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外見至上主義ではなくともこだわりはある。


閣下はジョッシュになにも話していないらしい。

その上で、「自分の知らないところで『呪い』という話がウィレマに付き纏っていてもおかしなことではない」──と、不愉快そうに眉根を寄せた。


「ふたりは南部出身であちらは貴族派が強い。 その影響は魔術師への差別だけじゃないから……」

「どういうことです?」

「所謂外見至上主義(ルッキズム)と男尊女卑よ。 ルヴェール子爵の婚姻にこれといった醜聞がつかなかったのもそう」


権力者が権力者たらんと見せ付ける為に、特に後に貴族となった魔術師達との差をよりわかりやすくする為に。男性に強く求められたのが経済力や腕力などの物理的な力であり、女性は美しさ──

女性が爵位を持つこともできるが、南部では有り得ないと言っていいのは、そういう背景があるからだそう。

北部辺境で育ち、王都(中央)までしか殆ど関わりのない俺は、『南部は貴族派が多い』程度の浅薄な知識しかなかったが、それも仕方ないことだと言う。

結束の高い南部貴族が中央で上手く立ち回るのに、わざわざそれをひけらかす理由はないのだから。


「リリイベルは大事に育てられたみたいだけれど、家がそうでも周囲は厳しかったんじゃないかしら。 第一子で優秀なリリイベルの婚約者に現ルヴェール子爵が選ばれたのも、一番は見目だと思うわ。 前子爵はよかれと思って選んだ麗しい婚約者が、まさか家を乗っとる算段を整えていたとは思わなかったんでしょうね」


前子爵の先妻(ははおや)が魔術師であったことに加え、リリイベルの容貌が美貌の義妹・ナターシャに比べて著しく劣っていたことは子爵夫妻にとって都合が良かったに違いない、と閣下は言う。


「ジョッシュが不向きにも関わらず『騎士に』という圧が強かったのも、美しさからの過度な期待でしょうね。 そんなだから彼は余計にウィレマは気になる存在だったとは思うの……だから」


子爵夫妻に似てい(うつくしく)ないことで冷遇され、女だてらに騎士を選んだウィレマ。

美しさ故に過度な期待をかけられ、騎士への道を押し付けられたジョッシュ。


ふたりの境遇は、正反対でありながらどこか似通っている。どちらも酷く歪な環境であり、それに対する反抗心もあったのかもしれない。


「アーヴィング、ジョッシュには私から注意をしておくわ。 不愉快だろうけど許してあげて……彼、貴方に憧れているのよ」





(そりゃ流石に俺でもわかる……)


閣下は真面目に、なんなら沈痛な面持ちでそう言ったけども。俺としては苦笑しか出てこない。


ジョッシュはいいヤツだと思うし、こっちとしてもいい友人でありたいと言うのに『友人』と言うにはちょっと対等でないというか……


(まあ悪い気はしないんだけど、本音を言いづらいんだよな……)


とはいえ俺だって別に、コイツが嫌いなワケじゃない。

慕ってくれるのは純粋に有難いし、後輩みたいなモノだと思えば可愛いと言えなくもない。実際、他の友人達より優しくしたいと思えるくらい……ウィレマのことがなければ。


こうして素直に謝られ、閣下の話した複雑な環境事情ともそれなりに一致したことを言っているのに、それでも許せない程、俺は狭量ではない。

それに嫌だったことになんとなく理由がついたことで、気持ちは大分軽くなっている。


「……良かったら、コレ」


だがジョッシュの方はまだ気が済まないらしく、「せめてものお詫びに」となにかの券を寄越した。


「仕事の伝手で貰ってさ。 頂きモノで悪いんだが、評判はいいらしい。 彼女を連れて行くといいよ」

「なんか逆に悪いな……」

「どうせ生徒にでもあげるつもりだったんだ、君との仲直りに使えるなら最高だよ」


恥ずかしげもなくそう言って笑うのにまた苦笑しつつも、有難く受け取り礼を述べた。





くれたのは新しくできた劇場での舞台公演チケット。『仕事』というからには舞台装置や警備の為の魔道具管理とか、そういう感じなんだろう。


「仕事、順調そうだな」

「お陰様で、研究費をケチらなくて済むくらいにはね。 落ち着いたらソーン卿にも会ってみたいな」

「お前顔がいいからなぁ……ちょっと心配だよ」

「はは、あまり惚気ないでよ」


他愛ない話を少し交わす中、学園の鐘がそれを遮る。

最初の授業が始まる30分前の予鈴。朝の鍛錬を切り上げるのに使っていた、懐かしい音だ。


「ああ、引き留めてゴメン。 それじゃ」


軽く手を上げてから、ジョッシュは爽やかに学舎の方に向かう。講師もしているらしいので、授業なのだろう。


マキシムの引き綱を馬留めから外しながら、なんとなく彼を見ていると、学舎の公開部の柱の影から女の子が出てきてジョッシュに小走りで駆け寄るのが見えた。

挨拶したいが為に待ち伏せていたんだろうか。


ぎこちない仕草でなにかを話した後、すぐに居なくなった。

さしずめ『憧れのセンセイ』ってところか。

なかなか甘酸っぱい光景だ。


(やっぱり顔がいいだけある……)


まあ頭もいいし、物腰も柔らかいジョッシュが、女子生徒から憧れられない方がおかしい。





──閣下の呪いを解くことへの躊躇は、子爵家の問題と南部貴族の強い外見至上主義的差別だけではなく、誰もが抱く外見へのこだわりが絡んでくる。

だから閣下は俺にこう問うたのだ。


「アーヴィングはウィレマの容貌についてどう思う?」

「俺は好きです。 あの姿が」

「もしも別人のように変わってしまったら?」

「──」


その質問に、俺はすぐに返事ができなかった。


どんな姿でも愛せる、とは思う。

だが醜くなるなら兎も角、『別人のように(・・・・・・)美しくなる』場合、逆にとても戸惑うような気がするのだ。


見た目が良くなったから愛するようになった、と思われたくなくて。





ジョッシュに貰ったチケットを胸ポケットに忍ばせ、マキシムに跨る。


折角貰ったチケットだが、これから同時に休暇を申請することを思うと休んで行くのは少々気が引ける。

夜の公演なら間に合うだろうが、多少着飾ることだしどうせなら休みの日がいい。


(被ってる休みってあったっけな~)


昨日文官兄さんと事務のお姉さんに言われたことが、今の最適解な気がしている。

色々と考えなければならないにせよ、今は恋人らしいことがしたい。


俺はウィレマにもっと、好意を伝えなければいけないのだ。

──今のウィレマに。


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― 新着の感想 ―
[一言]  ああ、外見がよくなった途端に優しくされるとか嫌ですねぇ
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