さりげない(つもりの)告白。
俺はとりあえず雰囲気のいいレストランをいくつか調べ、ウィレマを誘ったものの──
「う~ん、それよりいい肉を買いたい」
アッサリ断られた。
「……肉?」
「うん、肉」
実はウィレマは、料理が好きらしい。
本人もこれまで特に意識したことはなかったそうだが、新居となった部屋の使い勝手のいいキッチンに向かうのが楽しくて仕方ないのだとか。
「君は喜んで食べてくれるし、作りがいがある。 それに薬の量を減らせば多分イイ感じで酔えると思うから試してみたいし。 こないだ久しぶりに酔ってみて、『あ、お酒を酌み交わすのってなんだか楽しいなぁ』って……」
なにそれ可愛い。
しかも「ダメかな?」って小首を傾げられて、予想外のあざとい仕草に俺はもう寝首を搔かれた気分。
これはもう圧倒的にキュン死するやつ。
「……ダメじゃないわ阿呆!」
「うわっ?」
「なんだよ可愛いかよ~」
可愛いので、ウィレマを引き寄せ頭をグリグリ撫で散らかした。
この程度の『可愛い』とスキンシップなら、今までも何度か(ウッカリ)やった。任務完了時とかの高揚した時に。
辛うじて自然にできるだろうと思ってやってみて良かった。「やめい」って叩かれたけど。
(うん、できるな、スキンシップ)
これからこういうのをさりげなく増やしていきたいが、強いて言うなら甘味が足りない。
「糖分が不足している……」
「なに? デザートも欲しい人?」
「お菓子は作ったことないんだよなぁ」と真顔で呟くウィレマ。
『フフ、デザートは君さ☆』などとはちょっと言えない俺。
薬の調整がイイ感じだったらしく、ウィレマは適度に酔えたようで、いつもよりいい肉といつもよりいい酒にいつもよりご機嫌な様子。
「あ、ねぇ。 閣下に色々聞いてきた?」
他愛ない話で盛り上がる中、いきなり同じテンションでコレをぶっこんできたので、こっちが動揺し酒を吹きそうになってむせた。
「し、素面の時にしようかと思ってたんだが、今それ話す?」
「いや私も流石に聞きづらくてさ。 ほろ酔いぐらいの今がいい……婚姻の意思はまだある?」
「そこからかよ?! 当たり前だろ!」
「『呪い』は解いた方がいい?」
「別に……ていうか解かなくていい、お前が嫌でないなら。 俺にとってのウィレマはやっぱりお前だし、俺はその……お前の見た目も好きだ」
スマートとは言い難い告白をさりげなく(のつもりで)入れ込んだところ、ウィレマはその言葉に仄かに紅潮していた頬を更に赤く染める。
(あれッ?!)
──なんか予想外にもいい反応。
「なんだもう可愛いな? うんやっぱりそのままがいい! ウィレマは可愛い!」
嬉しくなりすぎた俺は『可愛い』を連発し、ウィレマは羞恥からか顔を隠すようにテーブルに突っ伏した。
(──はっ!! もっといい雰囲気に持ち込めるチャンスだったでのは……?! いや、今からでも遅くない……)
期待からのゴクリという自分の唾液の嚥下音がやたらと大きく感じ羞恥と緊張を煽る中、俺はウィレマに椅子ごと身体を近付け、頭をそっと撫でる。
「ウィレマ……」
異変に気付いたのは次の瞬間。
顔を上げたウィレマは泣いていた。
いや、涙を流していたと言うのが正しい、とすぐに知ることになる。
「なんで泣いてるんだよ?!」
「ああごめん、違うんだよコレは……」
ウィレマは苦笑しながら涙を拭うが、なかなか止まらない。
「私はこの顔割と好きなんだよ。 でも『もう一人』は結構辛い思いをしたみたいで。 彼女の記憶があるわけじゃないんだけど、名状し難い感情の靄みたいなモノが溢れてきて涙が止まらない」
「……」
「ありがとう、アーヴィング。 見た目も好きだと言ってくれて」
(ああそっか……ウィレマ自身が外界と触れ合えたのは、学園に入学してからだもんな……)
不幸中の幸いと言うべきか、そのことや『もう一人』の存在もあって、ウィレマは見た目に特別なコンプレックスを抱いていないようだ。
そこからポツポツと話してくれた内容でもそれが窺える。
「侍女になりたくなかったのはさ、単純に私自身が『向いてない』と思ったのもあったんだよね」
「ええ? でもお前淑女科での成績も……」
「うん。 だけどホラ、昔言ったことあったじゃない『女子の嫌味はこんなモンじゃない』みたいな。 ああいうのとか。 『もう一人』のスペックは高かったけど、私自身は全然ポンコツなモンだから……回転が遅すぎて上手く対応できないんだよ。 あと体力もなかったし」
ウィレマが『太らないようにしてた』理由もここで判明する。
「私は寸胴というか、骨盤が出てないモンだから腰回りをかさ増ししないと淑女として美しい体型に見えないんだ。 でもそうするとドレスが重くて……パンプスは痛いし」
太っても骨は変わらないので、その分かさが増えるだけ。なんならクリノリンに頼らねばならず、重量が増える上にこれまで必要としなかったコルセットによって腹回りも圧迫される。
体力作りになにをしたらいいかもよくわからないが、走るのは淑女的に問題があり、がむしゃらに勉強していた当時のウィレマには『そんな余裕自体なかった』という。
騎士なら基礎体力作りから始められると思ったそうだ。
「ふふ、ガッカリした?」
「え?」
正直に言うと、安堵していた。
立ち位置的な美を気にはしていても、くだらない外見至上主義には汚染されていなかったことに。
「またそれを言う……なんなの、それ」
「アーヴィングは私が『パトリシア様への恩義や忠誠心』から騎士になったと思ってただろ? 閣下の騎士となった以上、この身と剣は捧げたし、敬愛し恩義は感じているけれど……所詮、結果論だよ。 実際の私はそんな崇高な人間じゃない」
ウィレマはそう自嘲気味に笑って、手酌で酒を注ぐ。
俺はそれを飲もうとグラスを上げようとするウィレマの腕を、テーブルに柔らかく押さえ付けた。
「……ウィレマ」
「アーヴィング」
「そんなのどこが問題なんだよ? 崇高な気持ちで騎士になろうと決めて、ドロップアウトする奴がいくらでもいる中で、体力作りから入った癖に最後まで残っただけでも充分スゲェだろうが。 大体俺だってそんな崇高な気持ちで騎士を目指したワケでもない、それがカッコイイと思ってはいたけどそりゃただの憧れからであって──」
「…………アーヴィング?」
「……」
「アーヴィング……大丈夫か? 真っ赤だ」
「~~!!」
ウィレマから手を離し、グラスを奪うとそれを一気に飲み干し、背もたれにもたれながら片手で顔を隠した。
「やけにムキになると思ったら……酔った?」
「酔ってねぇ……お前、ハァ……何言ってんだよ」
俺の気持ちが知らずに伝わっていた羞恥とか、それが圧になっていたことへの罪悪感とか、色々な気持ちが混ざっていてぐっちゃぐちゃだが……ふつふつと沸き上がる、それを超す喜びが心を占めていた。
散々躊躇したのは。
酒の力を借りてまで話せなかったのは。
──俺に嫌われるのが怖かったからだ。
(……そういうことだよな?!)
多分、物凄く俺はウィレマから好かれている。
それが恋愛かは別としても、そう自惚れざるを得ない。
「あーもうッ!」
俺は立ち上がり、ウィレマを持ち上げる感じで抱き上げ、その場をグルグル回った。
「ちょっ、アーヴィング!?」
「お前はどんだけ可愛いんだ?! マジでムカつくわ!!」
「はぁ?! やめっ……回る!! 酔いが!」
そのままソファに座り、肘掛けにグッタリもたれたウィレマの頭を撫でた。
「ウィレマ」
「……なに」
「お前のグレーの髪、真っ直ぐでサラサラしててイイよな。 好きだ」
「はは、ありがとう。 実は私も好きなんだ、『もう一人』は量がもっと多くて纏めやすい髪が良かったみたいだけど、癖がつかないのも量が多くないのも手入れが楽でいい」
暫く髪を梳くように弄った後、耳に掛けながら今度は耳を撫でる。
「ひゃっ?!」
「耳の形もいい」
「……そ、それは気付かなかったな」
「可愛い……好きだ。 耳も、顔も、全部」
耳元でそう囁くと、ウィレマは一瞬全身を小さく震わせ、少し身構えたようだった。




