っていうか」
「できるわ! できないワケあるか!!」
「私だって恥ずかしいんだ! こっちも勇気を出したんだからちゃんと確かめとけよ。 大体押さえつけるな苦しい、手をどけろ」
「馬鹿なの?! まずはちゃんと意識してって言ったばかりでしょ!」
「君は私の母親だったかな?!」
そもそもこの同棲も、かたちから入ればいいとは思っていたし、そのうち意識はしてほしいとはずっと思っていた。
だけどそりゃ身体からって意味では無い。
(……でもいいのか?!)
とはいえ身体から始まる恋愛もある。
(『今のウィレマ』を受け入れるってことは、勿論『胸に浮き出た紋様』も込みなわけで……)
それを本人が気にしているのなら、ここは有難く頂戴するべきなのか──だが、大事にしたい。
いやだがそもそも大事ってなんだ。(哲学)
この状況は既に合意なのでは。
(いやいやいやいや!!!!)
クッションで押さえ付けた下には、胸。
下着はあるかもしれないが、服はない。生肌。
生殺しにも程がある……葛藤が凄い。
「アーヴィング、手を離せって」
「クソッお前は本当に嫌な奴だ……一体俺をどうしたいんだ!?」
「ええぇ……」
ウィレマは困ったような変な顔をしたが、俺の方がもっと困っている。
「……確かに異性として意識してきたわけじゃないけどアーヴィングは好きだよ。 そうじゃなければ、お優しい閣下が同棲なんて強引に勧めるワケないだろう。 したら嫌でも意識するし、君はカッコイイからそのうち好きになるよ」
なにそれ褒め殺し?!
生殺しの次は褒め殺しなの?!
「俺はちゃんと気持ちが欲しいし伝えたい!」
「君が好意を示してくれたから、応えたいんだが……それじゃダメ?」
「順番がおかしい!!」
「今更じゃないか。 ……それに、いざ見たら、その、どうにもならんかもしれんだろう? 流石にそれは傷付くというか……いい機会だから確認しておきたいなって」
「~~ッ!」
そんなに真面目に言われたら、もう見るよりない。
これは決して疚しい気持ちからではなく、確認の為なのだ。
そう、これはウィレマの不安を取り除く為!
仕方ないのだ!!
「……見るだけ! だからな!! ありがとうございます!!」
「お、おう……」
「は、外すぞ……」
「いや溜めないでよ、余計恥ずかしくなるだろうが」
「それは逆に……ゲフンゲフン」
色々自重しながら、押し付けていた大きなクッションを持った手をゆっくり持ち上げた。(※溜めた)
「…………ッ」
服を捲り上げた状態の、ウィレマの左胸のところ。
そこにはくっきりとなにかの紋章のようなモノ──おそらく術式が描かれていた。
──が、そんなこたどうでもいい。
「どうかな──うぐっ?!」
俺は即クッションを戻していた。
「なにすんだよ!?」
「こっちの科白じゃボケ有難く受け取れ! 結構なモノを拝見致しました!!」
「はあ?!」
「クソッちょっと走ってくる!! ちゃんと隠しとけ!!」
「ええ?!」
残念というか幸いというか下着はつけていたが、そこには当然胸があった。
(っていうか胸があった……)
思ってたよりずっとあった。(※ガン見した模様)
確かに術式もあったがそんなモノより胸が重要。ただの胸ではない。好きな女の胸だ。
大小に貴賎はないしあまりこだわりもないが『思ってたよりあった』っていうのは心臓によろしくないことはわかった。胸だけに。
これはもう大変なことです。
しかもなんだかんだ、やっぱり恥ずかしそうに服を捲り上げていたわけですから、そりゃもう大変なことですありがとうございます。
その辺を猛然と走って帰ってくると、バツの悪そうな顔でウィレマが出迎えた。
「ええと……やっぱり気持ち悪かった?」
「気持ち悪くて走るか! 俺の行動が怪しいとご近所で噂になったらお前のせいだからな?! バッチリでしたけどなにか?!」
「そ、そう……」
「眼福でしたが?! もっと具体的に言いましょうか!?」
「い、いい!」
ウィレマは「なんだよその口調」と文句を言いながらも真っ赤になって俯いた。
新鮮な反応すぎてもう語彙は『クソ!』『可愛い!!』しか出ず、頭を抱えつつ回転し、そう宣いながらソファに倒れる。
「あ、アーヴィング、寝るなら寝室……」
「使えるか!! 襲うぞ!? いや襲わない!」
「ええと、その……なんかゴメン」
「とんでもございません!!」
ついでにそのまま寝ようとしたが、ウィレマの匂いがしてダメだったので結局床で寝た。
明日から寝室が使いづらくなったなぁ、とかちょっと思う。
ご高覧ありがとうございます!
再開初日に調子に乗って一話多く出したせいで、この回だけ予約が一日ズレてました……( ´ㅁ` ;)
またストックが溜まってからの更新となります。




